1. 歌詞の概要
「Looking Glass（鏡）」は、The La’s（ザ・ラーズ）が1990年に発表した唯一のスタジオアルバム『The La’s』の最終曲であり、作品の締めくくりを飾る8分を超える壮大なトラックである。
このバンドにしては珍しく長尺で展開的な構成を持つ本曲は、それまでのシンプルなギター・ポップ路線とは一線を画し、サイケデリックな広がりと深い内省性を併せ持つ、“終わりでありながら始まりでもある”ような特異な存在だ。
タイトルの「Looking Glass（鏡）」は、現実と幻想の境界を象徴している。
この楽曲では、自分自身を映し出す“鏡”をのぞき込むように、過去の記憶や現在の自己認識が交錯し、自己と他者、内面と外界のバランスを問いかけるような詩世界が展開されている。
何が真実で、何が幻なのか。リスナーは曲の進行とともに、その“曖昧な境界”を漂うことになる。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Looking Glass」は、バンドの中心人物であり作詞作曲を担ったリー・メイヴァース（Lee Mavers）のソングライティングの中でも最も野心的で複雑な作品のひとつである。
『The La’s』というアルバムは全体を通して“儚さ”や“若さの痛み”がテーマとなっているが、この曲に至って、そのテーマは“自己という迷宮”の中へと深く潜っていく。
アルバムの他の楽曲――たとえば「There She Goes」や「Feelin’」が比較的短く直接的な感情を伝えるものであったのに対して、「Looking Glass」はそれらすべてを一度壊して再構築するような構造を持っている。
特に後半にかけての長いインストゥルメンタル・パートは、60年代サイケやジャム・バンドの影響を感じさせつつも、The La’sらしい無骨で削ぎ落とされた質感を保っており、聴く者を“曲という鏡”の中に閉じ込めていくような感覚を生む。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Looking Glass」の印象的な歌詞を抜粋し、日本語訳を併記する。
“Can’t find no connection / Can’t see no reflection”
「つながりが見つからない / 映るはずのものも見えない」
“Looking through the window / Can’t see the sky”
「窓の向こうを見ても / 空はどこにも見えない」
“I don’t want you to be alone / But I don’t know how to be with you”
「君にひとりでいてほしくない / でも、どうやって一緒にいればいいのか分からない」
“Looking glass / You’re my looking glass”
「鏡 / 君は僕の鏡なんだ」
“A timeless face / In a changing world”
「移りゆく世界の中で / 時を超えたその顔」
歌詞全文はこちらで確認可能：
The La’s – Looking Glass Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
この曲の中で繰り返されるのは、“見ようとしても見えないもの”“繋がろうとしても繋がれない距離”である。
「鏡」というモチーフは、自分自身を覗き込もうとする行為であると同時に、自分以外の誰か――“君”の姿に自分を重ねてしまう錯覚でもある。
つまりこの曲は、自己の内部と外部を行き来しながら、「本当の自分とは何か」「他者との距離とは何か」を探り続ける旅のような構造をしている。
特に印象的なのは、「つながれない」「反射が見えない」といった否定形の繰り返しである。
これは、強い断絶感と孤独の感情を内包しながらも、最後まで“答え”を提示しないという点で、非常に誠実な表現とも言える。
結論を出すのではなく、その葛藤そのものを音楽として提示しているのだ。
また、後半の長いインストゥルメンタル・パートは、言葉を失った感情の残響ともいえる。
ギターのループ、うねるベースライン、ゆっくりと波打つドラム――それらが織りなすサウンドは、言葉で語るには大きすぎる感情を、音の流れとして外へと放出していく。
このパートにおいて、リスナーはもはや“歌を聴く”のではなく、“感情に包まれる”という体験をすることになる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- The End by The Doors
内的世界と死生観が交錯するサイケデリックな長尺楽曲の代表格。 - Shine On You Crazy Diamond by Pink Floyd
記憶、喪失、幻覚を描いた組曲的な構成が、「Looking Glass」の精神性と呼応する。 - Heroin by The Velvet Underground
繰り返されるコード進行と心理の揺れを音で表現した、衝撃的な内省曲。 - This Is the One by The Stone Roses
「答えを知らないまま待ち続ける」ような、時間感覚と空白のポップ。 -
Champagne Supernova by Oasis
終わりと再生、現実と幻想を曖昧にしながら、サウンドで感情を表現する長編バラード。
6. “終わりは、始まりの気配を含んでいる”
「Looking Glass」は、The La’sのデビュー作のラストを飾るにふさわしい“無音の問いかけ”のような楽曲である。
答えを求めるのではなく、問いそのものに身を委ねる。
音楽が“感情の拡張”であるなら、この曲はその極限を表現している。
アルバム『The La’s』は、表面的にはギター・ポップの名作として語られることが多いが、その終着点である「Looking Glass」は、むしろ“音楽とは何か”という根源的な問題にリスナーを直面させる。
この曲は、鏡に映った自分と向き合いながら、“見えないものを見ようとする意志”の象徴なのである。
「Looking Glass」は、答えなき時代を生きる者のための、静かな迷宮。聴き終えたあと、そこには何も残らない――ただ、自分自身だけが残る。
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