
1. 歌詞の概要
Shutterbugは、アメリカ・シカゴ出身のオルタナティブロックバンド、Veruca Saltが1997年に発表した楽曲である。セカンドアルバムEight Arms to Hold Youに収録され、同作からのシングルのひとつとしてもリリースされた。アルバムは1997年2月11日にOutpost / Geffenから発売され、プロデュースはMetallicaやMötley Crüeなどで知られるBob Rockが手がけている。(en.wikipedia.org)
この曲は、Veruca Saltの中でもかなり刺々しい。
デビュー作American ThighsのSeetherで見せた、甘いメロディと歪んだギターの同居。
その魅力をさらに重く、さらに攻撃的にしたのがEight Arms to Hold Youというアルバムだった。
Shutterbugは、そのアルバム後半で鋭く光る曲である。
タイトルのShutterbugは、写真好き、カメラ好き、アマチュア写真家を指す言葉だ。
直訳すれば、シャッター虫のようなニュアンスもある。
しかし歌詞を聴くと、この曲は単純に写真を撮る人の歌ではない。
むしろ、誰かに見られること、誰かを見てしまうこと、イメージとして消費されること、そして相手への怒りや未練が絡み合った曲として響く。
歌詞には、Bristolの寒さ、テレビの中の愛、踊る女の子、最後のロックキング、スマートに動く誰か、哀れな男、そしてAll dressed upというフレーズが出てくる。
断片は映画のカットのように並び、ひとつの関係の終わりや、壊れた憧れのようなものを浮かび上がらせる。
この曲の語り手は、ただ悲しんでいるわけではない。
怒っている。
観察している。
嘲笑している。
でも、まだどこかで傷ついている。
そこがVeruca Saltらしい。
彼女たちの音楽は、かわいらしさと怒りが同時に存在する。
甘いコーラスがある。
でもギターは噛みつく。
メロディはキャッチーだ。
でも歌詞には棘がある。
Shutterbugは、その棘がかなり強く出た曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
Veruca Saltは、Nina GordonとLouise Postを中心に結成されたバンドである。1994年のデビューアルバムAmerican ThighsとシングルSeetherのヒットによって、90年代オルタナティブロックの中で一気に注目を集めた。Pitchforkは2014年の再結成ニュースで、Veruca Saltを90年代オルタナティブのバンドとして紹介し、American Thighsと1997年のEight Arms to Hold Youが彼女たちの人気を確立した作品だったと書いている。(pitchfork.com)
Eight Arms to Hold Youは、彼女たちにとって大きな勝負作だった。
前作のインディー感や、荒削りな魅力を残しつつ、サウンドは一気に巨大化する。
Bob Rockのプロデュースによって、ギターは分厚くなり、ドラムは大きく、全体の音像はアリーナロックにも届くスケールになった。
アルバムはBillboard 200で55位を記録し、Volcano Girlsがロックラジオでヒットした。Shutterbugもシングルとして出され、US Mainstream Rock Tracksで39位を記録している。また、バンドはShutterbugをSaturday Night Liveでも披露したと記録されている。(en.wikipedia.org)
ここで重要なのは、ShutterbugがLouise Post作の曲として知られる点である。
Eight Arms to Hold Youでは、Nina GordonとLouise Postがそれぞれ楽曲を書き、歌うことで、バンド内の二つの個性が強く出ている。
Nina Gordonの曲には、よりポップで明るいフックがある。
一方、Louise Postの曲には、より荒く、感情の濃い側面がある。
Shutterbugは、後者の魅力が前面に出た楽曲だ。
歌詞の内容については、ファンや批評的な文章の間で、関係の終わりや特定人物への当てつけとして読まれることが多い。Popdoseの記事では、Shutterbugについて、少なくとも部分的には元恋人へのup yoursのような曲として読むことができるとしつつ、歌詞は複数のスナップショットの集合かもしれないとも述べている。(popdose.com)
