発売日: 2020年5月1日(US)
ジャンル: R&B、オルタナティブ・ソウル、ネオ・ソウル、アーバン・コンテンポラリー
概要
『Good to Know』は、JoJoが自身のレーベル(Clover Music / Warner Records)からリリースした通算4作目のスタジオ・アルバムであり、音楽的にも精神的にも“成熟”を深く体現したR&B作品である。
前作『Mad Love.』(2016年)でキャリア再始動を遂げた彼女は、今作でより内省的かつ洗練された方向へ舵を切り、“セルフラブと自省”を軸に据えた音楽的セルフポートレートを描き出した。
タイトルの『Good to Know』は、「知っておいてよかったこと」や「知ったことで手放せたこと」を意味し、過去の傷や関係性、依存からの脱却をテーマとしている。
プロデュースにはLido、Doc McKinney(The Weeknd)、Noise Clubらが参加し、メロウで洗練されたミニマルR&Bサウンドが全編にわたってJoJoの深いヴォーカルと絶妙に調和している。
全曲レビュー
Bad Habits
アルバム冒頭を飾る、自身の“繰り返してしまう悪癖”を告白するミッドテンポのR&Bナンバー。
JoJoは自分の弱さを隠すことなく歌い上げ、誠実なトーンでアルバム全体のテーマを導入する。
So Bad
セクシュアルで危うい愛を描いたトラック。
ミニマルなシンセとJoJoの囁くような歌声が、夜の気怠さと緊張感を映し出す。
サウンドも構成も非常に洗練されており、The Weekndの影響も感じられる。
Pedialyte
タイトルが示すように「補水液=回復」の隠喩を用いたユニークなコンセプトの楽曲。
“昨日の傷を癒す”というテーマを軽やかなビートとともに語り、苦味の中にポップな感触を残す。
Gold
自己価値を見失わずに立ち上がるという、アルバムの核心メッセージを含んだバラード。
JoJoの圧巻のボーカルとソウルフルなアレンジが、聴く者の心を照らす。
Man
「私にふさわしい相手は、私のように強く、賢く、誇りを持った人」と歌う、自信と自立をテーマにしたアンセム。
JoJoはここで「私は一人でも満たされている」と明言し、恋愛依存からの解放を堂々と表現。
Small Things
繊細なピアノとストリングスを中心とした、泣きたくなるほど美しい失恋バラード。
「小さなことの積み重ねが、最終的に壊れてしまった理由」というテーマを、言葉の余白と沈黙で語る名曲。
Lonely Hearts
セクシュアルな魅力を持ちながら、実は“孤独と向き合う決意”を描いた複層的トラック。
JoJoは誘惑に流されない自己制御を見せ、精神的な“強さ”を選び取る姿勢を歌う。
Think About You
中毒のような恋を振り切れない葛藤を描いたR&Bバラード。
JoJoの声が、過去に戻りたい気持ちとそれを断ち切りたい思いの板挟みをリアルに描写する。
Comeback(feat. Tory Lanez & 30 Roc)
官能的なトラックとエッジの効いたビートが印象的な、アルバム中もっとも大胆なナンバー。
Tory Lanezとの共演により、セクシュアリティと情熱のリアルな交錯が描かれる。
Don’t Talk Me Down
「私を止めないで」という訴えと、“自分の意思で終わらせる”という決意を歌った終盤のハイライト。
感情が極限まで高まる構成が圧巻で、JoJoの魂の声が響く。
総評
『Good to Know』は、JoJoが過去の痛みと向き合い、“自分にとっての真実と美しさ”を発見していくアルバムである。
ポップスターとしての復帰を果たした『Mad Love.』に対して、本作は**内面の癒しと再構築に焦点を当てた、静かで力強い“内省のアルバム”**と言える。
音楽的にはネオ・ソウル/R&Bの文脈に根ざしながら、極限まで削ぎ落としたプロダクションと、JoJoの圧倒的な表現力が調和し、聴く者を“JoJoの心の部屋”に招き入れるような親密さを持つ。
この作品は、派手なヒットを狙ったものではない。
むしろ「自分を取り戻すために作られた音楽」であり、そのことがすべての音に刻み込まれている。
『Good to Know』は、JoJoの人生そのものを音で描いた“静かなる傑作”であり、聴くことで自分の内面とも向き合うことになるような濃密な体験を与えてくれる。
おすすめアルバム(5枚)
- Snoh Aalegra / Ugh, Those Feels Again
感情のリアリズムを追求したR&Bの傑作。JoJoの作風と響き合う。 - H.E.R. / I Used to Know Her
自己発見と感情の繊細な描写が共通する、現代R&Bの代表作。 - Jazmine Sullivan / Heaux Tales
女性のリアルな視点で語る自立と愛。JoJoのメッセージ性と近い。 - Kali Uchis / Isolation
ジャンル横断的なソウルとラテンの融合。自分を肯定する強さが共通点。 - Kehlani / It Was Good Until It Wasn’t
恋愛の痛みと自己再構築を描いたコンセプトがJoJoと重なる。
歌詞の深読みと文化的背景
『Good to Know』のリリックは、恋愛の快楽と痛み、自己欺瞞と気づき、孤独と自立といった大人の女性としての感情の複雑さを率直に描き出している。
JoJoはもはや“ティーン・ポップ”の象徴ではない。
彼女はここで、“自分を許し、自分を信じる”という、成熟のプロセスそのものを音楽で描写している。
たとえば「Man」では自己肯定、「Small Things」では繊細な傷、「Comeback」では欲望の正直さ、「Don’t Talk Me Down」では関係の終焉への主導権を描いている。
すべての曲に共通しているのは、自分の感情をジャッジせず、ただ観察し、受け入れるという強さである。
『Good to Know』とは、JoJoが自分自身に伝えた「知ってよかったこと」であり、その学びを音楽に変えて共有してくれる、リスナーへの深い贈り物なのだ。
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