
発売日: 2019年1月25日
ジャンル: ポップ、アダルト・コンテンポラリー、エレクトロ・ポップ
『DNA』は、Backstreet Boysが2019年に発表した9作目のスタジオ・アルバムであり、グループ結成から25周年を迎えた節目の作品である。
本作のタイトル“DNA”は、まさに彼ら自身の音楽的本質――すなわち「ハーモニー」「誠実なポップ感」「多様な個性の融合」――を象徴している。
“僕たちの中に流れる音楽的遺伝子(DNA)をもう一度確認する”という意味を込めたこのアルバムは、90年代の栄光を懐かしむものではなく、成熟した今の彼らが“Backstreet Boysとは何か”を再定義した作品なのだ。
5人が再集結してから2作目となる『DNA』は、プロデューサー陣にStuart Crichton、Steve Solomon、Shawn Mendesとの共作者でもあるRyan Tedderらを迎え、現代的なポップ・サウンドとグループの伝統的ハーモニーを融合させている。
その結果、往年のファンにとっては懐かしく、若い世代には新鮮に響く――という、稀有なバランスを実現している。
3. 全曲レビュー
1曲目:Don’t Go Breaking My Heart
アルバムの幕開けを飾るリードシングル。
壮大なシンセサイザーとビートが交錯するエレクトロ・ポップの名曲であり、“心を壊さないでくれ”という直球のメッセージがサウンドの透明感と共鳴する。
Ryan TedderとStuart Crichtonによる洗練されたプロダクションが光り、AJの深みあるボーカルとブライアンの伸びやかな声が完璧に噛み合う。
グラミー賞にもノミネートされたこの曲は、まさに“Backstreet Boysはまだ健在だ”という宣言のように響く。
2曲目:Nobody Else
アコースティック・ギターのリズムと電子音が融合する、フォーク・ポップ調の楽曲。
恋人への特別な想いを穏やかに描く一方で、“他の誰でもない君”という歌詞には、グループのアイデンティティを象徴するような普遍性がある。
軽やかなビートが都会的で、2010年代後半のポップの空気感を的確に捉えている。
3曲目:Breathe
ブライアンがリードを務める美しいアカペラ曲。
バックトラックを一切排除し、5人の声だけで構成されている。
息遣いや間の取り方まで計算されたコーラスワークは圧巻で、まさにBackstreet Boysの“声という楽器”の真価を示すトラックである。
25年のキャリアを経た彼らだからこそ出せる、静かな威厳に満ちている。
4曲目:New Love
ファンクとR&Bをブレンドしたセクシーなナンバー。
ベースのグルーヴが強く、ニックとAJの低音が映える。
“新しい愛”というテーマを遊び心をもって描いており、グループの成熟した大人の色気が感じられる。
5曲目:Passionate
タイトルの通り情熱的な楽曲で、アコースティックギターのリズムとハンドクラップが軽やかに跳ねる。
ラテンポップ的な陽気さがあり、ツアーでも観客との一体感を生む曲として人気が高い。
“情熱を失わない”というメッセージが、彼らのキャリア全体にも重なる。
6曲目:Is It Just Me
恋愛のすれ違いをテーマにした切ないバラード。
“僕だけがまだ君を想っているのか?”というタイトルの問いかけが心に残る。
ケヴィンの落ち着いたトーンとハウイーの優しい声が絶妙に溶け合い、深い余韻を残す。
7曲目:Chances
OneRepublicのRyan TedderとShawn Mendesが共作した、アルバム中でも屈指のメロディアスな楽曲。
偶然の出会いをテーマにしたロマンティックな歌詞が特徴で、“What are the chances?”(あの時出会えた確率はどれくらい?)というフレーズが美しく響く。
サビの展開は圧倒的なスケールを持ち、現代ポップの洗練とBsbらしいハーモニーが完璧に融合している。
8曲目:No Place
家族や愛する人との“居場所”をテーマにした心温まるナンバー。
メンバーの実生活(結婚・子ども)と重なる内容で、リリックビデオでは実際の家族映像が使用された。
“どんな場所にも君のような場所はない”という歌詞が、穏やかな幸福感を運んでくる。
9曲目:Chateau
静かなピアノとストリングスに包まれた、ロマンティックで大人びたバラード。
別れの痛みを高級ホテル=“シャトー”のメタファーで表現しており、シネマティックな雰囲気を持つ。
特に中盤のコーラスの重なりが美しく、彼らのコーラス・アレンジの緻密さが際立つ。
10曲目:The Way It Was
軽快なテンポで、90年代Bsbを彷彿とさせる懐かしさを漂わせる。
“あの頃のように戻りたい”というテーマが、ファンの心を掴む。
とはいえ懐古的ではなく、現在の音像で再構築されている点が魅力だ。
11曲目:Just Like You Like It
ジャズやファンクの要素を取り入れた遊び心のあるトラック。
大人の余裕とウィットに富んだ歌詞が光り、ライブでは軽やかなムードを作る。
メンバーそれぞれの個性が交互に立ち上がる構成がユニーク。
12曲目:OK
アルバムを締めくくるにふさわしい、前向きなメッセージソング。
“どんなことがあっても大丈夫(OK)”という言葉がリスナーを包み込む。
アップテンポながら温かい余韻を残し、25周年を迎えた彼らの「これからも続く旅」を象徴するエンディングである。
4. 総評(約1300文字)
『DNA』は、Backstreet Boysが“レジェンド”としてではなく、現役のポップ・アーティストとして新たに自己定義を行ったアルバムである。