このスナップショットという見方は、曲のタイトルともよく合っている。
Shutterbugは、感情を順番に語るのではない。
断片を撮る。
一瞬の表情、姿勢、テレビ画面、誰かの動き、着飾った自分、消えた相手。
その写真のような断片が並ぶことで、関係の全体像が逆に浮かんでくる。
だからこの曲は、タイトルどおりシャッターを切る曲なのだ。
ただし、そのカメラは中立ではない。
怒りを持っている。
相手を切り取ることで、相手を支配し返そうとしている。
見られて傷ついた人が、今度は相手を見返す。
その視線の逆転が、Shutterbugの鋭さである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の全文はDorkの歌詞ページなどで確認できる。ここでは権利に配慮し、短いフレーズのみを引用する。DorkではShutterbugが1997年のVeruca Saltの楽曲として掲載され、歌詞提供元としてLRCLIBが示されている。(readdork.com)
It’s freezing in Bristol
和訳:
ブリストルは凍えるほど寒い。
曲は、いきなり具体的な地名と温度から始まる。
Bristolという場所が出てくることで、歌詞には旅先の一場面のような生々しさが加わる。
寒さはただの天候ではなく、関係の冷え込みや孤独の感覚にも重なる。
There’s love on the tele
和訳:
テレビには愛が映っている。
テレビの中には愛がある。
しかし、現実の語り手のそばにある愛はどうなのか。
この対比が効いている。
画面上の愛は安全で、作られたもので、遠い。
現実の愛はもっと messy で、痛みを伴う。
She’s doing the shimmy
和訳:
彼女はシミーを踊っている。
この一節には、軽薄さと魅惑がある。
踊る身体。
見られる身体。
そして、それを見ている語り手。
曲の中には、視線の緊張が最初から含まれている。
For the last living rock king
和訳:
最後の生けるロックキングのために。
このフレーズはかなり皮肉っぽい。
ロックキングという言葉には、男性ロックスターの神話がある。
だが最後の生ける、という言い方には、その神話がすでに古びているような響きもある。
誰かを崇めることへの嫌悪と、かつてその魅力に惹かれてしまった自分への苦さが同時にある。
All dressed up
和訳:
すっかり着飾って。
このフレーズは、曲の後半で強く響く。
外側は整えている。
服を着て、姿を作っている。
でも内側では何かが壊れている。
そのギャップが、Shutterbugの感情を支えている。
引用元:Dork Lyrics / LRCLIB掲載歌詞。歌詞の権利はVeruca Salt、Louise Post、および各権利者に帰属する。(readdork.com)
4. 歌詞の考察
Shutterbugの歌詞は、かなり断片的である。
Bristol。
テレビ。
踊る女の子。
ロックキング。
哀れな男。
着飾った自分。
消えてしまった誰か。
それらが一直線に説明されるわけではない。
しかし、並べてみると、ある感情の輪郭が見えてくる。
それは、見られることへの怒りであり、誰かに置き去りにされた痛みであり、ロックスター的な神話への失望である。
タイトルのShutterbugを考えると、曲全体は写真の連続のように聴ける。
一枚目。
寒いBristol。
二枚目。
テレビに映る愛。
三枚目。
踊る女の子。
四枚目。
ロックキング。
五枚目。
着飾った語り手。
六枚目。
もういない相手。
これらの写真は、きれいな思い出ではない。
むしろ、怒りのアルバムだ。
語り手は、関係の終わりを記録している。
相手の姿を、相手の周囲にいる人々を、自分の服装を、冷たい都市の空気を、すべて切り取っている。
Shutterbugという言葉には、写真を撮る側の能動性がある。
つまり、語り手はただ傷ついているだけではない。
自分でシャッターを切る。
自分の視点で相手を記録する。
これは、力を取り戻す行為でもある。
恋愛や人間関係の中で、相手に見られ、評価され、消費されるように感じることがある。
