
1. 楽曲の概要
「Hideous Towns」は、イギリスのインディー・ポップ・バンド、The Sundaysが1990年に発表した楽曲である。デビュー・アルバム『Reading, Writing and Arithmetic』に収録され、オリジナルLPではA面5曲目、CDでは「I Won」に続く5曲目に置かれている。作詞・作曲はHarriet WheelerとDavid Gavurinを中心とするThe Sundays名義である。
The Sundaysは、Harriet Wheelerの透明感のあるボーカルと、David Gavurinの流麗なギターを軸にしたバンドである。1980年代後半から1990年代初頭の英国インディー・シーンにおいて、The Smiths以後のジャングリーなギター・ポップを引き継ぎながら、より柔らかく、より内省的な音楽を作った。デビュー作『Reading, Writing and Arithmetic』は、派手なロック・アルバムではないが、繊細なメロディと日常的な言葉の中にある不安によって、長く聴かれ続けている。
「Hideous Towns」は、アルバムの中でも特に皮肉と不安が強く出た曲である。タイトルは「ひどい町」「醜い町」と訳せる。語り手は、町、制度、集団、期待にうまく馴染めず、どこへ行っても落ち着かない。軍隊、救世軍、公務員、ピカデリー・サーカスといった言葉が出てくるが、それらは特定の物語というより、社会の中で自分の居場所を探そうとして失敗する場面の連続として機能している。
アルバム『Reading, Writing and Arithmetic』には、「Here’s Where the Story Ends」「Can’t Be Sure」「You’re Not the Only One I Know」など、The Sundaysの代表的な曲が収録されている。その中で「Hideous Towns」は、比較的テンポがあり、歌詞もユーモラスに聞こえる。しかし、その明るさの下には、適応できないことへの苦さがある。The Sundaysらしいのは、その苦さを大げさな絶望ではなく、軽やかなギター・ポップの中で描く点である。
2. 歌詞の概要
「Hideous Towns」の歌詞は、語り手がさまざまな場所や集団に入りながら、どれも自分に合わないと感じる内容である。冒頭では、なぜかと問わないでほしいと言いながら、語り手は救世軍に入ったことを語る。しかし、それは助けにならなかった。次に公務員のような安定した制度的な世界が示されるが、そこでも語り手は救われない。歌詞は、社会の中で用意された居場所に入ってみても、違和感が消えない状態を描いている。
タイトルの「hideous towns」は、単に景観が醜い町を指しているだけではない。語り手にとって、町とは人間関係、規則、世間の期待、退屈さが積み重なった場所である。そこにいると気分が悪くなり、言葉に傷つき、早く離れたくなる。都市や地方の具体的な描写というより、どこへ行っても自分が浮いてしまう感覚の比喩として読める。
歌詞には、逃げ出すような動きが何度も出てくる。語り手はローマへ行くわけでもなく、最初のバスで帰ってしまう。ピカデリー・サーカスという大都市ロンドンの象徴的な場所も登場するが、そこは解放の場所としては描かれない。むしろ、人混みや観光地的な華やかさの中でも、自分は居場所を得られないという感覚が強まる。
この曲の語り手は、世界を完全に拒絶しているわけではない。むしろ、何かに参加しようとしている。しかし、そのたびにうまくいかない。軍隊的な規律にも、宗教的な救済にも、官僚的な安定にも、大都市の喧騒にも、適応できない。その失敗の連続が、軽いユーモアとともに歌われることで、曲は暗くなりすぎず、むしろ人間らしい弱さを浮かび上がらせている。
3. 制作背景・時代背景
『Reading, Writing and Arithmetic』は、1990年1月にRough TradeからリリースされたThe Sundaysのデビュー・アルバムである。バンドは1980年代末にロンドンで結成され、シングル「Can’t Be Sure」で注目を集めた。アルバムは英国チャートで上位に入り、アメリカでも大学ラジオやオルタナティヴ・リスナーを中心に広く受け入れられた。
1980年代末から1990年代初頭の英国インディー・シーンでは、The Smiths解散後のギター・ポップの空白を埋めるように、多くのバンドが登場していた。The SundaysはしばしばThe Smithsと比較されたが、その音楽はより柔らかく、攻撃的な皮肉よりも、内側に向かう不安やためらいが強い。Morrissey的な演劇性よりも、Harriet Wheelerの声の自然な揺れと、Gavurinのギターの細やかな動きが中心にある。
「Hideous Towns」は、そうしたThe Sundaysの特徴をよく示す曲である。The Smiths以後の英国ギター・ポップには、地方都市への退屈、社会への違和感、進学や就職への不安がしばしば現れる。この曲にも、その文脈がある。語り手は社会の制度に入ろうとするが、どこにも収まらない。これは若い世代の無力感としても読めるし、英国的な階級社会や日常の閉塞感への反応としても読める。
