発売日: 1984年9月13日
ジャンル: ダンス・ポップ、アーバン・コンテンポラリー、ロック
概要
『Swept Away』は、Diana Rossが1984年にリリースした11作目のスタジオ・アルバムであり、彼女の80年代における音楽的ピークのひとつとして高く評価される作品である。
RCA移籍後の4作目にあたる本作では、ポップ、ロック、ダンス、R&Bを自在に横断しながら、MTV以降の映像時代に対応した鮮やかなプロダクションが施されている。
最大のヒットは、ChicのNile Rodgersがプロデュースを担当した「Missing You」。
この楽曲は、1984年に亡くなったマーヴィン・ゲイに捧げられたバラードであり、Rossのキャリアにおける最も感動的な歌唱のひとつとして知られている。
また、Prince門下のギタリストJeffrey Osborneや、Daryl Hall（Hall & Oates）とのコラボレーションなど、当時のブラック・ポップと白人ロックの橋渡し的な作品としても重要な位置づけを持つ。
ビジュアル面でも、アーバンで華麗な装いのDiana Rossがジャケットに映し出され、彼女が単なるディスコ・クイーンではなく、時代を牽引するスタイル・アイコンであり続けていることを強調している。
全曲レビュー
1. Swept Away
アルバムのタイトル曲にして、Diana Rossのロック的側面を前面に押し出したアップテンポナンバー。
Daryl Hallとの共作で、ホールはバックボーカルでも参加。
感情の爆発をエッジの効いたギターとシンセが煽り、Rossのヴォーカルも熱量たっぷりに応答する。
“私の感情はあなたにさらわれた”というフレーズが印象的。
2. All of You（with Julio Iglesias）
ラテンポップの王Julio Iglesiasとのデュエットで、世界的に大ヒット。
甘く官能的なムードが全編に漂い、2人の声が絶妙に絡み合う。
バラードとしての完成度が高く、Rossの声の包容力が際立つ一曲。
3. Missing You
アルバム最大の名曲にして、マーヴィン・ゲイへの追悼ソング。
Nile Rodgersのプロデュースによるミニマルでエレガントなバラードで、Rossの内省的かつ誠実な歌声が深い共感を呼ぶ。
当時のアメリカのリスナーにとっても、個人的な悲しみと重ね合わせやすい普遍性を持つ。
4. Touch by Touch
80年代的なエレクトロ・ディスコ感が溢れるダンス・ナンバー。
軽快なビートとファンキーなベースが特徴で、Rossの柔らかくも芯のあるボーカルが楽しげな空気を作り出す。
シングルとしても成功を収めたクラブ向けのトラック。
5. Rescue Me
スロウでソウルフルなグルーヴを持つ一曲。
「私を救って」というシンプルな訴えが、Rossの説得力ある歌唱によって真に迫る。
内面的な苦悩と、それに対する微かな希望が込められた佳曲。
6. It’s Your Move
中性的な雰囲気のアーバン・バラードで、「次の一手を決めるのはあなた」という緊張感ある関係性を描く。
シンセとギターが穏やかに絡み合い、Rossのヴォーカルがその中で凛とした存在感を放つ。
7. Ain’t No Big Deal
ややレトロなガール・ポップ風のトラックで、サビのキャッチーさが耳に残る。
「失恋なんて大したことじゃない」と強がる姿が描かれ、ポップなアレンジとのギャップが面白い。
8. Crime of Passion
ドラマチックな展開を持つアーバン・ソウルナンバー。
不倫や裏切りをテーマにしつつも、激情よりも冷静さが際立つ構成が新鮮。
Rossの低音域が力強く、アルバム中でも“語る”タイプの楽曲。
9. Don’t Look Too Closely
本作の締めくくりにふさわしい、叙情的なミッドテンポのバラード。
「近づきすぎると壊れてしまうものもある」という詩的なテーマが、余韻のあるメロディに乗って展開する。
感情を抑えたボーカルが、大人の距離感を象徴している。
総評
『Swept Away』は、Diana Rossが1980年代の音楽的トレンドを見事に乗りこなし、自らのスタイルと融合させた作品である。
ディスコの女王から、ラブバラードの語り手、そしてロックをまとう大人の女性像へ――その変化を最も鮮やかに体現したアルバムのひとつだろう。
MTV時代を意識したアレンジとビジュアル演出、RCA期の集大成としての完成度の高さ、そして「Missing You」という不朽の名曲の存在。
それらは本作を、単なるヒット作以上の“時代の証言”へと押し上げている。
プロデューサー陣にはNile Rodgers、Daryl Hall、Richard Perryなど時代の顔が揃い、多彩なサウンドを“Diana Rossという人格”が統一していく様は圧巻。
女性アーティストが「自分を演出する力」を手にし始めた80年代において、Rossはその最前線を走る存在だった。
おすすめアルバム（5枚）
- 『Diana』 / Diana Ross（1980）
Nile Rodgersとの初コラボレーション作で、80年代スタイルの起点となる重要作。 - 『Private Dancer』 / Tina Turner（1984）
同年にリリースされた、ロックとソウルを横断する女性アーティストの転機作。 - 『Can’t Slow Down』 / Lionel Richie（1983）
ポップ、R&B、バラードが高次に融合された、同時代の大ヒット作。 - 『She’s So Unusual』 / Cyndi Lauper（1983）
個性と時代性を融合させたポップ・アルバム。Rossとは異なるが、同じく“80年代の女性像”を定義。 - 『Control』 / Janet Jackson（1986）
Diana Rossが切り拓いた“自己演出”の流れを、次世代が継承・拡張した代表例。
ビジュアルとアートワーク
『Swept Away』のジャケットでは、白地の背景に映える鮮やかなドレスと自信に満ちたDianaの眼差しが印象的。
洗練された都会の女性、しかし内面には情熱を秘めた存在――まさにこのアルバムの音楽性そのものを視覚化している。
スタイリッシュでありながら親しみやすく、強さと優しさが同居するRossの存在感は、この時代における女性ポップスター像の完成形とも言えるだろう。
『Swept Away』は、その音とヴィジュアル、そして物語のすべてにおいて、“風にさらわれるような感情”を体験させてくれる傑作である。
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