とくに90年代のロックシーンでは、女性ミュージシャンは常にルックスや振る舞いを見られ、語られ、比較された。
Veruca Saltは、女性二人がフロントに立つバンドとして、そうした視線の中にいた。
かわいい、怒っている、ポップ、グランジ、セクシー、フェミニン。
外側から貼られる言葉は多かったはずだ。
Shutterbugは、そうした視線を逆手に取る曲のようにも聴ける。
見られるだけではない。
こちらも見る。
撮る。
切り取る。
あなたを歌詞の中に閉じ込める。
ここに、この曲の攻撃性がある。
また、歌詞の中のロックキングという言葉も重要である。
90年代オルタナティブロックは、表向きには80年代のロックスター文化を批判する側にいた。
ヘアメタル的な派手さや、男性中心のスターシステムへの反発があった。
しかし同時に、オルタナティブロックの中にも新しい男性神話は存在していた。
カリスマ的なフロントマン。
破滅的な男性アーティスト。
孤独で危険な天才。
そのようなロックキングのイメージは、形を変えて生き残っていた。
Shutterbugは、その神話に対してかなり冷ややかな目を向けている。
最後の生けるロックキング。
その言い方には、崇拝と嘲笑が混ざる。
本当に王なのか。
それとも、もう時代遅れの幻想なのか。
語り手はその周囲で踊る女の子を見ている。
その視線は、嫉妬かもしれない。
軽蔑かもしれない。
自分自身の過去の姿を見ているのかもしれない。
この曖昧さが面白い。
Shutterbugは、単純な敵味方の曲ではない。
相手が悪い、自分が被害者、というだけではない。
語り手の中にも、憧れ、怒り、未練、羞恥、自己嫌悪が混ざっている。
だから曲は強い。
ただのディス曲なら、もっとすっきりする。
しかしShutterbugは、すっきりしない。
怒っているのに、まだ引きずっている。
相手を笑っているのに、その相手のために着飾っていた自分もいる。
All dressed upというフレーズには、その苦さがある。
着飾ることは、自己表現でもある。
自分を守る鎧でもある。
しかし、この曲では、着飾った自分の前に相手はもういない。
あるいは、相手は歌の中にしかいない。
I’m all dressed up and you’re just a song
この趣旨のフレーズには、かなり鮮烈な逆転がある。
かつて現実にいた相手が、今は歌になっている。
生身の関係が終わり、曲の素材になった。
これは痛みでもあるが、創作の勝利でもある。
相手は去った。
でも語り手は曲を書く。
そして、その曲の中で相手を扱う。
Veruca Saltの音楽には、こうした感情のエネルギーをギターへ変える力がある。
Shutterbugのサウンドは、かなりヘヴィである。
Bob Rockのプロデュースらしく、ギターは分厚く、ドラムも大きい。
デビュー時のローファイ寄りの魅力から一歩進んで、ここではメジャーなロックの重量を使っている。
Last.fmのアルバム紹介でも、Eight Arms to Hold Youはデビュー作よりも洗練され、重いロックサウンドへ変化した作品として説明されている。(last.fm)
この重さが、Shutterbugには合っている。
歌詞の怒りは、軽いギターポップでは収まりきらない。
もっと厚い音が必要だった。
Louise Postの声は甘さを持ちながらも、サビや後半では歯をむくような鋭さがある。
Veruca Saltの魅力は、ここにある。
彼女たちは、メロディを捨てない。
でも、怒りも捨てない。
ポップであることと、攻撃的であることを両立させる。
Shutterbugは、その両立が非常に濃い曲である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Volcano Girls by Veruca Salt
Eight Arms to Hold Youの代表曲であり、US Modern Rock Tracksで8位、Mainstream Rock Tracksで9位を記録したロックラジオヒットである。(en.wikipedia.org)
Shutterbugの重いギターと90年代らしい勢いが好きなら、Volcano Girlsは外せない。Nina Gordon作のよりキャッチーで爆発的な一曲で、アルバムの表の顔と言える。
- Benjamin by Veruca Salt