一方で、The Sundaysは政治的なスローガンを直接掲げるバンドではない。「Hideous Towns」も、社会批評の曲というより、社会の中に置かれた個人の感覚を描く曲である。町が醜いのは、政治的な理由だけではなく、そこにいる自分がうまく呼吸できないからでもある。この個人的な不快感を、軽やかなギター・ポップにするところが、The Sundaysの個性である。
4. 歌詞の抜粋と和訳
Don’t ask me why
和訳:
なぜかは聞かないで
この冒頭の言葉は、曲全体の語り口を決めている。語り手は自分の行動をうまく説明できない。救世軍に入ったことも、逃げ帰ったことも、理屈では整理できない。ここには、若さ特有の迷いと、自分の選択を他人に説明したくない気分がある。
Hideous towns made me throw up
和訳:
ひどい町のせいで吐きそうになった
このフレーズは、町への嫌悪を身体的な反応として表している。単に退屈だというだけでなく、町そのものが語り手の身体に合わない。環境への違和感が、抽象的な不満ではなく、吐き気として表現されている点が印象的である。
Sticks and stones may break my bones / But words will just finish me off
和訳:
棒や石なら骨を折るかもしれない / でも言葉は私を完全に終わらせてしまう
有名な英語の言い回し「Sticks and stones may break my bones, but words will never hurt me」を反転させた表現である。普通なら「言葉では傷つかない」と続くところを、The Sundaysは「言葉こそが私を終わらせる」と歌う。身体的な暴力よりも、言葉や評価が深く刺さるという、この曲の繊細な傷つきやすさが表れている。
歌詞の権利はThe Sundaysおよび各権利者に帰属する。本稿では批評・解説の目的で、必要最小限の短いフレーズのみを引用した。
5. サウンドと歌詞の考察
「Hideous Towns」のサウンドは、The Sundaysらしいジャングリーなギターを中心にしている。David Gavurinのギターは、激しく歪んで前へ出るのではなく、細かく揺れるように鳴る。コードの響きは明るく、リズムも比較的軽い。そのため、歌詞にある不快感や吐き気は、直接的な暗さとしてではなく、明るい音の中の違和感として浮かび上がる。
この明るさと不安のずれが、曲の大きな魅力である。もし「Hideous Towns」が重いロック・サウンドで演奏されていたら、歌詞の嫌悪感はより単純な怒りとして聞こえたかもしれない。しかしThe Sundaysは、軽やかなギターと透明な声でそれを歌う。その結果、曲は「町が嫌いだ」と叫ぶ歌ではなく、きれいな日差しの中でも気分が悪くなるような、不安定な心理の歌になる。
Harriet Wheelerのボーカルは、曲の中心である。彼女の声は非常に澄んでいるが、決して無感情ではない。音程の動きはしなやかで、言葉の端に小さな皮肉やためらいが宿る。「Hideous Towns」では、軽く歌っているように聞こえる部分にも、社会にうまく馴染めない焦りがある。高く伸びる声と、歌詞の屈折が同時に存在するところに、The Sundaysの独自性がある。
リズム隊は控えめだが、曲の推進力をしっかり作っている。Paul Brindleyのベースはメロディアスで、ギターと声を支えながら曲に柔らかな動きを加える。ドラムは派手ではないが、テンポを軽く保ち、歌詞の重さを過度に沈ませない。The Sundaysの楽曲では、リズムが前面に出すぎないことで、声とギターの細部が生きる。
歌詞とサウンドの関係では、「逃げる速度」が重要である。曲は疾走するほど速くはないが、立ち止まって沈むほど遅くもない。語り手は町に長く留まれず、最初のバスで帰ってしまう。その身軽さ、あるいは落ち着きのなさが、曲のテンポに表れている。逃避の曲でありながら、大げさなドラマにならないところがThe Sundaysらしい。
アルバムの中で見ると、「Hideous Towns」はA面の最後に置かれる曲である。「Skin & Bones」「Here’s Where the Story Ends」「Can’t Be Sure」「I Won」と続いた後、この曲はアルバム前半の締めくくりとして、The Sundaysの内省にユーモアと毒を加える役割を持つ。特に「Here’s Where the Story Ends」が過去の記憶を静かに振り返る曲だとすれば、「Hideous Towns」はもっと現在の居心地の悪さに近い。
「Can’t Be Sure」と比較すると、この曲の性格はより具体的である。「Can’t Be Sure」は不確かな未来や欲望を大きく歌う曲だが、「Hideous Towns」では町、救世軍、公務員、バス、ピカデリー・サーカスといった日常的な記号が並ぶ。抽象的な不安ではなく、生活の中の場所や制度によって不安が形を取る。
