
1. 歌詞の概要
Veruca SaltのNumber One Blindは、見えないこと、見たくないこと、そして誰かに視界を奪われることを、甘く鋭いオルタナティヴ・ロックとして鳴らした楽曲である。
タイトルのNumber One Blindは、少し奇妙な言葉だ。
ナンバーワンのブラインド。
一番の目隠し。
最高の遮光。
あるいは、いちばん見えなくさせるもの。
ここでのblindは、目が見えない状態でもあり、窓を覆うブラインドでもある。曲中ではLevolorというブラインドのメーカー名が繰り返し登場する。これはかなり変わった言葉選びであり、曲の個性を決定づけている。Wikipediaの楽曲情報でも、Number One Blindはサビで窓用ブラインドのメーカーLevolorに言及している曲として説明されている。(Wikipedia)
この曲の語り手は、相手に「私のブラインドになって」と願う。
昼でも夜でも、自分の太陽を奪ってほしい。
そして、Levolorに向かって「どちらが見えていないのか」と問いかける。
これは、ただ暗闇を怖がる歌ではない。
むしろ、自分から暗くしてほしいと願う歌である。
そこに、この曲の危うさがある。
恋愛において、人はしばしば相手しか見えなくなる。
世界が狭くなる。
光が減る。
他のものが見えなくなる。
それは苦しい。
でも同時に、甘い。
Number One Blindは、その状態をとてもポップなメロディと、ざらついたギターで描く。
歌詞には宗教的な祈りのような姿勢もある。
膝をついて、祈るしかない。
目をくらませてほしい。
太陽を奪ってほしい。
相手は恋人なのかもしれない。
依存の対象なのかもしれない。
あるいは、自分を世界から隠してくれる「ブラインド」そのものなのかもしれない。
Veruca Saltの歌詞は、しばしば甘い言葉の奥に毒を含む。Number One Blindもそうだ。表面はキャッチーで、サビはすぐ耳に残る。だが、歌われているのは、視界を奪われることへの願望であり、誰かしか見えない状態の閉塞である。
この甘さと閉塞の同居が、曲の魅力である。
ギターは歪み、リズムは力強く進む。
しかし、メロディは驚くほど滑らかで、Nina Gordonの声には透明感がある。Louise Postとのツイン・ボーカル/ツイン・ギター体制が作るVeruca Saltの初期サウンドは、ノイズとポップの境界を行き来する。Daily Vaultは、初期Veruca Saltの感染力のある魅力として、Nina GordonとLouise Postによる二つのギターと声の攻撃、少し食い違うハーモニーが音楽に特別なエッジを加えていたと評している。(Daily Vault)
Number One Blindは、その魅力がよく出た曲である。
見えないことを歌いながら、曲そのものはとても明るく光る。
だからこそ、怖い。
2. 歌詞のバックグラウンド
Number One Blindは、Veruca SaltのデビューアルバムAmerican Thighsに収録された楽曲である。
American Thighsは1994年にリリースされたアルバムで、SeetherのヒットによってVeruca Saltを90年代オルタナティヴ・ロックの重要バンドへ押し上げた。Guitar.comは同作について、全12曲がうねるギターとファジーなフィードバックを持ち、ヴァースの間でリフが大きく広がる作品だと評している。(Guitar.com)
Number One Blindは、1995年1月23日にシングルとしてリリースされた。B面にはSex PistolsのBodiesのカバーとAuroraが収録されていた。作詞作曲はNina GordonとJim Shapiro、プロデュースはBrad WoodとDoug McBrideが担当している。(Wikipedia)
このクレジットは興味深い。
Veruca Saltといえば、Nina GordonとLouise Postの二人のフロントウーマンの印象が非常に強い。だが、Number One BlindはGordonとドラマーのJim Shapiroによる楽曲である。ShapiroはNina Gordonの兄でもあり、バンド初期の音楽的な骨格に重要な役割を持っていた。
曲のサウンドは、American Thighsの中でも特にパワーポップ寄りである。
Seetherのような爆発的な代表曲と比べると、Number One Blindは少し内向きだ。だが、メロディの強さはかなり高い。The Year Grunge BrokeのAmerican Thighsレビューでは、Number One Blindを、パワーポップの魅力を豊富に持ち、ラウド/クワイエットのダイナミクスが印象的な曲として評している。(The Year Grunge Broke)
このラウド/クワイエットの感覚は、90年代オルタナティヴの大きな武器だった。
静かな部分でメロディを聴かせ、サビやギターで一気に壁を作る。Number One Blindもその構造を持っているが、Nirvana的な崩壊感よりは、もっと甘く、輪郭がある。Cheap Trick的なポップセンスにも近い。
