アルバムレビュー:90125 by Yes

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:1983年11月7日

ジャンル:プログレッシヴ・ロック/ポップ・ロック/アート・ロック/ニュー・ウェイヴ/AOR

概要

Yesの11作目のスタジオ・アルバム『90125』は、1970年代プログレッシヴ・ロックを代表するバンドだったYesが、1980年代のポップ・ロック/ニュー・ウェイヴ的な音像へ大胆に接近し、商業的にも大きな成功を収めた転換点の作品である。タイトルの『90125』は、当時のレコード番号に由来する無機的な数字であり、従来のYes作品に見られた神秘的・宇宙的・叙事詩的なタイトルとは大きく異なる。この無機性自体が、本作の性格をよく表している。『Close to the Edge』『Tales from Topographic Oceans』『Relayer』などで築かれた長尺志向、複雑な構成、神話的なイメージから離れ、よりコンパクトで、明快で、スタジオ技術を駆使した80年代型のロック・アルバムへと変貌している。

本作の成立には、バンドの再編成が大きく関わっている。1970年代末から80年代初頭にかけて、Yesはメンバー交代や解散状態を経験していた。そこに、元BugglesのTrevor Horn、Geoff Downesが参加した『Drama』を経て、バンドの流れは一度途切れる。その後、Chris Squire、Alan White、Tony Kaye、そして新たにギタリスト/ソングライターのTrevor Rabinを中心にCinemaという新プロジェクトが進行した。そこへJon Andersonが合流したことで、最終的にYes名義として発表されたのが『90125』である。

この経緯は重要である。『90125』は、単に「Yesがポップ化したアルバム」ではない。むしろ、Trevor Rabinを中心とする80年代的なロック・ソングライティングと、Chris Squire、Alan White、Jon AndersonらによるYes的な個性が融合した作品である。従来のYesでは、Steve Howeの複雑でクラシカルなギター、Rick Wakemanの華麗なキーボード、Jon Andersonの神秘的な歌詞世界が大きな特徴だった。しかし本作では、Trevor Rabinのエッジの効いたギター、シンセサイザーを含むモダンなアレンジ、コンパクトな楽曲構成、そしてTrevor Hornの精密なプロダクションがアルバムの方向性を決定づけている。

特にプロデューサーとしてのTrevor Hornの役割は極めて大きい。彼はBuggles「Video Killed the Radio Star」で知られるように、テクノロジー時代のポップ・ミュージックを象徴する人物であり、スタジオを楽器として扱う感覚に長けていた。『90125』では、ドラムのゲート処理、サンプリング的な編集、シンセサイザー、コーラス処理、鋭いミックスによって、Yesの音楽を1980年代のラジオやMTV時代に適合させている。ここでのYesは、1970年代的な長大な演奏集団ではなく、最新のスタジオ技術によって再構成されたアート・ポップ/ロック・バンドとして鳴っている。

本作を象徴する楽曲は、もちろん「Owner of a Lonely Heart」である。この曲はYesにとって唯一の全米ナンバーワン・ヒットとなり、バンドの名前を新しい世代のリスナーへ届けた。鋭く切り込むギター・リフ、サンプリング的なブレイク、強いサビ、印象的なベース、そしてJon Andersonの独特の声が組み合わさり、プログレッシヴ・ロック出身のバンドが80年代ポップ市場で成功するための理想的な形を示した。だが、アルバム全体を聴くと、『90125』は単なるヒット曲のための作品ではない。「Changes」「It Can Happen」「Hearts」などには、Yesらしい和声感、変拍子的な揺らぎ、精神的な歌詞、構成の複雑さが残っている。

歌詞の面でも、本作は従来のYesから変化している。1970年代のYesは、宇宙、自然、精神性、神秘思想、東洋思想、抽象的なイメージを多用した。一方、『90125』では、より個人の心理、孤独、変化、可能性、関係性、現代的な不安が前面に出る。「Owner of a Lonely Heart」は、孤独な心の持ち主が自分の選択によって人生を変えることを促す曲として読める。「Changes」は、人生や関係性における変化の避けがたさを扱う。「It Can Happen」は、予期しない出来事や可能性に開かれることを歌う。つまり本作のテーマは、壮大な宇宙的叙事詩から、80年代的な自己変革と心理的リアリティへ移っている。

