1. 歌詞の概要
「Farewell to the Fairground（フェアウェル・トゥ・ザ・フェアグラウンド）」は、イギリスのポストパンク・リバイバル・バンド、White Lies（ホワイト・ライズ）のデビューアルバム『To Lose My Life…』（2009年）に収録された楽曲であり、過去への別れと新たな出発を、ドラマティックかつ力強く描いた青春の決別ソングである。
タイトルにある“fairground（遊園地）”は、かつての喜びやノスタルジックな記憶を象徴する場所であり、それに別れを告げるという行為は、成長や変化、逃避ではなく“前進”としての離脱を意味する。
語り手は、もはや自分に何も与えてくれない故郷のような場所から離れ、「僕はずっとここにはいられないんだ」と何度も繰り返す。これは物理的な移動だけでなく、精神的な再起や再出発の表明でもあり、**「終わりは、始まりである」**というメッセージを強く訴えかけてくる。
2. 歌詞のバックグラウンド
White Liesは、Joy DivisionやInterpolを想起させる暗く重厚なサウンドに乗せて、死、別れ、喪失といったテーマをロマンティックに扱うバンドとして登場した。
この「Farewell to the Fairground」は、アルバム全体のなかでも異色の存在であり、痛みや苦しみを抱えながらも未来を見つめる“希望のロックアンセム”として機能している。
ブレンダン・ブラウン（Vo）は、インタビューにおいて、「この曲は“偽りの楽園”や“何も変わらない町”を抜け出すことについて書いた」と語っている。
それはロンドン郊外の閉塞感であったり、恋愛や友情の終わりだったり、誰もが一度は経験する“終わらせなければ前に進めないもの”への別れである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“Farewell to the fairground / These rides aren’t working anymore”
「さようなら、フェアグラウンド / この遊具たちはもう動いていない」
“I’ll go where the road takes me / Maybe that’s where I belong”
「僕はこの道が導く場所へ行くよ / もしかしたら、そこが僕の居場所なのかもしれない」
“And I know I’ll never return / So farewell to the fairground”
「きっともう戻ることはないだろう / だからさようなら、フェアグラウンド」
“Keep on running / There’s no place like home”
「走り続けろ / 故郷のような場所なんて、もうどこにもない」
歌詞全文はこちら：
White Lies – Farewell to the Fairground Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Farewell to the Fairground」の核にあるのは、“喪失を受け入れて前に進む”という選択である。
フェアグラウンド――遊園地や縁日のような場所は、本来、喜びや夢の象徴であるはずだ。だがこの曲では、それが「動かない」「もう意味をなさない」と描写される。
そこから導かれるのは、“楽しかったはずの過去が、今の自分にはもうフィットしない”という成長の痛みだ。
だから語り手は、「僕はここにはいられない」と何度も繰り返す。
その姿は、まるで青春期の終わり、あるいは傷ついた恋の断ち切りのようでもあり、人生の岐路に立つすべての人に通じる。
そして最後のサビで何度も叫ばれる「Keep on running（走り続けろ）」というフレーズは、自分で選んだ未来に向かって踏み出す勇気を象徴する言葉だ。
それは決してヒロイックな決断ではなく、誰かに別れを告げることでしか手に入らない、静かな自由であり、聴く者の心を奮い立たせる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- All My Friends by LCD Soundsystem
過去に戻れないことを嘆きつつも、今を受け入れていく、大人の青春賛歌。 - Runaway by The National
“逃げること”と“残ること”の狭間で揺れる心を、繊細に描いたラブソング。 - The Boy with the Arab Strap by Belle and Sebastian
退屈な日常を抜け出し、自分だけの物語を探しに行く、軽やかな旅立ちの歌。 - Midnight City by M83
都会の夜を駆け抜けるようなノスタルジック・エレクトロニカの名作。 - Under the Pressure by The War on Drugs
プレッシャーのなかで心を保ち、歩き続けようとする者たちへの応援歌。
6. “動かなくなった遊園地に、さよならを告げる勇気”
「Farewell to the Fairground」は、終わらせることの痛みと、そこに含まれる希望を、見事にロックソングへと昇華した傑作である。
過去はもう機能していない。それでも、そこには確かに楽しい時間があった。
それに別れを告げるのは、悲しい。でも、そこからしか新しい人生は始まらない。
この曲の“走り続けろ”というメッセージは、夢を見終えた後の現実へと進む覚悟であり、居場所を探しに行く旅人すべてへの静かなエールだ。
だからもし今、何かを手放さなければいけない夜にいるなら――
この曲は、きっとあなたの背中を押してくれる。
そしてそのとき、フェアグラウンドに響く“さようなら”は、きっと始まりの合図になる。
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