
発売日:2018年5月4日
ジャンル:オルタナティヴ・ロック、インディー・ロック、ドリーム・ポップ、ギター・ポップ
概要
Bellyの『Dove』は、2018年に発表された通算3作目のスタジオ・アルバムであり、1995年の『King』以来、約23年ぶりとなる復帰作である。Tanya Donellyを中心に、Thomas Gorman、Chris Gorman、Gail Greenwoodという布陣で再び制作された本作は、1990年代オルタナティヴ・ロックの記憶を単に再現するのではなく、長い空白を経たバンドが、成熟した視点から自らの音楽を再構築した作品である。
Bellyは1993年のデビュー作『Star』によって、90年代初頭のオルタナティヴ・ロック・シーンにおいて独自の存在感を示した。Tanya DonellyはThrowing MusesやThe Breedersでの活動を経て、Bellyではよりポップで幻想的なソングライティングを展開した。『Star』では、「Feed the Tree」に代表される明快なギター・ポップの表面と、童話、身体、死、自然、魔術的なイメージが絡み合う不穏な歌詞世界が共存していた。一方、1995年の『King』では、より硬質でバンド志向のサウンドへ接近し、Bellyは短い活動期間の中で異なる表情を見せた。
『Dove』は、その両方の記憶を持ちながら、単なる懐古には向かわない。音楽的には、Bellyらしいきらめくギター、透明感のあるヴォーカル、暗い幻想性を残しつつ、テンポや音の密度には落ち着きがある。90年代当時の若さや神経質な切迫感は後退し、その代わりに、時間の経過、喪失、変化、再会、身体感覚の変容、記憶の扱い方といったテーマが浮かび上がる。復帰作であるにもかかわらず、本作は「昔の続き」ではなく、「長い時間を経た現在のBelly」として成立している。
タイトルの『Dove』は、鳩を意味する。鳩は一般的に平和、帰還、伝令、儚さ、霊性、優しさの象徴として受け取られる。しかしBellyの作品において、象徴は常に一義的ではない。『Star』の星が単なる輝きではなく、遠さや死後の光を含んでいたように、『Dove』の鳩もまた、安らぎだけではなく、傷つきやすい身体、空を渡るもの、どこかへ戻るもの、そして何かを運ぶ存在として響く。本作は、再結成アルバムという事実そのものが「帰還」の意味を持つため、タイトルの象徴性はバンドの状況とも深く結びついている。
音楽史的に見れば、『Dove』は1990年代オルタナティヴ・ロック・バンドによる再始動作品の中でも、特に自然な形で成熟を示したアルバムである。多くの再結成作は、過去の代表作に寄せるか、あるいは過度に現代的な音へ刷新しようとして不自然になることがある。しかしBellyは、本作でそのどちらにも極端には振れていない。ギター・バンドとしての芯を保ちながら、音像は現代的に整理され、ヴォーカルとコーラスの配置も穏やかで奥行きがある。
また、2010年代後半という時代にBellyが戻ってきたことにも意味がある。90年代オルタナティヴ・ロックは、当時の「新しさ」から、すでにひとつのクラシックなロックの形式として再評価される段階に入っていた。The Breeders、Throwing Muses、Lush、Slowdive、Pixiesなど、同時代のバンドや関連アーティストが再始動や再評価を経験する中で、Bellyの『Dove』もまた、90年代の女性中心のインディー/オルタナティヴ・ロックが残した遺産を、現在の視点から聴き直す機会を与える作品となった。
全曲レビュー
1. Mine
オープニング曲「Mine」は、復帰作の冒頭として非常に効果的な楽曲である。タイトルは「私のもの」を意味し、所有、記憶、自己確認、失われたものを取り戻す感覚を含んでいる。再結成アルバムの冒頭にこの言葉が置かれることで、Bellyが自分たちの音楽を再び自分たちの手に取り戻すという意味も読み取れる。