『90125』は、Yesのファンの間で評価が分かれる作品でもある。70年代の長尺で複雑なプログレッシヴ・ロックを愛するリスナーにとっては、本作のコンパクトな構成やポップなサウンドは大きな変化に聞こえるかもしれない。しかし、別の視点から見ると、本作はYesが時代に適応しながら、自分たちの音楽的な核を別の形で生かした作品である。複雑さは減ったが、消えたわけではない。演奏の技巧は目立ちにくくなったが、アレンジの精度は高い。神秘性は薄まったが、Jon Andersonの声とコーラスの響きには、依然としてYesらしい透明感がある。

また、本作は1980年代プログレッシヴ・ロックの生き残り方を示したアルバムでもある。70年代型プログレの長尺志向は、パンク以後の時代には古く見られがちだった。多くのプログレ系バンドは、ポップ化、AOR化、ニュー・ウェイヴ化を試みた。Genesisは『Abacab』『Invisible Touch』で大きなポップ成功を収め、King Crimsonは『Discipline』でニュー・ウェイヴとミニマルなギター・アンサンブルへ進んだ。Yesの『90125』も、その流れの中に位置する。つまり本作は、プログレッシヴ・ロックが80年代にどう変身できるかを示した重要作である。

『90125』は、Yesの歴史の中で異端でありながら、同時に代表作でもある。1970年代のYesが「長く、複雑で、精神的なロック」を極めたバンドだとすれば、1983年のYesは「緻密で、鋭く、ポップで、スタジオ技術を駆使したロック」を提示した。本作は、バンド名の継続性と音楽的変化の間にある緊張そのものを体現している。過去のYesをそのまま期待すると違和感があるが、80年代ロックの中で聴くと、非常に完成度の高いアルバムである。

全曲レビュー

1. Owner of a Lonely Heart

「Owner of a Lonely Heart」は、『90125』を象徴するだけでなく、Yesの全キャリアの中でも最も広く知られた楽曲である。鋭いギター・リフ、突然のブレイク、サンプリング的な音響処理、強力なサビが組み合わさり、1980年代のロック/ポップ・サウンドとして極めて完成度が高い。従来のYesのイメージを大きく変えた曲であり、プログレッシヴ・ロックのバンドがMTV時代のポップ市場へ進出するための決定的な一曲となった。

冒頭のギター・リフは、Trevor Rabinの存在を強く印象づける。Steve Howeの流麗で複雑なギターとは異なり、Rabinのギターはより硬く、リズム的で、スタジアム・ロックにも通じる力強さを持つ。このリフは非常にシンプルだが、音色と間の取り方が鋭い。曲全体のフックとして機能し、聴き手を一瞬で引き込む。

Trevor Hornのプロダクションも重要である。曲中には、突然挿入されるブレイクや効果音、サンプリング的な処理があり、通常のロック・バンド演奏を超えた編集感覚がある。これは1980年代のスタジオ・ポップの先進性を示している。Yesの演奏力をそのまま長尺に展開するのではなく、細かく切り取り、配置し、音響的な驚きを作る。この編集感覚が、曲を単なるポップ・ロック以上のものにしている。

歌詞では、孤独な心の持ち主に対して、自分の人生を変えるよう促すメッセージが歌われる。「孤独な心の所有者」という表現は、現代的な個人主義や孤立感を強く示している。70年代Yesの抽象的な宇宙観とは異なり、ここではより直接的に個人の心理が扱われる。だが、Jon Andersonの声によって、そのメッセージは単なる自己啓発的な言葉にはならず、どこか超越的な響きを帯びる。

「Owner of a Lonely Heart」は、Yesのポップ化を象徴する曲として批判されることもあるが、楽曲としての完成度は非常に高い。プログレッシヴ・ロックの複雑性を、80年代ポップの鋭い編集とフックへ変換した名曲である。

