発売日: 2001年5月14日
ジャンル: ドリームポップ、サイケデリックポップ、オルタナティヴロック、バロックポップ
概要
『Reveal』は、R.E.M.が2001年にリリースした12作目のスタジオ・アルバムであり、前作『Up』での実験と喪失の時代を経て、光と色彩を取り戻すように制作された“再浮上”のアルバムである。
1998年の『Up』は、ドラマーのビル・ベリー脱退後の初作として、アンビエントやエレクトロニクスを導入した意欲作だったが、同時に静けさと内省に満ちていた。
それに対し『Reveal』では、光、自然、愛、希望といったテーマが前景化し、音楽的にも明るく浮遊感のあるサウンドが中心となっている。
制作にあたっては、プロデューサーに再びパット・マッカーシーを迎え、マイク・ミルズのマルチインストゥルメンタリズムが重要な役割を果たす。
ピーター・バックはギターよりもシンセやキーボードのテクスチャに比重を置き、バンドとしての“音の肌理(きめ)”を再構築する方向へと進んだ。
全体的に、ブライアン・ウィルソン、バート・バカラック、トッド・ラングレンらの1960~70年代の“サイケデリック・ポップ”の精神的影響が色濃く、
R.E.M.の持つ詩情がより豊かな色彩で包み込まれている。
全曲レビュー
1. The Lifting
『Up』の閉塞を解放するような、優しく透明な幕開け。
“夢から目覚める”というテーマが、記憶と希望の再接続を象徴する。
軽やかなシンセとストリングスが印象的。
2. I’ve Been High
ドリーミーなエレクトロポップ。
「高みにいた」と歌う声には、過去へのノスタルジーと、“今”への諦念が交錯する。
浮遊するシンセと囁くような歌声が、無重力の感覚を生む。
3. All the Way to Reno (You’re Gonna Be a Star)
レトロなミディアムバラード。
夢を追って町を出る若者へのアイロニカルなエールで、R.E.M.版「パフューム・ジーニアス」のような語り口を見せる。
クリティカルでやさしい視線。
4. She Just Wants to Be
ミルズの美しいベースラインが曲を牽引する、淡く切ないナンバー。
「彼女はただ“在りたい”だけ」──その欲求は、自己実現への静かな宣言。
ジェンダーやアイデンティティの揺らぎをそっと受け止める。
5. Disappear
ビートレスで儚いサウンドに、スタイプの囁きが重なる。
“消えること”を恐れず、受け入れるというテーマが、このアルバムの諦念と再生の精神を端的に示す。
6. Saturn Return
重たいシンセとドローン、低く深いスタイプのボーカルが、星の周期=人生の循環を連想させる。
最も実験的でミステリアスな一曲。
7. Beat a Drum
優雅なピアノとストリングスによる、オーガニックなスロー・ポップ。
心の奥で響く“ドラムの音”が、内なるリズム=生の根拠として語られる。
8. Imitation of Life
本作唯一のアップテンポで明確なシングルヒット。
『Document』期を思わせるギターポップだが、“人生の模倣”というタイトルが放つシニカルな哲学性により、軽快ながら深みがある。
MVのループ表現も話題に。
9. Summer Turns to High
ビーチ・ボーイズへの明確なオマージュ。
“夏が過ぎゆく瞬間”をテーマに、音そのものが陽炎のように揺らぐ。
スタイプのファルセットが儚い。
10. Chorus and the Ring
意味の断片が反復される、幻想的で不穏なトラック。
呪文のような語感と、崩壊寸前のハーモニーが、夢の中のサーカスのような違和感を残す。
11. I’ll Take the Rain
ピアノバラードから始まり、後半にかけて壮大に展開する本作のハイライト。
“雨を受け入れる”というテーマは、喪失の受容と再生のメタファー。
MVも詩的なアニメーションで美しい。
12. Beachball
柔らかく閉じるクロージングトラック。
“ビーチボールが波に揺れる”というイメージに、あらゆる喧騒から解き放たれた後の安堵と空虚が漂う。
総評
『Reveal』は、**R.E.M.が“沈黙と再起のあいだ”に選び取った、音と色彩による“日向の内省”**である。
前作『Up』の夜を越え、ようやく“朝の光”を浴びたかのような穏やかさと優しさに満ちている。
そこには明確なメッセージや叫びはない。
だが、その代わりに、人生におけるあいまいさ、不確かさ、ゆらぎを音に変換することで、聴き手に“安心して立ち止まる自由”を与えてくれる。
一聴して地味に映るかもしれないが、繊細なプロダクションと、スタイプの老練な声の陰影、ミルズの構築美、バックの静かな実験精神が織りなすこの作品は、
派手さのないままに、“成熟したR.E.M.”の最も親密な語りとなっている。
おすすめアルバム(5枚)
- The Beach Boys / Friends
『Summer Turns to High』の源流。短くも美しいハーモニーポップ。 - Talk Talk / Spirit of Eden
ポップから離れた静謐な空間の中で、再定義された音楽のあり方。 - The Flaming Lips / The Soft Bulletin
同時代的に“ロックの内面化”を進めた、壮麗な実験ポップ。 - Sufjan Stevens / Carrie & Lowell
繊細さ、優しさ、再生。語りの親密さという意味で通じる。 -
Air / Talkie Walkie
アコースティックとエレクトロニカの中間にある、フレンチ流の“R.E.M.的夢想”。
ビジュアルとアートワーク
アルバムジャケットは、極彩色の光がぼやけて広がる抽象的なグラフィックで構成されており、
まるで光に目が慣れるまでの“視界のぼやけ”を表現しているかのようだ。
これは、音の層の重なりと視覚イメージが完全に呼応しており、本作全体が“知覚のゆるやかな再起動”であることを示している。
『Reveal』は、夜明けではなく“午前9時の光”のような、やさしく明るいが、どこか寂しいアルバムである。
そこにあるのは、自己主張ではなく、**「そっと寄り添うことの美学」**なのだ。
コメント