サウンドは、Bellyらしいギターのきらめきと、落ち着いたリズムの組み合わせで始まる。『Star』の頃の若々しい浮遊感を思わせながらも、音はより太く、演奏には成熟した安定感がある。Tanya Donellyのヴォーカルは、かつての少女的な透明感を完全に失ったわけではないが、ここではより穏やかで、経験を重ねた声として響く。
歌詞のテーマは、何かを所有することの不確かさとして読める。人は記憶や愛情や過去を「自分のもの」だと感じるが、時間が経てばそれらは変質し、完全には保持できない。「Mine」はその矛盾を、強い宣言ではなく、静かな確認として歌う。アルバムの入口として、Bellyが過去と現在の間に立っていることを示す重要な曲である。
2. Shiny One
「Shiny One」は、本作の中でも特にBellyらしい光のイメージを持つ楽曲である。タイトルは「輝くもの」「光る存在」を意味し、『Star』以来の天体的、幻想的なモチーフとつながっている。ただし、ここでの輝きは若さのまぶしさというより、時間を経ても残っている小さな光として響く。
音楽的には、ギターの明るい響きと、メロディのしなやかさが印象的である。Bellyの魅力は、暗いテーマを扱っていても、音の表面に柔らかな光をまとわせる点にある。この曲でも、サウンドは親しみやすく、コーラスには開放感があるが、歌詞の奥にはどこか不安や距離感が漂う。
歌詞における「輝くもの」は、人物であるとも、記憶であるとも、かつての自分自身であるとも解釈できる。Bellyの歌詞は、具体的な物語を一方向に説明するよりも、象徴を通じて複数の意味を同時に生み出す。「Shiny One」は、そうしたBellyの作風が再結成後も保たれていることを示す楽曲である。
3. Human Child
「Human Child」は、タイトルからしてBellyらしい身体性と神話性を含んでいる。「人間の子ども」という言葉は、無垢、弱さ、成長、保護、誕生を連想させるが、同時に人間であることの不完全さや有限性も示している。『Star』期のBellyが童話や動物、魔女、天使を通じて人間の不安を描いていたことを思えば、この曲はその延長線上にある。
サウンドは穏やかで、メロディにはやや祈りのような響きがある。Tanya Donellyのヴォーカルは、母性的とも言える柔らかさを帯びており、若い頃の不穏な妖精性とは異なる温度を持つ。これは単なる変化ではなく、時間を経たアーティストだからこそ到達できる表現である。
歌詞のテーマは、人間であることの脆さ、あるいは子どもという存在に向けられるまなざしとして読める。Bellyの幻想性は、ここでは奇妙さよりも慈しみに近い形を取っている。しかし、それは安全な優しさだけではない。人間の子どもは成長し、傷つき、やがて失われるものを知る存在でもある。この曲は、本作の中で成熟と保護の感覚を象徴する一曲である。
4. Faceless
「Faceless」は、「顔のない」というタイトルが示す通り、匿名性、自己喪失、記憶のぼやけ、あるいは誰かの存在が輪郭を失っていく感覚を扱う楽曲である。Bellyの歌詞世界では、身体の一部や人物像がしばしば象徴的に使われるが、この曲では顔が失われることで、アイデンティティそのものの不安が浮かび上がる。
音楽的には、やや陰りのあるギター・ロックとして進む。明るい響きの曲が多い中で、「Faceless」はアルバムに暗い輪郭を与える。リズムは過度に攻撃的ではないが、曲全体には張りつめた空気がある。Tanya Donellyの声は、恐怖を直接叫ぶのではなく、距離を置いてその不安を見つめるように響く。
歌詞では、誰かが顔を失うこと、あるいは自分自身の顔が見えなくなることが、関係性や記憶の崩れと重なる。長い時間が経つと、人は過去の人物の顔を正確に思い出せなくなる。かつて大切だったものも、輪郭が曖昧になっていく。この曲は、再結成作である『Dove』において、時間の経過がもたらす喪失感を強く示している。
5. Suffer the Fools