2. Hold On

「Hold On」は、アルバムの中で力強いロック感とYesらしいコーラス・ワークが結びついた楽曲である。前曲「Owner of a Lonely Heart」の鋭いポップ性に続いて、この曲ではよりバンドらしい演奏の厚みが前面に出る。タイトルの「Hold On」は、「持ちこたえろ」「踏みとどまれ」という意味であり、アルバム全体にある自己変革や困難の克服というテーマと深く関わっている。

音楽的には、Trevor Rabinのギターが大きな役割を果たしている。リフはアメリカン・ロック的な力強さを持ち、Yesの従来の英国的・クラシカルな響きとは異なる感覚を加えている。一方で、Jon Anderson、Chris Squire、Trevor Rabinによるヴォーカル・ハーモニーには、Yesらしい透明感がある。この二つが共存することで、曲は80年代型ロックでありながら、完全に別バンドのようにはならない。

歌詞では、苦しい状況の中で希望を失わずに持ちこたえることが歌われる。『90125』の歌詞は、従来のYesの抽象的な神秘主義よりも、より個人の心理や人生の選択に近い。「Hold On」もその典型であり、困難に直面した人間に対する励ましとして機能する。ただし、Yesらしいコーラスの響きによって、メッセージは単なるロック的な根性論ではなく、少し精神的な広がりを持つ。

曲の構成は比較的分かりやすいが、細部にはYesらしい工夫がある。コーラスの重なり、リズムの変化、ギターとキーボードの配置によって、単純なロック・ソングよりも立体的な響きが作られている。「Hold On」は、本作が完全にポップ・ヒットだけを狙った作品ではなく、バンドとしての厚みも持っていることを示す重要曲である。

3. It Can Happen

「It Can Happen」は、『90125』の中でもYesらしい精神性と80年代ポップ・ロックの親しみやすさがよく共存した楽曲である。タイトルは「それは起こりうる」という意味であり、偶然、変化、可能性、人生の予測不能性を示している。Yesの歌詞に長く存在してきた「変容」や「気づき」のテーマが、ここではより明快なポップ・ソングの形で表現されている。

曲の冒頭には、シタール風の響きを思わせるギター/キーボードの音色が使われ、Yesの過去の東洋的・精神的な趣味をかすかに思い出させる。しかし、曲全体は長大な瞑想的展開には向かわず、コンパクトなポップ・ロックとして進む。このバランスが本作らしい。過去のYesの要素を完全に捨てるのではなく、短いフレーズや音色の中に圧縮している。

歌詞では、人生には予期しない出来事が起こりうること、そしてその可能性に開かれることが歌われる。これは楽観的なメッセージに聞こえるが、同時に不確実性への認識も含んでいる。変化は望ましいものだけではなく、不安を伴うものでもある。『90125』では、「Changes」や「Owner of a Lonely Heart」と同様に、変化を恐れずに受け入れることが重要なテーマになっている。

Chris Squireのベースも印象的である。彼のベースは、従来のYesと同様に単なる低音の支えではなく、旋律的な動きを持つ。ただし本作では、70年代のように複雑に前面へ出るのではなく、ポップな構成の中で効果的に配置されている。バンドの個性が、80年代的なサウンドの中に自然に溶け込んでいる。

「It Can Happen」は、Yesの新旧の魅力が比較的バランスよく表れた楽曲である。壮大な組曲ではないが、メロディ、コーラス、精神的な歌詞、エキゾチックな音色がまとまり、本作の中でも重要な位置を占めている。

4. Changes

「Changes」は、『90125』の中でも最も構成的に凝った楽曲のひとつであり、Yesらしい複雑さが80年代的な音像の中で再構成された名曲である。タイトル通り、変化をテーマにしており、曲自体もリズム、構成、テンションの変化を通じてそのテーマを音楽的に表現している。

