
1. 歌詞の概要
「Alejandro」は、Lady Gagaが2010年にリリースしたシングルであり、アルバム『The Fame Monster』に収録されている楽曲のひとつである。この曲は、複数の恋人たちとの関係を過去のものとして葬り去ろうとする主人公の姿を描いた、ある種の別離の歌である。タイトルにもなっている「Alejandro」という名前は、愛した男たちの象徴であり、彼女が一人ひとりに別れを告げていく儀式のような構造を持っている。
一見すると、恋愛の終焉に対する決然とした態度が語られているように思えるが、その裏には愛への未練や、複雑な感情の断片が見え隠れする。過去の愛を忘れようとするその行為は、果たして本当に自由への歩みなのか、それとも逃避なのか――その問いかけが、曲全体に静かに流れている。
「私は彼を愛していないの」と繰り返しながらも、どこか痛々しさを帯びた声で綴られる歌詞は、愛と離別、忘却と執着といった、人間の根源的な感情の交錯を映し出している。
2. 歌詞のバックグラウンド
この楽曲は、Lady Gagaがツアー中に感じた愛情への飢えや、孤独に基づいて書かれたと言われている。『The Fame Monster』というアルバム全体が、名声によってもたらされる“恐怖”をテーマにしており、「Alejandro」はその中でも「恋愛への恐れ」や「愛からの逃避」というテーマを担っている。
プロデューサーにはRedOneが起用され、1980年代のユーロポップやスウェーデンのエレクトロニカ、さらにABBAやAce of Baseといった北欧ポップの影響が色濃く感じられるサウンドに仕上げられている。ミッドテンポでじわじわと染み込むようなリズムと、物悲しさを湛えたメロディが、歌詞の内容と絶妙に呼応している。
この曲は、ラテンアメリカ的な男性像を象徴的に用いつつ、Gaga自身の複雑な愛情観や、恋愛における精神的な葛藤を描いたパーソナルな作品でもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Alejandro」の印象的な歌詞の一部を英語と日本語で紹介する。
I know that we are young, and I know that you may love me
私たちは若いし、あなたが私を愛しているかもしれないこともわかってるBut I just can’t be with you like this anymore, Alejandro
でも、もうこれ以上、こんな風には一緒にいられないの、アレハンドロShe’s not broken, she’s just a baby
彼女は壊れてなんかいない、ただの少女なのDon’t call my name, don’t call my name, Alejandro
名前を呼ばないで、呼ばないで、アレハンドロI’m not your babe, I’m not your babe, Fernando
私はあなたのベイビーじゃない、フェルナンド
出典: Genius Lyrics – Alejandro by Lady Gaga
4. 歌詞の考察
「Alejandro」は単なる失恋の歌ではない。そこには、恋愛という枠組みから逃れたいという欲求と、それに対する良心の呵責が同居している。曲の中でGagaは、アレハンドロ、フェルナンド、ロベルトといった複数の男性の名前を並べ、まるでひとつの時代を終わらせるかのように、静かに、しかし冷たく別れを告げていく。
「私は彼を愛していないの」と繰り返しながらも、その裏には「愛したくても愛せない」切実な感情が潜んでいるようにも思える。恋愛関係に疲弊し、自由を求めて飛び立とうとする女性像は、まさに「The Fame Monster」における“ラブモンスター”の一形態といえるだろう。
また、この曲には、恋愛そのものを一種の戦場と捉えるような比喩も散見される。「銃をしまって」「戦いは終わったのよ」といったフレーズは、恋の駆け引きや感情のぶつかり合いが、心にどれほどの傷を残すかを物語っている。愛を断ち切ることが平穏への道である一方で、それがかえって新たな孤独を招くというジレンマも、Gagaは丁寧に描き出している。
宗教的な象徴(修道女のイメージ、祈るポーズなど)もMVを通じて挿入され、愛と禁忌、純潔と欲望といった複数の概念が交錯する構造が、この曲をより多層的で深いものにしている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- La Isla Bonita by Madonna
ラテンの要素と切ないメロディラインが共通しており、郷愁と異国情緒が溶け合う一曲。 - All the Things She Said by t.A.T.u.
禁断の感情と逃避をテーマにした、感情の混乱を描くエレクトロポップ。 - With Every Heartbeat by Robyn
静けさの中に揺れる感情、失恋と再生の狭間を表現した北欧発の名曲。 - Say It Right by Nelly Furtado
冷たい空気感と情緒のあやうさが、Gagaのこの楽曲と響き合う。 - Te Amo by Rihanna
ラテンの香りと、愛に対する困惑と葛藤が共通項として挙げられる。
6. 愛とアイデンティティの交錯としての「Alejandro」
「Alejandro」は、Lady Gagaのキャリアの中でも異彩を放つ楽曲である。その理由の一つが、愛の話をしながら、同時にアイデンティティや信仰、文化的象徴にまで踏み込んでいる点にある。
ミュージックビデオでは、軍服や十字架、修道女の姿といった宗教的・軍事的アイコンが織り交ぜられており、愛と権力、信仰と性の緊張関係を視覚的にも演出している。その結果、この曲は単なるポップソングではなく、愛の拒絶や、異性愛中心主義への反抗、自由を求める女性の姿を描いた文化的メッセージへと昇華している。
また、LGBTQ+コミュニティからの支持が非常に高いことも見逃せない。「名前を呼ばないで」「私はあなたのものではない」というフレーズは、従来の枠に自らを押し込めようとする社会への静かな抗議にも見える。そうしたレイヤーが複雑に重なり合うことで、「Alejandro」は今なお語り継がれるべき楽曲として存在し続けているのだ。
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