1. 歌詞の概要
「Dying for More(ダイイング・フォー・モア)」は、The Wannadies(ザ・ワナダイズ)が1994年に発表したアルバム『Be a Girl』に収録された楽曲であり、タイトルのとおり「もっとを求めて死にそうになる」という切実で、焦燥感に満ちた感情が核となっている。
この曲は、愛でも自由でも刺激でも何でもいい、「今以上の何か」を渇望する若者の欲望と不安を、疾走するギターと切実なボーカルで突きつけてくる。
“もっと欲しい”という感情は、自己実現への意志のようでもあり、どこか依存的な響きもある。
そのアンビバレントな状態を、この曲は非常にストレートな言葉で描いているが、音楽はどこかポップで甘い。
そのギャップが、むしろこの楽曲の“若さの狂気”をリアルに伝えている。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Be a Girl』は、The Wannadiesの出世作にして90年代スウェディッシュ・ギター・ポップの傑作であり、「You and Me Song」や「Might Be Stars」といった明るく希望に満ちた曲と並んで、「Dying for More」はアルバムの中でも特にエネルギーに満ちた、内面に迫る楽曲である。
バンドのフロントマン、Pär Wikstenの声は、この曲では特に“乾いた情熱”を帯びており、歌詞に宿る渇望感が音の熱量と共鳴している。
そのサウンドはパワーポップ的でありながら、どこかニュー・ウェーブの冷たさも感じさせ、まるで「追いかけるものの正体がわからないまま走り続ける若者たち」の姿をそのまま音にしたようである。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Dying for More」の印象的なフレーズを抜粋し、和訳を紹介する。
“I don’t know what I want / But I know that I want it now”
「何が欲しいのか分からないけど / 今すぐに欲しいってことだけは分かってる」
“I’m dying for more / I can’t stop now”
「もっと欲しくて死にそうなんだ / 今さら止まれないよ」
“All this time I’ve waited / For something to happen”
「ずっと待ってた / 何かが起こるのを」
“I’m not sure what it is / But I need it so bad”
「それが何なのか分からないけど / とにかく手に入れたくて仕方がない」
この歌詞には、明確な目的がないまま、欲望だけが膨張していく不安定さが見て取れる。
だがその“不安定さ”こそが、この曲の核心である。
歌詞全文はこちら:
The Wannadies – Dying for More Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Dying for More」は、“満たされなさ”をテーマにした非常に直線的な楽曲だが、その裏には90年代という時代特有の“虚無と欲望の共存”がある。
バブルが崩壊し、社会の価値観が揺らいだ時代、多くの若者は「何が正しいのか」「どこに向かえばいいのか」を見失い、それでも何かに突き動かされていた。
この曲は、そんな“理由なき飢え”を、そのままポップスにしたような感触を持つ。
とくに「わからないけど、今欲しい」という語りは、論理ではなく感覚で動く若さを象徴している。
それは愚かで、衝動的で、でも恐ろしいほど真実味がある。
その衝動があるからこそ、私たちは何かにぶつかって傷つき、そしてようやく“自分が何者なのか”を知っていくのだ。
また、「I’m dying for more(もっと欲しくて死にそうだ)」というラインは、やや過剰とも言えるが、その“言いすぎ”のなかに、青春の誠実さがある。
この曲は、未熟さを恥じるどころか、それをそのまま力に変えて爆発させている。
それが、The Wannadiesの魅力であり、この曲が今なお色褪せない理由でもある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Cherub Rock by The Smashing Pumpkins
“なりたい自分”と“認められたい自分”との葛藤を、ノイジーなギターで爆発させた名曲。 - Teenage Angst by Placebo
若者特有の“何に怒っているのか分からない怒り”を、そのままパッケージした衝動の歌。 - I Wanna Be Adored by The Stone Roses
“愛されたい”という根源的な欲望を、クールなサイケデリック・サウンドで表現。 - Little Fury Things by Dinosaur Jr.
意味のない感情が重なり合い、爆音の中に感傷を浮かび上がらせるローファイ名曲。 -
Connection by Elastica
何かに繋がりたいと願う気持ちを、パンキッシュに、スタイリッシュに叫んだ一曲。
6. “満たされない若さが、音になる瞬間”
「Dying for More」は、欲望の輪郭がまだ見えないまま、それでも“もっと”を求めて止まれない若者の姿を描いた、情熱と混沌のロックソングである。
その衝動の正体は不明瞭で、行き場もわからない。
けれどそれでも、「走り出さずにはいられない」というリアルな衝動が、聴く者の胸に直接響いてくる。
この曲は、“若さとは何か?”という問いに、“それは飢えだ”と即答するような存在である。
今を逃したくない、何者かになりたい、けれどまだ何もつかめていない――
そのどうしようもない感情を、Walt Minkではなく、The Wannadiesはこれ以上ないほど率直に、そして痛快に鳴らしてくれている。
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