冒頭のマリンバ風のリズム・パターンは非常に印象的で、通常のロック・ソングとは異なる幾何学的な感触を生む。リズムは細かく組み合わされ、そこへギター、ベース、ドラム、ヴォーカルが順に加わっていく。この導入部には、70年代Yesの構築性が明確に残っている。ただし、音色やミックスは完全に80年代的で、過去のプログレ的な長尺性ではなく、コンパクトな緊張感として表れている。

歌詞では、関係や人生の中で避けられない変化が描かれる。変化は不安を生むが、同時に成長や解放の契機でもある。Yesの音楽では、変化や変容はしばしば精神的なテーマとして扱われてきたが、この曲ではより個人的で現実的な感覚が強い。恋愛や人間関係の変化としても、自己変革としても読める。

Trevor RabinのヴォーカルとJon Andersonの声の組み合わせも重要である。Rabinの声はよりロック的で地に足がついており、Andersonの声は透明で浮遊感がある。この二つの声が交差することで、曲に新しいYesの個性が生まれている。従来のYesではAndersonの声が絶対的な中心だったが、本作ではRabinの存在が音楽的にもヴォーカル面でも大きい。

「Changes」は、『90125』が単なるポップ化したYesではないことを最もよく示す曲のひとつである。複雑なリズム、緻密なアレンジ、明快なサビ、変化をめぐる歌詞が高い水準で結びついている。80年代Yesの代表曲として非常に重要である。

5. Cinema

「Cinema」は、短いインストゥルメンタル曲でありながら、本作の成立過程を象徴する重要なトラックである。もともとYes再始動前のプロジェクト名がCinemaだったことを考えると、この曲は単なる小品以上の意味を持つ。実際、本曲はグラミー賞のベスト・ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンスを受賞しており、バンドの演奏力が1980年代的な形でも評価されたことを示している。

音楽的には、短い中に複雑なリズム、タイトなアンサンブル、鋭いギターとキーボードの応酬が凝縮されている。70年代Yesの長尺インストゥルメンタル・パートを、数分に圧縮したような印象もある。楽曲は非常にコンパクトだが、演奏の密度は高い。特にAlan WhiteのドラムとChris Squireのベースが作る土台は強靭であり、Trevor Rabinのギターはそこに鋭く切り込む。

タイトルの「Cinema」は、映像的な構成感も連想させる。Trevor Hornのプロダクションによって、本作全体には映画的な編集感覚があるが、このインストゥルメンタル曲でも、場面が短時間で切り替わるようなスピード感がある。音楽は流れるというより、カットごとに配置される。これは80年代的な音楽制作の特徴とも言える。

「Cinema」は、アルバムの中で歌詞的なテーマを持たないが、演奏面におけるYesの健在ぶりを示している。ポップ化したといっても、彼らの技術や複雑な構成力が失われたわけではない。むしろ、それが短く鋭い形へ凝縮されたトラックである。

6. Leave It

「Leave It」は、『90125』の中でも特にヴォーカル・アレンジとスタジオ技術が前面に出た楽曲である。冒頭から多重コーラスが印象的で、Yesの伝統的なハーモニー感覚が、Trevor Horn的なポップ・プロダクションによって極めてモダンに処理されている。楽曲全体には、アカペラ的な実験性と80年代ポップの光沢が共存している。

歌詞の「Leave It」は、「放っておけ」「置いていけ」「手放せ」といった意味を持つ。これは、過去や執着から離れること、余計なものを手放すことへの呼びかけとして読める。『90125』には、孤独な心を変えること、変化を受け入れること、出来事が起こる可能性に開かれることが繰り返し歌われているが、この曲でも同じく、何かを手放すことが中心にある。

音楽的には、ヴォーカルの処理が非常に重要である。Jon Anderson、Chris Squire、Trevor Rabinの声が重なり、時に人間の声というよりも、シンセサイザーのような質感を持つ。これはYesの伝統的なコーラスを、80年代のスタジオ技術で再発明したものと言える。人間的なハーモニーと機械的な処理の間にある不思議な質感が、曲の魅力である。