American Thighs全体は、90年代の女性フロントによるオルタナティヴ・ロックの中でも重要な作品として再評価されている。
The Independentは同作の25周年記事で、American Thighsを、NirvanaのNevermind、The BreedersのLast Splash、Smashing PumpkinsのSiamese Dreamと並べて、90年代の重要な轟音ロック作品のひとつとして位置づけている。(The Independent)
Number One Blindは、そうしたアルバムの中で、Veruca Saltがただのグランジ・バンドではなく、メロディを強く持つバンドだったことを示す曲である。
重いギター。
甘い声。
少し変な歌詞。
サビの妙な中毒性。
この組み合わせが、Veruca Saltらしい。
また、この曲のミュージックビデオはSteve Hanftが監督したが、バンド側はその出来に満足せず、MTVでの放送から引き上げたとされている。(Wikipedia)
このエピソードも、曲の少し不遇な立ち位置を象徴しているように思える。
Number One Blindは、Seetherほど大きな代表曲にはならなかった。
しかし、American Thighsの中では確かな魅力を持つ、隠れた重要曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞全文はDorkやPetitLyricsなどの歌詞掲載ページで確認できる。ここでは権利に配慮し、曲の主題を示す短い部分のみを引用する。
Be my blind
和訳:
私のブラインドになって
この一行は、Number One Blindの核である。
普通なら、誰かに「光になって」と言う。
「私を照らして」と言う。
しかし、この曲では逆だ。
ブラインドになって。
私の視界を遮って。
太陽を奪って。
この逆転が非常に面白い。
恋愛や依存の中では、相手が光になることもあれば、相手によって世界が見えなくなることもある。Number One Blindは、その後者を歌っているように聞こえる。
相手がいるから明るいのではない。
相手しか見えないから、他が暗くなる。
もうひとつ、サビの中心にある短いフレーズがある。
I can’t see a thing but you
和訳:
あなた以外、何も見えない
これは恋愛の決まり文句にも見える。
あなたしか見えない。
一途な愛の表現として、よく使われる感覚だ。
だが、この曲では、その言葉は少し怖い。
あなたしか見えない状態は、幸福かもしれない。
でも、危険でもある。
他の世界を失っているからだ。
Levolorに向けた「which of us is blind?」という問いも重要である。
和訳すれば、
見えていないのは、私たちのどちら?
という感覚になる。
語り手が見えていないのか。
相手が見えていないのか。
それとも、ブラインドそのものが、見ることと見えないことを混乱させているのか。
この問いがあることで、曲は単純な恋愛依存ではなく、視界そのものをめぐる不安の歌になる。
歌詞引用元:Dork Number One Blind lyrics、PetitLyrics Number One Blind lyrics
楽曲情報:Number One BlindはAmerican Thighs収録曲で、1995年1月23日にシングルとしてリリースされた。(Dork, PetitLyrics)
4. 歌詞の考察
Number One Blindの歌詞は、かなり短く、反復を中心に作られている。
そのため、物語性は少ない。
誰が誰に何をしたのか。
関係はどう始まったのか。
なぜ語り手は暗闇を求めているのか。
曲は説明しない。
ただ、「見えない」「太陽を奪う」「暗闇に置かれる」「あなたしか見えない」というイメージを繰り返す。
この反復が、曲の心理状態をよく表している。
同じ考えから抜け出せない。
同じ相手しか見えない。
同じ問いを繰り返す。
恋愛の中で、自分の視界が狭くなるとき、人はまさにこうなる。何度も同じことを考える。相手の言葉、表情、態度、返事の遅さ、過去の一瞬。それらが頭の中で繰り返され、他の世界が薄くなる。
Number One Blindは、その心理を「ブラインド」という日用品のイメージに落とし込んでいる。
これがとてもVeruca Saltらしい。
大げさな詩的比喩ではない。
Levolorという具体的なメーカー名が出てくる。
普通の部屋にある、窓のブラインド。
それが突然、恋愛の暗闇や依存の象徴になる。
この生活感と比喩の混ざり方が面白い。
ブラインドは、外の光を遮る道具だ。
朝なのか夜なのかもわからなくする。
外の世界を見えなくする。
同時に、外から自分を見られないようにもする。
つまり、ブラインドは「見ること」と「見られること」の両方を遮る。
この曲の語り手は、相手に自分のブラインドになってほしいと願う。
それは、外の世界から自分を守ってほしいという願いかもしれない。
あるいは、相手によって外の世界を遮断されたいという願いかもしれない。
または、自分が相手しか見ないことで、他の現実から逃げたいのかもしれない。
この曖昧さが、曲を深くしている。
「Take my sun away」という言葉も印象的だ。
太陽は、普通なら生命、希望、明るさ、現実を象徴する。
