1. 歌詞の概要
「Morning in LA(モーニング・イン・エルエー)」は、White Lies(ホワイト・ライズ)が2016年にリリースした4thアルバム『Friends』に収録された楽曲であり、ロサンゼルスの陽光のもとで感じる孤独、虚構、そして“見せかけの幸福”への違和感をポップかつシニカルに描いたシンセポップ・ナンバーである。
明るくキャッチーなサウンドに包まれたこの曲が描いているのは、「希望の象徴」であるはずのロサンゼルスの朝が、まったく希望に満ちていないという逆説的な感覚だ。
「LAの朝」は、ハリウッド、名声、太陽、エンターテインメント、そして“アメリカン・ドリーム”の象徴でもあるが、語り手にとってそれはどこか空虚で、自分自身との距離をさらに感じさせる舞台となっている。
この曲では、**理想の生活に囲まれても埋められない心の空洞や、他人の夢の中に自分を押し込めてしまったような“自己疎外”**がテーマになっている。そして、それをただ悲観するのではなく、ユーモラスに、そしてどこか皮肉を込めて受け流すような語り口が、この曲の最大の魅力でもある。
2. 歌詞のバックグラウンド
アルバム『Friends』は、White Liesにとって転換点となった作品であり、これまでのダークで内省的な作風から、よりポップで開放的な方向性へのアプローチが試みられている。
だがその明るさは表層的なもので、歌詞の核心ではやはり疎外感や喪失感、愛の摩耗、そして“友人”という名の不安定な人間関係が描かれている。
「Morning in LA」は、White Liesが実際に滞在していたロサンゼルスでの経験や観察をもとに生まれた楽曲で、明るいはずの街に漂う見えない影、時間が止まったような無気力な朝の風景が、非常に写実的に表現されている。
その一方で、サウンド面では1980年代のニュー・ウェイヴやシンセポップの要素を大胆に取り入れ、失望の中にあるノスタルジアやポップな感傷を強調している。

3. 歌詞の抜粋と和訳
“I had a dream that we were fine / I’m fine again, back in LA”
「僕らはうまくいってる夢を見た / またLAに戻って、僕も大丈夫――のはずだった」
“The sun’s so bright, it hurts my eyes / But I still can’t see through the haze”
「太陽がまぶしすぎて目が痛い / でも、このもやの向こう側は見えないんだ」
“It’s just another morning in LA / Just another lonely day”
「LAの朝がまたやってきた / また孤独な1日が始まるだけさ」
“Everyone’s dreaming someone else’s dream”
「誰もが誰かの夢を生きているだけ」
ここでの“夢”は希望ではなく、誰かの幻想に自分を合わせることの虚しさを象徴している。
「太陽はまぶしいのに、心は暗いまま」という対比構造が、この楽曲の情緒をより深く印象づけている。
歌詞全文はこちら:
White Lies – Morning in LA Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Morning in LA」は、人生のどこかで誰もが感じる“居場所のなさ”や“虚像の中に生きる感覚”を、都市と時間という抽象的な構造に投影した作品である。
ロサンゼルスという街は、夢が集まり、希望が生まれ、輝く人々が映し出されるステージである。だが、その光の強さは時に影を際立たせ、現実の痛みを見えづらくさせる。
語り手はそんなLAの朝のなかで、自分が誰かの夢を生きていることに気づく。
それはキャリア、関係性、ライフスタイル、何であれ、“自分の意思ではなかった”という痛みを孕んでいる。
そしてその現実に対して、彼は抗うこともなく、ただ“またLAの朝がやってきた”と呟くだけ。
この諦観と淡白さが、逆にリアルで、現代の都市生活者の“感情の空洞”を鋭く表現している。
それでもこの曲は絶望の歌ではない。なぜなら、その孤独や無力感をあえてポップなサウンドに乗せて歌うことで、それらを軽やかに、あるいは皮肉に受け止めようとする姿勢が感じられるからだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Sprawl II (Mountains Beyond Mountains) by Arcade Fire
都市に生きる人々の“感情の閉塞”をエレクトロニックなサウンドで描いた名曲。 - Seventeen Seconds by The Cure
時間の流れと自我の空虚さを、冷たいトーンで描くポストパンクの礎。 - Realiti by Grimes
現実と幻想、テクノロジーと人間性のはざまで揺れるポップの新解釈。 - The City by The 1975
“街”という舞台で関係を見失い、存在が曖昧になる若者の肖像。 -
Midnight City by M83
夜の都市の美しさと孤独を、夢のようなサウンドで包み込んだエレクトロ・アンセム。
6. “まぶしすぎる朝に、僕の心はまだ眠っていた”
「Morning in LA」は、見かけ上は成功や自由に満ちた環境の中で、ふと感じる喪失と不在の感覚を静かに描いた都会的名曲である。
それは、まるでガラス越しに太陽を見るようなもの。そこに光はあるのに、温もりは届かない。
そしてその感覚こそが、現代に生きる私たちのリアルであり、都市という舞台で繰り返される日常の正体なのかもしれない。
誰かの夢の中にいると気づいたとき、
ようやく“自分の朝”が始まる。
そんな小さな目覚めを、ロサンゼルスの空の下に託したような1曲である。
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