
発売日:2015年1月9日
ジャンル:Pop / Doo-Wop / R&B
概要
Meghan Trainorが2015年に発表したメジャー・デビュー・スタジオ・アルバムがTitleである。Trainorはそれ以前にも自主制作作品を発表していたが、Epic Records移籍後の世界的な出発点となったのが本作だった。中心的な共同制作者はKevin Kadishで、Trainor自身も全曲のソングライティングに参加している。先行シングル「All About That Bass」の大ヒットによって、彼女の低く親しみやすい声とレトロなポップ感覚が一気に広く知られることになった。
サウンドの大きな特徴は、1950〜60年代のドゥーワップやガール・グループの語法を2010年代のポップ制作へ移したことである。手拍子、指を鳴らす音、ウッドベース風の低音、サックス、複数の声による「doo-wop」系のコーラスを使いながら、低域は現代的に太く、リズムもヒップホップやR&Bに接近している。完全なレトロ再現ではなく、「昔のラジオから聞こえそうな旋律」と2010年代の音圧を意図的に同居させている。
歌詞では自己肯定、恋愛、相手に求める条件、失恋などを非常に直接的な言葉で扱う。Trainorは受け身の恋愛主人公より、自分から条件を示したり、不誠実な相手を拒絶したりする人物を多く歌う。一方で、男女関係や身体についての表現には単純化された部分もあり、「All About That Bass」を含め、その自己肯定の方法をめぐって賛否も生まれた。キャッチーさと強いキャラクターを優先した作詞は、本作の魅力であると同時に限界にもなっている。
全曲レビュー
1. 「The Best Part (Interlude)」
短いアカペラのハーモニーから始まり、Trainorの音楽的なルーツを最小限の形で示す。楽器をほとんど使わないため、複数の声を重ねたドゥーワップ風の響きそのものが前へ出る。大きなイントロで期待を高めるのではなく、昔のコーラス・グループが歌い始めたような親密さを作るのが狙いだ。続く「All About That Bass」で、この声のレトロ感が現代的な低音と結びつく。
2. 「All About That Bass」
太いベース、手拍子、簡潔なピアノ、ドゥーワップ風コーラスを組み合わせた、Trainorのブレイク曲である。メロディは子供でも口ずさめるほど単純で、同じフレーズを反復することで強い記憶性を作る。歌詞は細身を理想とする美的基準へ異議を唱え、自分の身体を肯定する方向へ進むが、その過程で別の体型を引き合いに出す表現には批判もあった。解放的なメッセージと単純化が同居するところまで含め、本作の性格を象徴している。
3. 「Dear Future Husband」
未来の夫へ、自分と付き合うための条件を次々と提示するコミカルなラブソング。ピアノ、手拍子、明るいコーラスによる60年代ガール・グループ風の音に対し、歌詞ではTrainor側が主導権を握る。この新旧のずれが曲の面白さだが、恋愛や夫婦の役割をかなり定型的に描いている部分もある。Trainorの強気なキャラクターを、アルバム中でも特に分かりやすく演出した曲である。
4. 「Close Your Eyes」
テンポを落とし、声の表情を中心に聞かせるバラードへ移る。外見に対する周囲の評価より、自分自身の価値を認めようという内容で、「All About That Bass」の自己肯定をより穏やかな言葉へ置き換えたような曲だ。Trainorは派手な高音を連発せず、少しハスキーな中低音を生かして旋律を運ぶ。装飾を減らしたことで、彼女がレトロな仕掛けだけに依存した歌手ではないことも分かる。
5. 「3am」
深夜3時、連絡すべきではない相手へ電話やメッセージを送りたくなる衝動を描く。強気な主人公が多い本作の中では珍しく、ここでは未練に負けそうになる弱さが前面へ出る。R&B寄りのゆったりしたビートを使い、ドゥーワップ色も控えめなので、歌詞の夜らしい孤独が自然に伝わる。「相手を必要としない」と言い切るだけではないことで、アルバムの恋愛描写に少し奥行きを加えている。
6. 「Like I’m Gonna Lose You」
John Legendを迎えたデュエットで、相手が永遠にそばにいるとは限らないから、失う可能性を意識して愛そうと歌う。ピアノと控えめなリズムから始まり、二人の声を中心にゆっくり広がる構成は、派手なシングル群とは対照的である。Trainorの丸い低音とLegendの滑らかな歌唱も相性がよい。強い態度より不安を出発点にすることで、本作でも特に素直なラブソングになった。
7. 「Bang Dem Sticks」
ドラムを演奏する男性への欲望を、打楽器にまつわる言葉遊びで描いたファンキーな曲である。パーカッションを前面へ出したビートと半ばラップのようなボーカルによって、メロディよりリズムを楽しませる。性的な含みを隠すつもりのないユーモラスな歌詞も、Trainorの茶目っ気を強調する。レトロ・ポップ一辺倒になりかけた中盤で、ヒップホップ/R&B寄りの身体性を持ち込む曲だ。
8. 「Walkashame」