また、The Sundaysの音楽はしばしば美しいギター・ポップとして語られるが、「Hideous Towns」を聴くと、そこにかなり強い皮肉があることがわかる。町に吐き気を催し、言葉に傷つき、逃げ帰る人物を、Wheelerはきれいな声で歌う。この声の美しさは、歌詞の痛みを覆い隠すのではなく、むしろ痛みをより奇妙に際立たせている。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Here’s Where the Story Ends by The Sundays
The Sundaysの代表曲であり、『Reading, Writing and Arithmetic』の中心的な楽曲である。「Hideous Towns」よりも穏やかで、過去の記憶と距離を扱っている。Harriet Wheelerの声とDavid Gavurinのギターの魅力を最もわかりやすく味わえる曲である。
- Can’t Be Sure by The Sundays
デビュー・シングルとして注目を集めた曲で、不確かな未来と欲望を歌っている。「Hideous Towns」と同じく、明るいギターの中に不安がある。The Sundaysの初期衝動を知るうえで欠かせない。
- You’re Not the Only One I Know by The Sundays
同じアルバムに収録された楽曲で、より親密で柔らかなメロディを持つ。「Hideous Towns」の社会的な違和感に対し、この曲は人間関係の中の孤独を静かに描く。アルバム後半の繊細な流れを理解しやすい。
- This Charming Man by The Smiths
ジャングリーなギターと屈折した歌詞という点で、The Sundaysの背景を理解するうえで重要な曲である。「Hideous Towns」のような英国的な場所への違和感や、言葉遊びの軽さを比較できる。ただしThe Sundaysのほうがより柔らかく、内向きである。
- De-Luxe by Lush
1990年前後の英国インディーにおける、女性ボーカルときらめくギターの重要曲である。「Hideous Towns」よりもシューゲイザー寄りだが、明るい音の中に不安や浮遊感がある点で近い。The Sundaysと同時代の空気を知るうえで相性がよい。
7. まとめ
「Hideous Towns」は、The Sundaysのデビュー・アルバム『Reading, Writing and Arithmetic』に収録された、初期バンドの魅力をよく示す楽曲である。シングルとして広く知られた曲ではないが、アルバムの中では重要な位置にあり、The Sundaysの美しさと皮肉、不安と軽さが凝縮されている。
歌詞では、語り手が社会のさまざまな居場所に入ろうとしながら、どれにも馴染めない様子が描かれる。救世軍、官僚的な制度、大都市、バス、ひどい町。それらはすべて、自分を受け入れてくれない場所として現れる。語り手は世界を大きく変えようとはしない。ただ、気分が悪くなり、言葉に傷つき、逃げ帰る。その小さな敗北が、この曲の核心である。
サウンド面では、きらめくギター、柔らかいリズム、Harriet Wheelerの澄んだ声が、歌詞の苦さを軽やかに包んでいる。しかし、その軽さは痛みを消すものではない。むしろ、明るい音の中で歌われるからこそ、町への違和感や傷つきやすさがより鮮明に聞こえる。
The Sundaysは、1990年前後の英国インディーにおいて、静かな不安を美しいギター・ポップに変えたバンドだった。「Hideous Towns」は、その才能を示す一曲である。居場所のなさを大げさに叫ばず、少し笑いながら、しかし確かに傷ついている。そのバランスこそが、この曲を今も印象深いものにしている。
参照元
- The Sundays – Reading, Writing And Arithmetic – Discogs
- The Sundays – Reading, Writing And Arithmetic – Interscope
- The Sundays – Hideous Towns Lyrics – Last.fm
- The Sundays – Hideous Towns Lyrics – Readdork
- Sputnikmusic – The Sundays: Reading, Writing and Arithmetic Review
- Classic Pop Magazine – Making The Sundays: Reading, Writing And Arithmetic
- Sloucher – The Lost Gem: The Sundays – Reading, Writing & Arithmetic
- Music Musings & Such – The Sundays’ Reading, Writing and Arithmetic at Thirty-Five

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