アルバムレビュー：God Save The Smithereens by The Smithereens

アルバムレビュー

2025.05.10

発売日: 1999年4月6日
ジャンル: パワーポップ、ロックンロール、オルタナティブ・ロック

『God Save The Smithereens』は、The Smithereensが1999年にリリースした通算6作目のスタジオ・アルバムであり、
**タイトルからも読み取れる通り、「再生」と「自嘲」**が交錯する、実にシンボリックな作品である。
バンドは90年代を通してメジャーとの契約を離れ、グランジやブリットポップ全盛の中で表舞台から徐々に距離を取っていたが、
このアルバムで見せたのは“時代に抗う”のではなく、“時代を超えて自分たちの場所を保つ”という静かな覚悟だった。

アルバムのタイトルはもちろん、Sex Pistolsの『God Save the Queen』のパロディでありながら、
パット・ディニツィオが抱えていたパワーポップの純粋性への誓いともとれる。
全体を通して派手なプロダクションや商業的な装飾は一切なく、
ギター、ベース、ドラム、そしてメロディ——それだけで勝負する“ロックバンドの矜持”が鳴っている。

全曲レビュー
総評
おすすめアルバム

全曲レビュー

1. She’s Got a Way
アルバムの幕開けを飾る、The Smithereensらしい直球のラブソング。
初期の勢いを思わせるギター・リフと、ナイーブで誠実なメロディが印象的。

2. House at the End of the World
終末的なイメージと恋愛の孤独を重ねた、静かながらも重みのあるバラード。
“世界の終わりの家”というメタファーが、どこか60s的な香りを残す。

3. Everything Changes
時間の流れとともに変わっていく関係性や人間の感情を歌う佳曲。
落ち着いたトーンながら、メロディの流麗さがバンドの成熟を物語る。

4. The Long Loneliness
パット・ディニツィオのソングライティングの特徴でもある“孤独の物語”を丁寧に紡いだ一曲。
内省的でありながら、どこか希望が差し込む構成が美しい。

5. Gloomy Sunday
ジャズのスタンダードとして知られる“自殺ソング”をバンド風に再解釈。
原曲の陰鬱さをそのままロックのフォーマットで昇華した異色作。

6. I Believe
前作『A Date with The Smithereens』のラストにも収録された曲の再録バージョン。
“信じる”という行為のシンプルさと力強さを、丁寧に歌い上げる。

7. All Revved Up
アルバム中でも数少ないテンション高めのナンバー。
ロックンロールの衝動が戻ってきたような、疾走感あふれる一曲。

8. Even If I Never Get Back Home
タイトルに象徴されるように、“帰る場所の不在”をテーマにした叙情的ナンバー。
孤独や放浪を描きながらも、決して暗くならないのはSmithereensならでは。

9. Try
シンプルなコード進行に乗せた誠実なメッセージソング。
“それでもやってみる”という諦めない意志が静かに響く。

10. The Age of Innocence
かつての“純粋な時代”を振り返りながらも、それを過去形にせず歌い続ける姿勢がにじむ。
郷愁と決意が共存する佳曲。

11. Goin’ Down Again
前々作にも収録されていた同名曲を、よりダークかつ骨太なアレンジで再録。
パットのボーカルにこもる疲労感と意地が切ない余韻を残す。

12. Someday
エンディングを飾るにふさわしい、希望と未練の交差するメロディアスなバラード。
“いつかまた君に会える”という言葉のもつ切実さが、ラストに余韻をもたらす。

総評

『God Save The Smithereens』は、90年代の終わりにあえて“古き良きロックバンドのフォーマット”で勝負した意義深い作品である。
グランジが去り、ポストブリットポップやエレクトロが台頭していた時代において、
The Smithereensは時流に乗ろうとはせず、あくまでも“ギターとメロディの強さ”というロックの核心を信じ続けた。

アルバムとしては地味な印象も否めないが、**“何かを成し遂げた後の静かな確信”**に満ちており、
派手さはないが、聴き込むほどに深い情感とリアリズムが染み出してくる。
これは、青春のバンドではなく、“人生を続けていく大人のロック”である。