
1. 歌詞の概要
After Hoursは、アメリカのインディーロックバンド、We Are Scientistsが2008年に発表した楽曲である。アルバムBrain Thrust Masteryからのリードシングルとして2008年3月3日にリリースされ、UKシングルチャートでは最高15位を記録した。これはバンドにとって、当時までで最も高い順位を記録したシングルでもある。(wikipedia.org)
タイトルのAfter Hoursは、営業時間後、閉店後、夜更け、という意味を持つ。
この曲で歌われるのは、夜が終わりかけている時間の感覚である。
店は閉まりそうだ。
人は帰り始める。
街の明かりは少しずつ薄くなる。
でも、語り手たちはまだ帰りたくない。
このドアはいつでも開いている。
誰も自分たちを締め出す勇気なんてない。
もしここを出なければならないとしても、どこかにはまだ飲める場所があるはずだ。
時間なんて意味がない。
最後の一杯を飲もう。
だから、ここにいてほしい。
歌詞だけを見れば、かなりシンプルだ。
夜遊び、酒、居残り、もう一杯、帰りたくない気持ち。
しかしAfter Hoursが魅力的なのは、その軽い題材の中に、時間が終わっていくことへの切なさがにじんでいるからである。
この曲の語り手は、単に酔って騒いでいるだけではない。
夜が終わることを拒んでいる。
つまり、時間が流れることを拒んでいる。
Time means nothing。
時間なんて意味がない。
このフレーズは、酔った勢いの強がりにも聞こえる。
でも同時に、とても悲しい言葉でもある。
本当は時間には意味がある。
夜は終わる。
店は閉まる。
人は帰る。
明日が来る。
関係も、感情も、同じままではいられない。
だからこそ、時間なんて意味がないと言いたくなる。
After Hoursは、酔った夜のアンセムでありながら、終わりを先延ばしにする曲でもある。
帰らなければならないことを知っている人たちが、それでも最後の数分を永遠のように引き伸ばそうとする曲なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
We Are Scientistsは、Keith MurrayとChris Cainを中心に活動してきたバンドである。アメリカ出身のバンドだが、2005年のメジャーデビュー作With Love and Squalorで特にイギリスで大きな人気を得た。With Love and SqualorはUKでゴールドディスクを獲得し、Nobody Move, Nobody Get Hurtなどのシングルによって、2000年代半ばのインディーロック/ダンスパンク的な潮流の中で広く知られるようになった。(pitchfork.com)
Brain Thrust Masteryは、その後に発表された2作目のメジャーアルバムである。前作のギター主体の勢いに比べ、シンセやより大きなプロダクションを取り入れた作品として受け止められた。Pitchforkは同作について、With Love and Squalorの成功後に作られたアルバムであり、前作よりもシンセティックな音作りが前に出ていると評している。(pitchfork.com)
After Hoursは、そのアルバムのリードシングルだった。
つまり、この曲にはバンドの変化を示す役割があった。
前作のWe Are Scientistsは、鋭いギター、速いテンポ、酔っぱらいの自意識、皮肉っぽいロマンティシズムを武器にしていた。
After Hoursにもその成分は残っている。
ただし、サウンドは少し大きく、少し感傷的で、よりアンセム的になっている。
Drowned in Soundはこの曲について、古くからのファンを再び引き寄せるような、絶えず鳴るメロディックなギターとボーカルフックを持つ曲だと評している。(drownedinsound.com)
またNewcityは、After Hoursを爽快で純粋なラジオポップソングとし、酔わせるようなボーカルメロディと前へ進み続けるギターリードを持ち、Say that you’ll stayのリフレインではアンセムを聴いているように感じると評している。(music.newcity.com)
このアンセム感は、曲の内容とよく合っている。
After Hoursは、個人の内省というより、夜の終わりにその場にいる人たち全員で歌うような曲だ。
