
1. 歌詞の概要
「Come Back Around」は、Feederが2002年にリリースした4枚目のスタジオ・アルバム『Comfort in Sound』のオープニングを飾る楽曲であり、同年9月にシングルとしても発表された。タイトルの通り、「戻ってくる」という動詞が象徴するのは、失われたものへの再訪であり、喪失の痛みと再生への願いが渦巻くエネルギッシュなロックナンバーである。
歌詞の中心にあるのは、いなくなってしまった“君”を思い出し、その不在を埋めようとする感情の流れである。語り手は、過去に交わした言葉や思い出を何度もなぞりながら、それでも“君はもうここにいない”という事実を受け止めきれないままでいる。
感情の高まりとともに「Come back around(戻ってきてくれ)」と何度も繰り返すこの曲は、単なる失恋の歌ではなく、もっと深く、取り返しのつかない喪失と向き合うための“叫び”のようでもある。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Come Back Around」は、Feederにとって最も苦しかった時期に生まれた作品である。2002年1月、バンドのオリジナル・ドラマーであったジョン・リー(Jon Lee)が自殺によりこの世を去るという悲劇に見舞われた。彼の死はメンバーに大きな衝撃を与え、Feederの存続すら危ぶまれるほどであった。
しかし、その悲しみと混乱の中で制作されたのが『Comfort in Sound』であり、「Come Back Around」はその幕開けを告げる1曲として配置された。実際、この曲の歌詞にはジョンへの想いが色濃く反映されているとされ、彼の不在がもたらした精神的な空洞と、その中でもバンドとして再び歩き出そうとする意志が同居している。
ミュージックビデオでは、女性ドラマー4人が演奏する姿が映し出されるが、これはジョンの不在を象徴的に表現したものであり、Feederにとって“ジョンなしでも進んでいく”という決意表明でもあった。この映像はその大胆さと美しさで多くの注目を集め、バンドの新たな出発を印象づけることに成功した。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、楽曲の印象的な歌詞を抜粋し、英語と日本語訳を紹介する。
“I know you’re gone, I watched you leave”
「君がいなくなったことはわかっている、去っていく姿を見ていた」
“But I’ll still hold on to the memories”
「それでも僕は記憶にしがみついてしまうんだ」
“Come back around, I’ll be waiting”
「戻ってきてくれ、僕はずっと待っているから」
“Come back around, we could be something again”
「戻ってきてくれたら、また何かになれるかもしれない」
“You left a space inside of me”
「君は僕の中に、大きな空白を残していったんだ」
歌詞全文はこちらで確認できる:
Feeder – Come Back Around Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
この曲が内包する感情は一言で言えば「痛み」だが、それは過去の悲しみにただ沈むものではなく、“再生への第一歩”としての痛みである。冒頭の「I know you’re gone」という受け入れの言葉と、「Come back around」という願いの反復は、矛盾しているようでいて、実は人間の感情としてきわめて自然な流れを持っている。
心のどこかではもう“戻ってこない”ことを理解しながらも、喪失に向き合うプロセスの中で「それでも戻ってきてほしい」と願う。ここには、忘れることと記憶すること、前を向くことと立ち止まることの間で揺れ動く、リアルな精神の軌跡が刻まれている。
また、「You left a space inside of me(君は僕の中に空白を残していった)」というラインは、この喪失がどれほど深く、根源的なものであるかを示している。Feederはこの喪失を感傷に流れることなく、むしろ力強いロックサウンドで包み込むことにより、その痛みと真正面から対峙する勇気を楽曲として表現しているのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Numb by Linkin Park
喪失や自己否定に向き合う姿勢が共通しており、抑えきれない感情の奔流が共鳴する。 - Wake Me Up When September Ends by Green Day
故人への想いと、季節の中に残る記憶を歌い上げたバラードで、「Come Back Around」と似た喪失の感覚がある。 - Fake Plastic Trees by Radiohead
空虚さと逃れられない感情の重さを、静かに、しかし確実に響かせる楽曲。 - Into My Arms by Nick Cave & The Bad Seeds
喪失と祈りが入り混じるような静謐なラブソングで、魂の深い部分に触れるような歌詞が特徴。 - There There by Radiohead
不穏なリズムの中にある救済への憧れと、曖昧な感情を輪郭づけるような楽曲構造が秀逸。
6. 喪失の先にある“音楽の再生”
「Come Back Around」は、Feederにとって音楽的なターニングポイントであると同時に、感情的にも“再生”の始まりを告げる曲であった。ジョン・リーの死という取り返しのつかない喪失に対して、バンドが選んだのは“黙る”ことではなく、“音を鳴らし続ける”ことだった。
この曲には、その選択の重みと誠実さが詰まっている。だからこそ聴く者は、激しいギターとともに響く「Come back around」の声に、単なる悲しみ以上の何か――“希望の火種”を見出すのだ。
痛みが癒えることはないかもしれない。しかしその痛みとともに前に進む術を、音楽は教えてくれる。
Feederの「Come Back Around」は、喪失のなかで再び立ち上がろうとするすべての人のために、永遠に鳴り続ける“祈り”のような楽曲である。
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