前夜の出来事の後、同じ服のまま帰宅する「walk of shame」を題材にしながら、本人を必要以上に恥じさせない方向へ話を転換する。軽快なピアノとホーン、跳ねるビートによって失敗談を深刻な告白ではなくコメディとして聞かせる。Trainorの歌唱も話しかけるようなリズムを重視しており、短いフレーズが次々と転がる。日常的な失敗を自己否定へ結びつけないという点では、本作の自己肯定の別バージョンである。
9. 「Title」
「友達以上なのに恋人として扱われない」曖昧な関係を拒み、正式な肩書きを求めるタイトル曲。ウクレレを思わせる軽い弦の響きとレトロなコーラスを使い、要求の強い歌詞を陽気に聞かせる。Trainorは相手へ一方的に尽くすのではなく、関係をはっきりさせるよう迫るため、恋愛における主導権という本作のテーマがよく見える。言葉とメロディの覚えやすさを優先したコンパクトなポップだ。
10. 「What If I」
恋が始まりそうな瞬間の期待と不安を、50年代のスロー・ダンスを思わせる甘いアレンジで描く。大きなビートを避け、柔らかなコーラスとゆっくりした旋律を使うため、アルバムの中でも特に古典的なポップへ近い。歌詞では強気に条件を提示するのではなく、「もしも」と可能性を考える段階に留まる。その控えめな態度によって、前後のキャラクター性の強い曲とは違う表情が生まれている。
11. 「Lips Are Movin」
軽快なギター、手拍子、太いベースを組み合わせ、不誠実な恋人の嘘を見抜く場面をアップテンポで描く。「唇が動いているなら嘘をついている」という極端な決めつけを、そのまま大きなフックにした曲である。Trainorのボーカルは会話のようなヴァースから一気に歌えるサビへ移り、コーラスも合いの手として働く。「All About That Bass」と同じレトロ/現代ポップの組み合わせを、より鋭い別れの歌へ応用している。
総評
Titleの成功を支えているのは、ドゥーワップや60年代ガール・グループの要素を、単なる懐古趣味にしなかったことである。コーラスや手拍子だけを聞けば古風だが、ベースは大きく、ボーカルは現代のポップらしく近く録られている。ヒップホップ的な言葉の置き方も頻繁に使うため、昔のスタイルを再現する作品というより、過去の記号を2010年代のラジオ向けポップへ組み直した作品になった。
Trainor自身の声も、この組み合わせに適している。非常に高い音を武器にするタイプではなく、少しハスキーで厚みのある中低音を使い、会話に近いリズムからメロディへ自然に移る。「Dear Future Husband」の芝居がかった強気さと「Like I’m Gonna Lose You」の柔らかさを同じ声で成立させられるため、アルバムのレトロなキャラクターが単調になりにくい。
歌詞については評価が分かれる部分も明確である。自分の身体や要求を肯定し、不誠実な相手へ遠慮しない姿勢には、本作を爽快にする力がある。一方、そのメッセージを一瞬で伝わるフレーズへ圧縮した結果、身体像や男女関係を別の固定観念で説明してしまう曲もある。この単純さは弱点であると同時に、Trainorが短期間で強烈なポップ・キャラクターを確立できた理由でもある。
2010年代半ばにはEDMやシンセ中心のポップが大きな存在感を持っていたが、Titleはそこへウッドベース風の低音、手拍子、ドゥーワップ・コーラスという異なる音色を持ち込んだ。音楽史を塗り替えるほど新しい語法を作ったわけではないものの、古いアメリカン・ポップの形式を現代のビートと自己主張の強い歌詞へ接続した方法には明確な個性がある。Trainorの初期イメージを決定すると同時に、その長所と限界まで鮮明に記録したデビュー作である。
おすすめアルバム
Thank You by Meghan Trainor
2016年の次作。レトロなドゥーワップへの依存を減らし、ファンク、R&B、ダンス・ポップへ範囲を広げた。Titleで確立した強気な歌詞と低い声を残しながら、Trainorが初期イメージから離れようとした変化を聞ける。
Back to Black by Amy Winehouse
2006年作。60年代ガール・グループやソウルの語法を現代的な制作と結びつけ、レトロ・ポップ再評価の大きな流れを作った作品。Titleよりはるかに暗いが、古い音色を同時代のポップへ翻訳する方法で比較できる。
Made in the A.M.
2015年作。同時代のメインストリーム・ポップでありながら、60〜70年代のロックやポップを思わせる旋律とハーモニーを積極的に取り込んだ。Titleとは参照する時代が異なるが、過去のポップ語法を若い聴衆へ接続する点で共通する。
Yours Truly by Ariana Grande
2013年作。90年代R&Bを基盤に、ドゥーワップやクラシックなポップの感触も取り込んだメジャー・デビュー作である。Trainorより歌唱は技巧的だが、レトロなハーモニーを2010年代のラジオ・ポップへ組み込む点が近い。
21 by Adele
2011年作。ソウルや古典的なポップの作曲法を現代的な録音で聞かせ、派手な電子音に頼らず巨大な成功を収めた作品。Titleより感情表現は重いが、明快なメロディと昔ながらの歌の形式を現代へ持ち込んだ点で関連性がある。

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