バーでも、クラブでも、ライブハウスでもいい。
誰かが帰ろうとしている。
誰かがもう一杯と言っている。
誰かがまだ終わってほしくないと思っている。
そこに、Say that you’ll stayというフレーズが響く。
これは恋人への言葉にも聞こえる。
友人への言葉にも聞こえる。
夜そのものへの言葉にも聞こえる。
行かないで。
終わらないで。
まだここにいて。
この曖昧さが、After Hoursをただの飲酒ソング以上のものにしている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の全文はDorkやSpotifyなどで確認できる。ここでは権利に配慮し、短いフレーズのみを引用する。DorkではAfter Hoursの歌詞が掲載され、Spotifyでも楽曲ページ上で冒頭歌詞を確認できる。歌詞の権利はWe Are Scientists、Keith Murray、Chris Cainおよび各権利者に帰属する。(readdork.com, open.spotify.com)
This door is always open
和訳:
このドアはいつだって開いている。
冒頭から、曲は開かれた場所を提示する。
ドアが開いている。
つまり、まだ閉め出されていない。
まだ終わっていない。
まだ中にいられる。
しかし、何度もこの言葉を繰り返すことで、逆にいつか閉まることへの不安も見えてくる。
No one has the guts to shut us out
和訳:
誰も僕らを締め出す勇気なんてない。
これは強がりの言葉である。
本当に誰も締め出せないのか。
たぶん、そんなことはない。
でも酔った夜には、自分たちだけが特別で、世界のルールを少し曲げられるような気がする。
この一節には、その夜の万能感がある。
Some place will be serving after hours
和訳:
どこかでは、営業時間後にもまだ酒を出しているはず。
ここには、終わりを先延ばしにする願望がある。
今いる場所が閉まっても、別の場所がある。
この夜が終わっても、別の夜がある。
そう信じることで、終わりの感覚をごまかしている。
Time means nothing
和訳:
時間なんて意味がない。
曲の中心的なフレーズである。
夜が深まるほど、時計の感覚は溶けていく。
でも、実際には時間は進んでいる。
だからこの言葉は、自由の宣言であると同時に、現実への抵抗でもある。
Say that you’ll stay
和訳:
ここにいるって言ってくれ。
この曲で最も切実なフレーズである。
これは命令ではない。
懇願に近い。
楽しい夜の中に、誰かを失いたくない気持ちが混ざっている。
We’re all right where we’re supposed to be
和訳:
僕らはみんな、いるべき場所にいる。
このフレーズは、曲の一瞬の肯定である。
この時間。
この場所。
この酔い。
この仲間。
すべてが正しいように感じられる。
その感覚は一時的かもしれない。
でも、だからこそ美しい。
引用元:Dork Lyrics、Spotify掲載歌詞。歌詞の権利はWe Are Scientists、Keith Murray、Chris Cainおよび各権利者に帰属する。(readdork.com, open.spotify.com)
4. 歌詞の考察
After Hoursの歌詞は、夜の終わりを引き延ばす歌である。
表面的には、バーやクラブでの夜遊びの歌だ。
閉店時間が近づく。
でもまだ帰りたくない。
どこか別の店へ行けば、まだ飲めるかもしれない。
最後の一杯を飲もう。
もう少し一緒にいよう。
ただ、それだけの曲として聴いても十分に楽しい。
しかし、この曲の本当の魅力は、そのただそれだけの中に、若さの終わりや関係の儚さがにじむところにある。
人はなぜ、夜を終わらせたくないのか。
楽しいから。
酒があるから。
友人がいるから。
好きな人がいるから。
それもある。
でも、もっと深いところでは、夜が終わると現実が戻ってくるからだ。
昼間の自分。
仕事。
責任。
言えなかったこと。
曖昧な関係。
明日の孤独。
夜は、それらを一時的に遠ざける。
特に酔った夜は、時間の感覚をぼかしてくれる。
だからTime means nothingと歌いたくなる。
しかし、時間が本当に意味を失うことはない。