リズム面でも、曲は非常にタイトで、ファンク的な軽さも感じさせる。Chris Squireのベースは弾力があり、Alan Whiteのドラムは硬く整えられている。従来のYesのような自然な演奏の流れというより、各音が精密に配置されたポップ・トラックとして構成されている。

「Leave It」は、本作の中で最も80年代的な実験性を持つ曲のひとつである。プログレッシヴ・ロック的な実験精神が、長尺構成ではなく、ヴォーカル編集とスタジオ処理によって表れている点が重要である。

7. Our Song

「Our Song」は、アルバムの中でも比較的明るく、ストレートなポップ・ロック曲である。タイトルは「僕たちの歌」を意味し、共同体的な感覚や記憶を共有することがテーマになっている。Yesの過去の壮大な精神性と比べると、より日常的で親しみやすいテーマだが、そこにもバンドらしいポジティヴなエネルギーがある。

音楽的には、テンポがよく、ギターとキーボードが明るい響きを作る。Trevor Rabinのポップ・ロック的なソングライティングが強く出ており、曲はコンパクトで分かりやすい。一方で、コーラスの広がりやベースの動きにはYesらしさも残っている。完全なラジオ向けポップではなく、バンドの個性が適度に散りばめられている。

歌詞では、音楽や歌が人々を結びつける感覚が描かれる。Yesの作品には、音楽そのものを精神的なつながりとして捉える感覚が昔からあったが、この曲ではそれが非常にシンプルな形で表現されている。「Our Song」という言葉には、特定の恋人同士の歌という意味もあれば、バンドとリスナー、あるいは共同体の歌という意味も含まれる。

この曲は、アルバムの中では大きな実験性を持つわけではないが、全体の明るさと流れを支える役割を果たしている。『90125』は、鋭いヒット曲や複雑な構成曲だけでなく、こうした素直なポップ・ロック曲によってアルバムとしての聴きやすさを保っている。

8. City of Love

「City of Love」は、アルバムの中でも重く、やや暗い質感を持つ楽曲である。タイトルは「愛の街」を意味するが、その響きはロマンティックというより、都市の欲望、誘惑、孤独、不安を含んでいる。80年代的な都会のイメージと、Yesらしい精神的な視点が交錯する曲である。

サウンドは、重いギター・リフと硬いリズムが中心となり、本作の中ではかなりロック色が強い。Trevor Rabinのギターは鋭く、ややハード・ロック的な重さもある。Chris Squireのベースも低くうねり、曲全体に緊張感を与えている。明るく透明なYesというより、都会的で影のあるYesがここにいる。

歌詞では、愛の街という言葉が持つ理想性と、その裏にある危うさが描かれる。都市は出会いと欲望の場所であると同時に、孤独や迷いの場所でもある。『90125』は従来のYesよりも現代的な個人の心理へ近づいた作品だが、この曲ではその心理が都市のイメージと結びついている。

Jon Andersonの声は、曲の重さの中でも独特の透明感を保っている。この対比が面白い。Rabinのギターとバンドの重いサウンドが都市の暗さを作り、Andersonの声がそこに精神的な浮遊感を加える。Yesの新しい形がよく表れている曲である。

「City of Love」は、本作の中でやや異質な重さを持つが、アルバム全体に陰影を与える重要曲である。ポップで明るい側面だけでなく、80年代的な都市の不安を取り込んだ楽曲として聴ける。

9. Hearts

アルバムを締めくくる「Hearts」は、『90125』の中で最も従来のYesらしい精神性と広がりを持つ楽曲である。約7分半の長さを持ち、本作の中では比較的長尺で、複数のセクションを持つ構成になっている。アルバム全体がコンパクトなポップ・ロックへ向かった中で、この曲はYesの過去と新しい音像をつなぐ終曲として機能している。

タイトルの「Hearts」は、心、愛、精神的な結びつきを示す。歌詞では、人間同士のつながり、心の変化、愛の普遍性が歌われる。Jon Andersonらしいポジティヴで精神的な世界観が強く出ており、70年代Yesの歌詞世界に最も近い曲と言える。ただし、サウンドは80年代的に整理されており、過去の長大な組曲のような拡散はない。