Eight Arms to Hold Youからのシングルのひとつで、UKシングルチャートで75位を記録している。(en.wikipedia.org)
Shutterbugの怒りに対して、Benjaminはより疲れや脆さが前に出る。Veruca Saltのメロディアスな側面と、90年代オルタナティブの影を味わえる曲である。
- Seether by Veruca Salt
1994年のデビュー作American Thighsを代表する楽曲であり、Veruca Saltを一気に知らしめた曲である。Pitchforkも、再結成時の記事でSeetherをバンドの代表的ヒットとして紹介している。(pitchfork.com)
Shutterbugよりも荒削りで、甘さと苛立ちのバランスが初期らしい。Veruca Saltの原点を知るには欠かせない。
- With David Bowie by Veruca Salt
Eight Arms to Hold You収録曲で、ロックスターへの憧れとポップな爆発力が混ざった一曲である。Shutterbugの中にあるロックキングへの皮肉と並べて聴くと、Veruca Saltがロック神話を愛しながらも疑っていたことが見えてくる。
タイトルどおりBowieへの憧れを感じさせつつ、90年代ギターロックとしての勢いも強い。
- Violet by Hole
女性の怒り、欲望、ロックにおける視線の問題という点で、Shutterbugと非常に相性がいい曲である。Holeのほうがより直接的で荒々しいが、甘いメロディの裏で感情が燃えているところは近い。
Shutterbugの鋭い恋愛的怒りに惹かれる人には、Violetの焼けつくようなサビも強く響くはずだ。
6. 写真に閉じ込めた怒りと、90年代オルタナの火花
Shutterbugは、Veruca Saltの中でもかなり濃い感情を持った曲である。
タイトルは写真好き。
でも、曲が撮っているのは楽しい記念写真ではない。
壊れた関係、冷たい街、誰かへの怒り、ロックスター幻想への皮肉、着飾った自分の痛み。
それらを、Louise Postは鋭い言葉と分厚いギターで切り取っている。
この曲の面白さは、視線の曲であるところだ。
誰かを見ている。
誰かに見られている。
相手を写真のように記録している。
同時に、自分自身もまたイメージとして残されている。
90年代の女性ロックバンドが置かれた状況を考えると、この視線の問題はとても重要である。
Veruca Saltは、ポップで、かわいく、キャッチーで、同時にヘヴィだった。
そのため、しばしば外側からわかりやすいイメージで語られた。
しかしShutterbugのような曲を聴くと、彼女たちはそのイメージの中でただ微笑んでいたわけではないことがわかる。
むしろ、見返していた。
相手を観察し、歌詞に閉じ込め、ギターで殴り返していた。
Eight Arms to Hold Youは、商業的にも音響的にも大きなアルバムだった。
Bob Rockのプロデュースによって、Veruca Saltの音は太くなり、90年代後半のロックとしての重量を手に入れた。Shutterbugは、その重量が怒りの表現として最も効果的に使われた曲のひとつである。(en.wikipedia.org)
曲を聴いていると、甘さと攻撃性が交互に押し寄せる。
メロディは耳に残る。
でも、感情は穏やかではない。
歌っている人は傷ついている。
でも、ただ倒れているわけではない。
むしろ、立ち上がって相手を指差している。
そこがかっこいい。
Shutterbugは、別れの曲としても聴ける。
ロックスター神話への皮肉としても聴ける。
女性が見られる存在から見る存在へ反転する曲としても聴ける。
そして、90年代オルタナティブロックの中で、ポップとヘヴィネスがどう結びついていたかを示す曲としても聴ける。
ひとことで言えば、これは怒りをシャッターで切った曲である。
一瞬を捉える。
相手の姿を逃がさない。
でも、その写真は美しいだけではない。
端が焦げていて、フレームの外にはまだ言えないことが残っている。
Shutterbugは、Veruca Saltの甘さに潜む毒を知るための重要曲である。
そして、Louise Postのソングライティングが持つ、傷ついたまま相手を見据える力がよく表れた一曲なのだ。

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