
1. 歌詞の概要
「Alison’s Starting to Happen(アリソンが動き出した)」は、The Lemonheads(レモンヘッズ)が1992年にリリースしたアルバム『It’s a Shame About Ray』に収録された、バンド随一の陽気で弾けるパンク・ポップナンバーである。
この曲は、内省的でメランコリックな楽曲が多い同アルバムの中にあって、ひときわ明るく、若さの衝動や性への目覚め、自由への一歩を軽快に描いた異色の存在である。
タイトルの「Starting to Happen」という表現が象徴するのは、思春期特有の“変化”や“目覚め”。
主人公は、自由奔放な女の子・アリソンに目を奪われ、彼女の内面と身体、精神的な成長や変化に興奮を覚える。
しかしその描写は決して下世話ではなく、どこか無垢で、ティーンエイジャーの憧れや混乱をユーモラスに切り取っている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Alison’s Starting to Happen」は、The Lemonheadsの中心人物エヴァン・ダンドー(Evan Dando)の作詞作曲によるもの。
1990年代初頭、グランジやオルタナティブ・ロックが台頭する中で、The Lemonheadsは“アメリカ版Buzzcocks”とも称されるような、甘くて鋭いポップパンクの作り手として高い評価を得ていた。
この楽曲は、バンドが好んで取り上げる“青春のほろ苦さ”というテーマを、今回はコミカルな視点からアプローチしている。
アリソンという少女はおそらく実在の人物ではなく、変化の象徴であり、混乱と魅力に満ちた「今、何かが始まろうとしている」存在として描かれている。
アルバムの中では、タイトル曲「It’s a Shame About Ray」や「My Drug Buddy」のような静けさを帯びた曲と対照的に、この「Alison’s Starting to Happen」は、バンドのポップ・パンク的ルーツとユーモアセンスを一気に放出する役割を担っている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Alison’s Starting to Happen」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“Alison’s starting to happen / Alison’s starting to happen to me”
「アリソンが動き出したんだ / 僕の中でも、アリソンが動き出してる」
“This world is topsy-turvy / And it is mine to eat”
「この世界はひっくり返ってる / でもそれは僕のもの、丸ごと味わえるんだ」
“She’s changing her name from Kitty to Karen / She’s trading her MG for a white Chrysler LeBaron”
「彼女は名前をキティからカレンに変えようとしてる / MG(車)を白いクライスラー・ルバロンに乗り換えるんだ」
“Alison’s starting to happen / To me”
「アリソンが、まさに僕の中で動き出してる」
歌詞全文はこちらで確認可能:
The Lemonheads – Alison’s Starting to Happen Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Alison’s Starting to Happen」は、明確なプロットを持たない。
それゆえに、すべてが“感覚”で描かれている。アリソンの変化、振る舞い、外見の変化は、そのまま語り手である“僕”の心の動揺や期待を映し出している。
恋の始まり、あるいは誰かへの性的な目覚め、それが自分自身にも“何かが起き始めている”という実感と重なっていく。
興味深いのは、アリソンという存在が、ある時点までは“観察される側”だったのに、気づけば“自分の中でも動き出している”存在として語られていること。
これは思春期の恋愛や憧れが、“外の誰か”への興味から“自分自身の変化”へと転化するプロセスを表している。
また、エヴァン・ダンドーのヴォーカルはあくまで軽やかで、真剣すぎない。
だからこそ、この曲は青春期の“照れくさくて、ちょっと恥ずかしいけど忘れがたい気持ち”を、普遍的に捉えることに成功している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Debbie by The B-52’s
ちょっと風変わりでチャーミングな女性への憧れを、カラフルに描いたポップ・ソング。 - Cath… by Death Cab for Cutie
変わっていく彼女、変われない自分という構図に苦さを感じる青春ラブソング。 - Girlfriend by Matthew Sweet
歪んだギターとポップなメロディで恋の躍動感を描いた90年代ギター・ポップの傑作。 - Freak Scene by Dinosaur Jr.
青春の不安定さと社会への違和感をパワフルに表現したオルタナティブ・クラシック。 - She’s in Fashion by Suede
“変化し続ける彼女”を、都市の風景と重ね合わせたグラマラスなポップソング。
6. “動き出した彼女、そして僕”
「Alison’s Starting to Happen」は、若者が“誰かの変化”に心を揺らされ、自分の中にも“何かが始まってしまった”瞬間を描いた、軽やかで鋭い青春ソングである。
それは恋のはじまりのようでもあり、自我の目覚めのようでもあり、あるいはその両方が渾然一体となった、あいまいで、しかし忘れがたい感覚だ。
この曲は、“何が起きたのかは説明できないけれど、とにかく気づいたら気になってしょうがない”という、人生における大切な感情のひとつを、完璧なリズムとポップ感覚で描き切っている。
「Alison’s Starting to Happen」は、青春という名の混乱が、音楽の中で鮮やかに弾けた瞬間である。
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