その太陽を奪ってほしい。
これはかなり強い願望である。
明るさがつらいときがある。
現実が見えすぎることがつらいときがある。
自分の状態をはっきり見たくないときがある。
だから、太陽を消してほしい。
Number One Blindには、そうした逃避の感覚もある。
ただし、曲は暗いバラードではない。
むしろ、ポップで力強い。
ここが重要である。
Veruca Saltは、暗い感情や奇妙な依存を、沈み込む音ではなく、ギターの厚みとメロディの爽快感で鳴らす。
この矛盾が、American Thighs全体の魅力でもある。
The IndependentがAmerican Thighsについて、笑い、泣き、叫べるアルバムと表現したのは、その感情の混合をよく表している。(The Independent)
Number One Blindも、まさにそういう曲だ。
歌詞は閉塞している。
でも、曲は開けている。
目隠しの歌なのに、サビは空へ広がる。
太陽を奪ってほしいと歌いながら、ギターは光っている。
この逆説が美しい。
また、Nina Gordonのボーカルも大きい。
彼女の声は、Louise Postのより荒い声と比べると、やや甘く、透明で、メロディアスに聞こえる。Number One Blindでは、その声の甘さが、歌詞の危うさを包んでいる。
もしこの歌詞をもっと叫ぶように歌えば、曲は明確な苦痛の歌になったかもしれない。
しかしGordonの声は、あまりにもキャッチーに、まっすぐに響く。
だから、曲は依存の歌でありながら、同時にポップソングとして気持ちいい。
この気持ちよさが、危うい。
相手しか見えない状態は、危険だとわかっていても甘い。
その甘さを曲のメロディが体験させる。
Number One Blindのサウンドは、90年代オルタナティヴ・ロックの中でも、グランジの泥臭さより、パワーポップの明快さに近い部分がある。
歪んだギターはある。
だが、曲の輪郭はかなり整っている。
サビは大きく、歌いやすい。
The Year Grunge Brokeがこの曲にパワーポップの魅力を見出しているのも納得できる。(The Year Grunge Broke)
この曲は、Seetherの陰に隠れたシングルという扱いを受けることも多い。
しかし、Veruca Saltのソングライティングの巧さを考えるうえでは非常に重要である。
Seetherは爆発的で、キャラクターも立っていた。
Number One Blindはもっとコンパクトで、地味に見える。
だが、言葉の選び方、サビの中毒性、日用品を使った奇妙な比喩、そしてポップとノイズのバランスが非常に優れている。
これは、Veruca Saltが単なる勢いのバンドではなく、優れた曲を書くバンドだったことを示している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Seether by Veruca Salt
American Thighsを代表する楽曲であり、Veruca Saltの名を広く知らしめた最大の初期ヒットである。American Thighsの成功はこの曲によって大きく押し上げられた。(Wikipedia)
Number One Blindの甘いメロディと歪んだギターの組み合わせが好きなら、Seetherは必ず聴きたい。より攻撃的で、よりキャッチーで、女性の内側にある怒りや抑えきれないものを爆発させる曲である。Veruca Saltの入口として最適だ。
- All Hail Me by Veruca Salt
American Thighs収録曲で、Seetherと並んで初期Veruca Saltの重量感を示す楽曲である。Affordable Povertyのレビューでは、All Hail Meをアルバムの中でも音響的に最も重い曲として評している。(Affordable Poverty)
Number One Blindが甘い閉塞の曲なら、All Hail Meはもっと堂々とした自己主張の曲である。重いギターと冷たい強さがあり、Veruca Saltの攻撃的な側面を知るには外せない。
- Aurora by Veruca Salt
Number One BlindのシングルB面に収録された楽曲で、Nina Gordon作の曲として知られる。シングル情報でも、B面曲としてAuroraが掲載されている。(Wikipedia)
Number One Blindのメロディアスな側面に惹かれるなら、Auroraも相性がいい。より柔らかく、少し夢のような感触があり、Veruca SaltのB面にも良曲が多いことを感じさせる。
- Cannonball by The Breeders
Veruca Saltと同時代の女性中心オルタナティヴ・ロックとして、The Breedersは重要な比較対象である。The IndependentもAmerican ThighsをThe BreedersのLast Splashなどと並べて90年代の重要作として語っている。(The Independent)
Cannonballは、奇妙なベースライン、ローファイな遊び心、強いフックを持つ曲である。Number One Blindのように、少し変な言葉やサウンドがポップな中毒性へ変わる感覚がある。