この曲は、その矛盾を知っている。
Time means nothingと何度も歌うほど、逆に時間の存在が強く感じられる。
夜は終わる。
終わるからこそ、そう言わなければならない。
After Hoursの語り手は、時間を止めたいのではない。
正確には、時間が進んでいることを知りながら、しばらくだけ知らないふりをしたいのだ。
この感覚は、とても2000年代インディーロック的である。
We Are Scientistsの曲には、しばしば酒、恋愛、自己嫌悪、皮肉、軽さ、そして少しの切なさが混ざる。
彼らは深刻な顔をしすぎない。
でも、何も感じていないわけではない。
むしろ、感じすぎるから冗談にするタイプのバンドである。
After Hoursもそうだ。
歌詞はシンプルで、ある意味ではばかばかしい。
でも、Say that you’ll stayの反復には本気がある。
この言葉は、ただ一緒に飲み続けようという意味だけではない。
自分のそばにいてほしい。
この夜の空気を壊さないでほしい。
明日になっても、この感じを忘れないでほしい。
そんな願いが重なっている。
また、We’re all right where we’re supposed to beというフレーズも重要である。
人は普段、自分がいる場所に自信を持てない。
本当にここでいいのか。
この仕事でいいのか。
この関係でいいのか。
この街でいいのか。
そういう問いが常にある。
でも、深夜のある瞬間だけ、すべてが正しいように感じられることがある。
この人たちといる。
この店にいる。
この曲が鳴っている。
もう少し飲む。
それだけで、今は十分だと思える。
After Hoursは、その一瞬を歌っている。
だからこの曲は、酔っぱらいの言い訳でありながら、場所と時間への小さな信仰でもある。
サウンド面では、曲はかなり開けている。
ギターは前へ進む。
リズムは軽快で、メロディは大きく、サビは自然に声を合わせたくなる。
Brain Thrust Mastery全体はシンセや厚いプロダクションの評価が分かれた作品だったが、After Hoursに関しては、多くのレビューでアルバムのハイライトとして扱われている。Pitchforkもアルバムレビュー内で、After HoursをJimmy Eat WorldのChase This Light期に通じるような、機能するポップロック曲として挙げている。(pitchfork.com)
Louder Than Warの回顧記事では、After Hoursについて、角張ったギターリフ、哀愁を帯びたストリングス、オルガンに包まれた曲であり、夜更けの飲酒へのオードとして書かれながら、より深い意味にも読める響きを持つと評している。(louderthanwar.com)
このより深い意味にも読めるという点が、まさにAfter Hoursの核心である。
曲はあえて大げさな人生論を語らない。
ただ、閉店後も飲める場所を探している。
でも、その行為の中に、終わりを拒む人間の普遍的な姿がある。
恋もそうだ。
友情もそうだ。
若さもそうだ。
良い時間は、終わるとわかっているからこそ、もう少しだけ続いてほしいと思う。
After Hoursは、そのもう少しだけの歌なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Nobody Move, Nobody Get Hurt by We Are Scientists
2005年のアルバムWith Love and Squalorを代表する楽曲であり、We Are Scientistsの初期の鋭さを知るには欠かせない。After Hoursよりもテンポが速く、ギターもより直線的で、2000年代半ばのインディーロックの勢いが詰まっている。
After Hoursの夜の感傷に対して、こちらはもっと衝動的で、酔った自意識が前へ飛び出す曲である。
- It’s a Hit by We Are Scientists
With Love and Squalor収録曲で、バンドの皮肉っぽいポップセンスがよく出た一曲である。After Hoursのメロディの強さが好きなら、この曲のフックの立ち方も自然に響く。
We Are Scientistsらしい、軽い言葉の奥にある疲れたユーモアを味わえる。
- Chick Lit by We Are Scientists