音楽的には、静かな導入から徐々に広がり、コーラスとギターが大きな空間を作る。Trevor Rabinのギターはここで叙情的な役割を果たし、Chris SquireのベースとAlan Whiteのドラムが安定した土台を支える。Tony Kayeのキーボードも過度に華美ではないが、曲に奥行きを与えている。

「Hearts」は、本作の最後に置かれることで、アルバム全体を精神的な方向へまとめる役割を持つ。「Owner of a Lonely Heart」で孤独な心から始まったアルバムは、最後に複数の「Hearts」へ到達する。個人の孤独から、心同士の結びつきへ。この流れは非常に象徴的である。

本曲は、70年代Yesのファンにも比較的受け入れられやすい要素を持っている。長めの構成、精神的な歌詞、広がりのあるコーラス、叙情的なギターがあり、ポップ化した本作の中でもYesらしい余韻を残す。アルバムを締めくくるにふさわしい楽曲である。

総評

『90125』は、Yesの歴史において最大の変化を示したアルバムであり、同時に1980年代ロック史における重要な成功例である。1970年代に長尺のプログレッシヴ・ロックで頂点を極めたYesが、80年代のポップ・ロック、ニュー・ウェイヴ、AOR、スタジオ・プロダクションの文脈へ入り込み、新しい形で再生した作品である。本作は、過去のYesをそのまま継続したアルバムではない。しかし、完全に断絶した作品でもない。その中間にある緊張こそが、『90125』の魅力である。

本作の中心人物は、間違いなくTrevor Rabinである。彼のギター、ヴォーカル、ソングライティングは、Yesに新しいエネルギーを与えた。Steve Howe時代のYesが、クラシカルで複雑で、時に牧歌的なギターを特徴としていたのに対し、Rabinのギターはよりロック的で、鋭く、80年代のスタジアム・サウンドにも適応している。この変化は大きい。だが、Rabinの存在によって、Yesは単に過去を繰り返すバンドではなくなった。

一方で、Jon Anderson、Chris Squire、Alan Whiteの存在がなければ、本作はYesにはならなかった。Jon Andersonの声は、どれほどサウンドが変わっても、Yesらしさを決定づける要素である。彼の高く透明な声が入ることで、Trevor Rabin中心の楽曲にも精神的な浮遊感が加わる。Chris Squireのベースは、本作でも独特の輪郭を持ち、ポップな構成の中でバンドの個性を保っている。Alan Whiteのドラムは、Trevor Hornのプロダクションによって硬く処理されながらも、バンドの推進力を支えている。

Trevor Hornのプロデュースは、本作の成功に不可欠である。『90125』は、単に良い曲が揃ったアルバムではなく、音の処理と編集によって時代性を獲得した作品である。「Owner of a Lonely Heart」のブレイクや効果音、「Leave It」のヴォーカル処理、「Changes」のリズム構築などは、スタジオが作曲の一部になっていることを示している。これは70年代プログレの「演奏による複雑性」とは異なる、80年代的な「編集による複雑性」である。

歌詞のテーマとしては、孤独、変化、可能性、持続、手放すこと、心の結びつきが重要である。『Close to the Edge』や『Tales from Topographic Oceans』のような神秘的・宗教的・宇宙的なスケールは後退しているが、その代わりに、個人の心理的な変容が前面に出る。これは80年代的なテーマでもある。社会が高度にメディア化され、個人が都市や情報の中で孤立していく時代において、「Owner of a Lonely Heart」という言葉は非常に象徴的である。

本作は、プログレッシヴ・ロックというジャンルに対する問いも含んでいる。プログレッシヴとは、長尺曲や変拍子や技巧的演奏だけを意味するのか。それとも、時代に応じて音楽形式を変化させる姿勢そのものを意味するのか。『90125』は後者の意味で、非常にプログレッシヴな作品である。70年代の方法論を捨て、80年代のテクノロジーとポップ形式を使って新しいYesを作った。その意味では、形式はポップになっても、変化し続ける精神は残っている。