- Divine Hammer by The Breeders
Number One Blindのパワーポップ的な明るさと、オルタナティヴ・ロックのざらつきが好きなら、Divine Hammerもおすすめである。
曲は短く、甘く、少し不思議だ。The Breedersらしい脱力感と、強いメロディのバランスがあり、Veruca Saltの明るいが少し影のあるギターポップ感とよく響き合う。
6. ブラインド越しに鳴る、90年代オルタナティヴ・ポップの甘い閉塞
Number One Blindの特筆すべき点は、日用品であるブラインドを、恋愛や依存や視界の狭まりの象徴へ変えているところである。
これは、とても巧い。
愛を太陽にたとえる曲は多い。
愛を光にたとえる曲も多い。
しかし、Veruca Saltはブラインドを歌う。
光そのものではなく、光を遮るもの。
見せるものではなく、隠すもの。
外へ開く窓ではなく、窓を閉じる板。
この視点が面白い。
恋愛は、光だけではない。
ときに、外の世界を遮るものにもなる。
相手しか見えなくなる。
相手のために、他の現実を見ないふりをする。
自分を外から隠す。
自分の太陽を奪ってほしいと願う。
この曲は、その危険な甘さを歌っている。
そして、それをポップに鳴らす。
ここがVeruca Saltの強さだ。
Number One Blindは、暗いテーマを扱いながら、曲としてはとても聴きやすい。サビは大きく、ギターは気持ちよく歪み、ボーカルは滑らかだ。
この「聴きやすさ」が、歌詞の闇を覆っている。
まるで、ブラインドが光を遮るように、ポップなメロディが不安を遮る。
しかし、完全には隠しきれない。
隙間から、少しだけ不安の光が漏れる。
その漏れ方が美しい。
American Thighsというアルバムは、90年代オルタナティヴ・ロックの大きな流れの中で、女性たちのギター・ロックがどれほど強く、ポップで、奇妙であり得たかを示した作品である。
Veruca Saltは、怒りやノイズだけではなかった。
甘いメロディを書けた。
ハーモニーを作れた。
そのうえで、歌詞には変な比喩や棘を入れた。
Number One Blindは、そのバランスがよく出ている。
Seetherほど有名ではない。
All Hail Meほど重くもない。
だが、曲の中毒性と歌詞の奇妙さは、Veruca Saltの個性を非常によく表している。
特にLevolorという固有名詞の使い方は、強く記憶に残る。
普通、ロックソングのサビにブラインドメーカーの名前は出てこない。
でも、出てくる。
それが妙にかっこいい。
生活の中にある商品名が、突然、祈りの対象のように歌われる。
Levolor。
見えていないのはどちらなのか。
私を暗闇に置いたのは誰なのか。
あなたしか見えないのは、愛なのか、失明なのか。
この問いは、歌詞の短さに反して深い。
また、この曲には「朝なのか?」という問いもある。
Is it morning?
ブラインドを閉めていれば、朝か夜かわからない。
恋愛や依存の中にいるときも、時間の感覚が狂う。
昼夜が曖昧になる。
現実のリズムから外れる。
相手の存在だけが、時間の基準になる。
Number One Blindは、その閉じた部屋の感覚を持っている。
外には太陽があるかもしれない。
でも、語り手はそれを奪ってほしいと願う。
これはかなり危うい願いだ。
しかし、その危うさを曲は責めない。
むしろ、その中にある陶酔を鳴らす。
だから聴き手は、少し怖いと思いながらもサビを口ずさむ。
この「怖いけど口ずさめる」感じこそ、90年代オルタナティヴ・ポップの魅力である。
Veruca Saltの初期曲には、女性的な感情が直接的に出ている一方で、それが単純な告白にはならない面白さがある。
怒り、欲望、不安、依存、自己嫌悪、ユーモア。
それらが、ギターのノイズと甘い声の中で混ざる。
Number One Blindは、依存と視界の喪失を歌いながら、決して弱々しくない。
むしろ、曲としては堂々としている。
そこに、不思議な強さがある。
「私はあなたしか見えない」と歌うことは、弱さにも聞こえる。
でも、それを大きなギターで鳴らすと、弱さが自分の言葉になる。
見えないことを、自分で歌う。
太陽を奪ってほしいと、自分で言う。
その主体性があるから、この曲は単なる被害の歌にはならない。
暗闇を求める自分を、語り手はどこかでわかっている。
わかったうえで、まだ求めている。
その矛盾が、曲に深みを与えている。
Number One Blindは、Veruca Saltのディスコグラフィーの中で、派手な代表曲ではないかもしれない。
だが、聴けば聴くほど残る。
ブラインド。
太陽。
暗闇。
Levolor。
あなたしか見えない状態。
これらのイメージが、甘いメロディと一緒に頭の中へ入ってくる。
そして気づけば、曲そのものがブラインドのように、外の光を少し遮っている。
その暗さは心地いい。
でも、長くいると危ない。
Number One Blindは、その心地よく危ない暗さを鳴らした、Veruca Salt初期の隠れた名曲である。

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