Brain Thrust Masteryからのセカンドシングルで、After Hoursと同じ時期のバンドの音を知るうえで重要な曲である。Brain Thrust MasteryからはAfter Hoursに続いてChick Litがシングルとしてリリースされた。(wikipedia.org)
よりシンセ寄りで、アルバムの80年代ニューウェーブ的な方向性も見える。After Hoursの開けたアンセム感とは違うが、同じ時代のWe Are Scientistsらしいポップなひねりがある。
- All These Things That I’ve Done by The Killers
Guardianのレビューでは、After HoursがThe KillersのAll These Things That I’ve Doneにかなり近いと評されている。(theguardian.com)
確かに、夜の高揚感、大きなコーラス、ロックアンセムとしてのスケール感には通じるものがある。After Hoursのサビで胸が開く感じが好きなら、この曲も合う。
- The Middle by Jimmy Eat World
PitchforkはAfter Hoursについて、Jimmy Eat World的なポップロックの文脈で触れている。(pitchfork.com)
The Middleはより明るくストレートだが、シンプルなギターポップが持つ肯定感、声を合わせたくなるサビ、少し傷ついた人に届く感じが共通している。
6. 夜が終わる前に、もう一杯だけ
After Hoursは、We Are Scientistsの中でも特に広く届いた曲である。
理由はわかりやすい。
メロディが強い。
サビが大きい。
ギターは前へ進む。
そして、歌詞の状況が誰にでもわかる。
まだ帰りたくない夜。
終電を逃してもいい気がする夜。
誰かに、もう少しいてほしい夜。
明日が来ることを、少しだけ忘れたい夜。
この曲は、その感覚をそのまま鳴らしている。
ただし、After Hoursは完全なパーティーソングではない。
むしろ、パーティーが終わりかけている曲である。
そこがいい。
始まりの高揚ではない。
最高潮の騒ぎでもない。
すべてが少しずつ片づき始め、床にこぼれた酒が乾き、店員が視線で帰れと言い始める時間。
その中で、まだ終わらせたくない人たちがいる。
この終わりかけの美しさが、After Hoursにはある。
Time means nothingという言葉は、酔った夜の強がりだ。
でも、強がりだからこそ美しい。
本当は時間が意味を持つと知っている。
だからこそ、そう言わなければならない。
Say that you’ll stayというフレーズも同じだ。
本当に相手がずっといるとは限らない。
むしろ、いなくなる可能性があるからこそ、その言葉は切実になる。
ここにいて。
この夜を終わらせないで。
今だけでいいから、同じ場所にいて。
We Are Scientistsは、その切実さを、深刻にしすぎず、ポップに鳴らす。
そこに彼らの良さがある。
冗談っぽい。
軽い。
でも、ふと本音が漏れる。
After Hoursは、その本音が最もきれいに出た曲のひとつである。
Brain Thrust Masteryというアルバム自体は評価が分かれた。
前作の勢いを期待したリスナーには、シンセや厚いプロダクションが重く感じられた部分もあった。
しかしAfter Hoursは、その変化の中で最も成功した曲として残っている。
ギター、メロディ、シンセ、ストリングス的な響き、そして夜の終わりへの感傷。
それらがちょうどよく混ざっている。
この曲は、大げさな人生の答えをくれない。
ただ、夜の終わりにひとつの場所を作ってくれる。
ドアはまだ開いている。
誰も僕らを締め出せない。
どこかにはまだ飲める場所がある。
時間なんて意味がない。
だから、ここにいてくれ。
それは、ばかばかしい願いかもしれない。
でも、人生の中でそういうばかばかしい願いが必要な夜はある。
After Hoursは、その夜のための曲である。
終わることを知りながら、もう少しだけ続けたい。
その小さな抵抗を、We Are Scientistsは最高にキャッチーなインディーロック・アンセムにした。
曲が終わったあとも、どこかでまだドアが開いているような気がする。
そして、もう一杯だけなら、まだ間に合うような気がするのだ。

コメント