発売日: 2000年5月16日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、グランジ、ハードロック
概要
『Resolver』は、Veruca Saltが2000年に発表した3枚目のスタジオ・アルバムであり、共同創設者であるNina Gordon脱退後、Louise Post主導の新体制で再始動した「再構築のアルバム」である。
前作『Eight Arms to Hold You』(1997年)の大成功とその後の分裂劇を経て、バンドは大きな転機を迎える。
Nina Gordonの繊細なメロディセンスとハーモニーが消えた後のVeruca Saltは、より重く、より内省的で、そしてより怒りを孕んだロックへと傾倒していく。
その変化は、タイトルの“Resolver”——問題解決者、または決着をつける者——という言葉にも象徴されており、Louise自身の個人的な決意表明としての性格が色濃い。
この作品は、女性の怒り、裏切り、失望、そして再生を骨太のギターと剥き出しのボーカルで表現した、非常に私的でエモーショナルなアルバムである。
商業的には前作ほどの成功には至らなかったが、その内発的エネルギーと真摯なロック魂は、ファンの間で今なお高く評価されている。
全曲レビュー
1. The Same Person
再始動の幕開けを告げる、激しくもタイトなギターリフ。
「同じ人間であり続けること」の苦悩がテーマ。
過去への決別と自己肯定のあいだで揺れるリリックが印象的。
2. Born Entertainer
アルバムのリードシングル。
「私は生まれつきのエンターテイナーじゃない」と繰り返すサビは、Nina脱退への明確なアンサーとも取れる。
自己防衛と皮肉が入り混じる、痛烈なナンバー。
3. Best You Can Get
エネルギッシュなパワーポップ寄りのロック。
「これがあなたにとってのベストよ」と言い放つ姿勢に、ルイーズの怒りと自信がのぞく。
4. Yeah Man
スラッジ気味のギターと、ダウナーなムードの曲調。
男性中心の音楽業界への反抗とも読める、攻撃的なトーン。
5. Imperfectly
テンポを落とし、エモーショナルに歌い上げるバラード調の楽曲。
“私は不完全だけど、これが私”という自己受容の主題が美しく表現される。
6. Officially Dead
再びギアを上げる、怒りの爆発トラック。
“公式に死んだ”というフレーズに、関係や過去との完全な決別が込められる。
7. Only You Know
少しグランジ回帰的なギターとメロディライン。
内面の痛みと向き合いながらも、それを他人と共有できない孤独を歌う。
8. Disconnected
躁的とも言えるアップテンポで突き進む一曲。
“切断された”というテーマが、テクノロジーと人間関係の両面で重なる。
9. All Dressed Up
シューゲイザー風の音処理が施された抒情的な一曲。
“ドレスアップしたのに、行く場所がない”というフレーズに、孤独な決意がにじむ。
10. Used to Know Her
アコースティックな導入が美しい楽曲。
“かつて彼女を知っていた”という過去形の表現が、Ninaとの関係の終焉を暗示する。
11. Pretty Boys
セクシャルな権力構造とイメージへの嫌悪をぶつけたアグレッシブな楽曲。
ルイーズのフェミニズム的視点が最も強く表れるトラック。
12. Hellraiser
ヘヴィなリフと地を這うようなベースが特徴。
「私は破壊者」という自己定義が、反ヒロイン像として痛快。
13. Impose Magnificent
ラストを飾るスロウで劇的なナンバー。
“威厳を押し付ける”という不穏なタイトルの通り、支配と解放のテーマが交錯する。
荘厳で終末的な余韻を残す。

総評
『Resolver』は、Veruca Saltの“片翼”を失ったのではなく、むしろ“新しい姿”に生まれ変わるための決断を音にしたアルバムである。
Nina Gordonの不在によって失われた甘さやハーモニーは確かに大きいが、Louise Postのロックへの執念、怒り、痛み、そして生き延びようとする意思が、凄まじい密度で刻み込まれている。
それは女性アーティストが「怒る」ことを正当な表現として提示した、2000年代初頭における重要な一石でもある。
サウンドはより重く、より荒く、よりダイレクトになった。
そして歌詞は、他者への非難や皮肉にとどまらず、自分自身との対話と肯定へと向かっていく。
『Resolver』は、Veruca Saltというバンドの“サバイバル”の物語であり、同時にLouise Postというアーティストの真の出発点なのかもしれない。
おすすめアルバム(5枚)
- Hole / Celebrity Skin
バンド内の変化と再構築を経て完成した“女性ロックの表裏”。Veruca Saltと同様の転換点を描く。 - PJ Harvey / Stories from the City, Stories from the Sea
怒りと内省、都市と感情をテーマにした傑作。Louise Postの視点と共鳴。 - Garbage / Beautiful Garbage
フェミニンな攻撃性とエレガントな表現の融合。『Resolver』の硬派な進化形。 - The Distillers / Coral Fang
女性主導のパンキッシュな怒りとロック美学が光る、エネルギーに満ちた作品。 - Juliette and the Licks / Four on the Floor
女優ジュリエット・ルイスによる攻撃的なロック。Louise Postの荒々しさと近い衝動を感じる。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『Resolver』は、Veruca Saltの中で唯一Louise Postが単独でリーダーシップを取り、アルバム全体を監督・構築した作品である。
プロデューサーにはBrian Liesegang(ex-Filter)を迎え、シカゴの音楽的土壌の中で、じっくりと制作が進められた。
録音期間中、Louiseはメディアへの露出を控え、アルバムのリリースはリスナーとの“直接対話”の場として位置づけられた。
そのため、本作にはマーケティング的な演出よりも、彼女自身の感情と言葉が圧倒的に優先されている。
『Resolver』は、90年代的オルタナティヴ・ロックの終焉と2000年代の“内面化された怒り”の時代への橋渡しを担った、過小評価されがちな傑作である。
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