もちろん、本作に弱点がないわけではない。70年代Yesの有機的なバンド・アンサンブルや長大な構築美を求めるリスナーにとっては、音が硬く、商業的に感じられる部分もあるだろう。Tony Kayeのキーボードは、Rick WakemanやPatrick Morazのような華麗さとは異なり、比較的控えめである。また、曲によっては80年代特有のプロダクションが強く、時代の質感を濃く感じさせる。しかし、それらは同時に本作の個性でもある。『90125』は1983年という時代の音を真正面から引き受けたアルバムである。

Yesのディスコグラフィの中で見ると、『90125』は『Close to the Edge』や『Fragile』とはまったく異なる入口を提供する作品である。70年代プログレのYesを知るための作品ではなく、80年代に再発明されたYesを知るための作品である。しかし、そこには確かにYesらしさもある。コーラスの透明感、ベースの個性、精神的なテーマ、複雑な構成への名残、そして変化を恐れない姿勢。これらがあるからこそ、本作は単なる別バンドのポップ・アルバムではなく、Yesの作品として成立している。

日本のリスナーにとって『90125』は、プログレッシヴ・ロック入門としては少し特殊な位置にある。70年代のYesから入ると驚くかもしれないが、80年代洋楽ポップ/ロックから入る場合は非常に聴きやすい。特に「Owner of a Lonely Heart」は、Yesを知らなくても楽しめる強力なポップ・ソングである。一方で、「Changes」や「Hearts」を聴くと、背後にあるプログレッシヴな構成力や精神性も感じられる。ポップとプログレの橋渡しとして、本作は非常に有効である。

総じて『90125』は、Yesが過去の栄光に留まらず、1980年代の音楽環境の中で新しい生命を獲得したアルバムである。大胆な変化、強力なヒット曲、緻密なプロダクション、Trevor Rabinの新しいエネルギー、Jon Andersonの変わらぬ声。それらが結びつき、Yesは一度終わったバンドではなく、再び時代の中心へ戻ることに成功した。『90125』は、プログレッシヴ・ロックの古い形式を捨てながら、その変化の精神を別の形で受け継いだ、1980年代Yesの傑作である。

おすすめアルバム

1. Yes『Fragile』

1971年発表。Yesの代表作のひとつであり、Jon Anderson、Chris Squire、Steve Howe、Rick Wakeman、Bill Brufordによる黄金期のサウンドが確立された作品である。「Roundabout」を収録し、複雑な演奏、明るいメロディ、クラシカルなキーボード、コーラスの美しさが高い水準で結びついている。『90125』以前のYesらしさを理解する上で重要である。

2. Yes『Close to the Edge』

1972年発表。70年代Yesの最高傑作とされることが多いアルバムで、長尺構成、精神的な歌詞、緻密な演奏が頂点に達している。『90125』のコンパクトなポップ性とは対照的だが、Yesというバンドが本来持っていた壮大な構築力を知るためには欠かせない作品である。

3. Yes『Drama』

1980年発表。Jon Anderson不在で、Trevor HornとGeoff Downesが参加した異色作である。『90125』のプロデューサーとなるTrevor HornとYesの接点を理解する上で重要であり、70年代Yesから80年代的な音像へ移行する過渡期の作品として聴く価値が高い。

4. Genesis『Invisible Touch』

1986年発表。70年代プログレッシヴ・ロック出身のGenesisが、80年代ポップ・ロックとして大成功を収めた代表作である。『90125』と同じく、プログレ系バンドがMTV時代に適応した例として重要であり、複雑なバンドの歴史とポップな成功の関係を比較できる。

5. Asia『Asia』

1982年発表。Yes、King Crimson、ELPなどのプログレ系ミュージシャンが集結したスーパーグループAsiaのデビュー作で、プログレッシヴ・ロックの技術をAOR/ポップ・ロックへ変換した作品である。『90125』と同時代に、70年代プログレの人材が80年代の商業ロックへどう適応したかを理解する上で関連性が高い。

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