
1. 歌詞の概要
「Come On(カム・オン)」は、アメリカのオルタナティブ・ロック・バンド、Letters to Cleo(レターズ・トゥ・クレオ)が1997年にリリースした3rdアルバム『Go!』に収録された楽曲であり、バンドのポップパンク的な衝動と、繊細でナイーブな感情が同時に疾走する、彼らの魅力を凝縮した一曲である。
曲全体に満ちているのは“停滞からの脱出欲求”であり、それは誰かに呼びかける「Come on(行こうよ/やろうよ)」というシンプルなフレーズの反復に込められている。
この楽曲における語り手は、日常のくすぶった空気の中で、誰かを鼓舞しようとしていると同時に、自分自身にも言い聞かせている。
過ぎてしまった過去、うまくいかない現状、届かない想い。そうしたものを全部振り切って、とにかく動き出すこと。
その衝動を、疾走感あるバンドサウンドに乗せて叩きつけるように歌っているのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Come On」は、Letters to Cleoの3rdアルバム『Go!』(1997年)に収録されており、バンドとしての“最後の加速”ともいえる作品群の中の一曲である。
この時期、バンドはメジャーレーベルとの関係やシーンの変化に直面しており、ある種の焦燥と再出発への意志が、歌詞とサウンドの両方から感じ取れる。
ボーカルのKay Hanley(ケイ・ハンリー)の声は、以前よりも力強く、よりストレートになっており、その感情は「迷っている時間はない」という即時性の中で表現されている。
バンドとしての円熟と、オルタナティブ・ロックの持つエネルギーが同居したこの楽曲は、“青春の終わり際の暴走”のような情熱を帯びている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Come On」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“Come on, let’s go / Don’t say no”
「さあ、行こうよ / イヤなんて言わないで」
“Don’t look back / There’s nothing left for you there”
「もう振り返らないで / 君が戻るべきものなんて、そこにはないんだ」
“We’ve been stuck too long / In the same sad song”
「私たちはずっと同じ悲しい歌に囚われてきた」
“We can start again / If you just say when”
「君が“今だ”って言えば / またやり直せるよ」
歌詞全文はこちらで確認可能:
Letters to Cleo – Come On Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Come On」は、内面の迷いや傷を抱えながらも、それでも前に進もうとする決意の歌である。
その“Come on”という繰り返しには、他人への励ましであると同時に、自己暗示的な響きがある。
誰かと共に前を向きたい、でも実際には“自分を引きずってでも立ち上がらせる”ための言葉なのかもしれない。
また、「Don’t look back(もう振り返らないで)」というフレーズが示すように、過去の出来事に囚われて前に進めない自分や他者に対して、「過去より今を信じよう」という姿勢が貫かれている。
それは安易な楽観主義ではなく、喪失や停滞を知ったうえで、それでも“選び直せる”という信念に支えられたものである。
音楽的には、3分足らずの短さの中に、疾走感、メロディアスさ、そして感情のピークを巧みに詰め込んでおり、Kay Hanleyのヴォーカルは、あらゆる混乱を振り切るように真っすぐである。
ポップパンク的な勢いと、センチメンタルな余韻のバランスが絶妙で、聴き終えた後に“自分も何かを始めたくなる”ような気持ちを残す。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- My Favorite Game by The Cardigans
疾走するギターと“誰かにぶつかりながら進む”ような衝動が共鳴する楽曲。 - Just a Girl by No Doubt
日常に閉じ込められそうな自我を、ポップに跳ね返す反骨のエネルギー。 - Why Can’t I? by Liz Phair
恋と人生の再出発を鮮やかに描く、女性的なポップ・ロックの代表格。 - The Middle by Jimmy Eat World
「自分はまだ途中にいる」と肯定するポジティブなオルタナティブ・アンセム。 - Suddenly I See by KT Tunstall
日常の中での“気づき”と“前進”を、軽快なサウンドと共に歌い上げた一曲。
6. “一歩踏み出すことがすべてを変える”
「Come On」は、あまりにも単純な言葉の繰り返しのように聞こえるかもしれない。
でも、そのシンプルな言葉に込められたのは、「まだ間に合う」「今からでも遅くない」「進め」という確かなメッセージである。
迷いや後悔、傷や不安があっても、止まってしまえば何も始まらない――そう語りかけてくるこの楽曲は、心のブレーキをほんの少しだけ緩めてくれる存在だ。
「Come On」は、静かに行き詰まった心をふっと押してくれる、小さなロックンロールの突風である。
聞いた瞬間に、“止まっていたものが動き出す”感覚。それこそが、この曲の持つ魔法なのだ。
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