タイトルが示す通り、彼らの音楽的な本質=DNAを改めて可視化することが目的であり、過去・現在・未来を一本の線でつなぐような構成になっている。
サウンドの方向性は、前作『In a World Like This』(2013)のアコースティック中心のアプローチから一転し、モダンなエレクトロ・ポップを基盤にしている。
とはいえ冷たく機械的な音ではなく、温かみと人間味を保ったミキシングが特徴的だ。
これにより、“声”の質感がより浮かび上がり、グループ最大の武器であるハーモニーが際立つ。
また、本作では各メンバーの個性がより明確に分担されている。
AJの深み、ブライアンの透明感、ニックの情熱、ハウイーの繊細さ、ケヴィンの重厚さ――それぞれの声が異なる表情を見せながら、全体として統一感を保つ。
まさに“個のDNAが集まってBackstreet BoysのDNAとなる”というコンセプトが音そのもので体現されているのだ。
特筆すべきは、楽曲構成の緻密さである。
“Don’t Go Breaking My Heart”や“Chances”のような現代的なポップ・ソングと、“Breathe”や“No Place”のような心温まるアコースティック曲が、見事なバランスで並ぶ。
この対比がアルバム全体に“時間の流れ”を感じさせ、25年というキャリアの重みを自然に表現している。
歌詞面では、「愛」「絆」「再生」という彼らの定番テーマが、より大人の視点から語られている。
“愛は壊れやすいけれど、それでも信じたい”というメッセージは、グループの歴史そのものを投影しているようでもある。
かつての“永遠の愛を信じる少年たち”から、“現実を知りながらも希望を捨てない大人たち”への変化――それこそが『DNA』の核心である。
本作の成功によって、Backstreet Boysは再び全米1位を獲得。
1999年の『Millennium』以来、約20年ぶりの快挙となった。
この数字は単なるノスタルジーではなく、彼らが“今の時代のポップ”として通用する音を作り上げた証拠である。
かつてのアイドルが、成熟したアーティストとして第二の黄金期を迎える――その奇跡を現実にした作品、それが『DNA』なのだ。
5. おすすめアルバム(5枚)
- In a World Like This / Backstreet Boys (2013)
アコースティック中心の前作。『DNA』との対比で彼らの進化が分かる。 - Millennium / Backstreet Boys (1999)
グループ最大のヒット作。『DNA』の原点とも言える“ハーモニーの美学”がここにある。 - Unbreakable / Backstreet Boys (2007)
内省的なアダルト・ポップとしての転換点。『DNA』の成熟した側面のルーツ。 - Delta / Delta Goodrem (2007)
同じくポップとバラードの融合が美しいアルバム。メロディ志向のリスナーにおすすめ。 - Future Nostalgia / Dua Lipa (2020)
現代ポップの最前線を感じたい人に。『DNA』が狙った“クラシック×モダン”の融合を理解できる一枚。
6. 制作の裏側
『DNA』の制作では、メンバーそれぞれが積極的に作曲や選曲に関わった。
特にケヴィンとAJはコンセプト設計に深く関与し、「個々の声をどう活かすか」を軸にアルバムを構成。
レコーディングは主にロサンゼルスとナッシュビルで行われ、デジタルプロダクションと生楽器を巧みにブレンドする試みがなされた。
また、プロモーション面では“DNA World Tour”が世界規模で展開され、90年代からのファンのみならず新世代リスナーを取り込むことに成功。
ツアーの演出でも、最新のLED演出とクラシックなダンス・パフォーマンスが融合し、アルバムのテーマがライブでも再現された。
7. 歌詞の深読みと文化的背景
『DNA』がリリースされた2019年は、音楽業界全体が“再結成とノスタルジー”に沸いていた時期である。
だがBsbはその流れに乗るだけではなく、“懐かしさの中に今を生きる”という方法でポップ・ミュージックのあり方を再定義した。
「Don’t Go Breaking My Heart」のフレーズ“Don’t let me down(僕を失望させないで)”には、愛だけでなく“音楽への信頼”も重ねられているように感じられる。
このアルバムは、単なるファン向けの回顧作ではなく、“生涯アーティストとして生きる”という宣言のような作品なのだ。
8. ファンや評論家の反応
リリース直後、世界中で絶賛された。
アメリカではBillboard 200で初登場1位、日本でもオリコン洋楽チャート1位を記録。
批評家からは「完璧なバランス感覚」「過去と現在を見事に融合した傑作」と評価された。
特にアカペラ曲“Breathe”とエレクトロ・ポップ“Don’t Go Breaking My Heart”の対比は、“Backstreet Boysの多様性を体現した名演”として語り継がれている。
結論:
『DNA』は、Backstreet Boysが25年を経て“自分たちの原点と進化”を同時に鳴らしたアルバムである。
それは懐古でも挑戦でもなく、“存在証明”そのもの。
変わらない声、変わり続ける音――その両方を抱きしめた時、彼らのDNAは再び息を吹き返したのだ。



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