「Suffer the Fools」は、タイトルに皮肉と苛立ちを含む楽曲である。「愚か者たちを耐え忍ぶ」という言葉には、他者の愚かさに対する疲労、社会への違和感、あるいは人間関係の中で避けられない摩擦が感じられる。Bellyの音楽は幻想的なイメージで語られることが多いが、この曲にはより現実的な苛立ちが表れている。
サウンドは比較的力強く、バンドとしてのグルーヴが前に出ている。ギターは硬めで、リズムにも推進力がある。Bellyが再結成後も単なるドリーム・ポップ的な美しさに収まらず、オルタナティヴ・ロック・バンドとしての骨格を持っていることが分かる曲である。
歌詞では、愚かさに囲まれながら、それにどう向き合うかという感覚が中心にある。怒りを爆発させるというより、その状況を冷静に見つめる視点がある。若い頃のオルタナティヴ・ロックに見られる衝動的な反発とは異なり、ここでは疲れを知ったうえでの批評性がある。『Dove』における成熟したロック感覚を示す重要曲である。
6. Girl
「Girl」は、非常にシンプルなタイトルを持つ楽曲でありながら、本作の中でも意味の幅が広い。少女、女性、過去の自分、誰かへの呼びかけ、あるいは社会的に規定された女性像など、複数の解釈が可能である。Tanya Donellyが1990年代から女性アーティストとしてギター・ロックの中で活動してきたことを考えると、このタイトルは単なる人物描写以上の重みを持つ。
サウンドは比較的静かで、メロディの陰影が前面に出る。ヴォーカルは近く、言葉の余韻が丁寧に響く。派手な展開よりも、歌の感情をゆっくりと広げるタイプの楽曲である。Bellyの初期作品にあった奇妙な少女性は、ここではより回想的で、成熟した視点から見つめ直されている。
歌詞のテーマは、少女であった時間、女性として見られること、あるいは自分の中に残る若い感情との対話として読める。『Dove』は再結成作であるため、過去の自分との距離が自然にテーマとして浮上する。「Girl」は、その距離を感傷的に理想化するのではなく、静かな観察として描いている。
7. Army of Clay
「Army of Clay」は、粘土の軍隊という印象的なタイトルを持つ楽曲である。粘土は形を変えられる素材であり、同時に焼かれることで硬くなる。軍隊という集団的で硬いイメージと、粘土という柔らかく可塑的な素材の組み合わせは、Bellyらしい奇妙な象徴性を持っている。
音楽的には、アルバムの中でも比較的ドラマ性がある。ギターとリズムは曲に厚みを与え、タイトルの持つ集団的なイメージを支える。Bellyは大仰なロック・アンセムを作るタイプではないが、この曲には独特の重さと広がりがある。
歌詞のテーマは、作られた存在、操られる存在、脆い集団性として読むことができる。粘土の軍隊は強そうに見えて、実際には壊れやすい。これは社会的な集団、政治的な空気、人間関係の中で形成される役割、あるいは自分の中にある防衛機構の比喩として機能する。『Star』の「Gepetto」が人形や創造のテーマを持っていたことを思えば、「Army of Clay」はその成熟した変奏とも考えられる。
8. Stars Align
「Stars Align」は、タイトルからして『Star』との強い連続性を感じさせる楽曲である。「星が整列する」という表現は、運命、偶然、タイミング、宇宙的な調和を示す。Bellyのデビュー作が『Star』であったことを考えると、この曲は過去の象徴を現在のアルバムへ呼び戻す役割を持っている。
サウンドは明るさと切なさを併せ持つ。ギターの響きはきらめき、メロディには希望の気配があるが、完全に楽観的ではない。星が整列する瞬間は美しいが、それは一時的で、永続するものではない。Bellyの音楽における光は、いつも少し遠く、不安定である。
歌詞では、物事が偶然に噛み合う瞬間や、長い時間を経て再び何かが結びつく感覚が描かれているように響く。再結成作という文脈では、バンド・メンバーが再び同じ場所に集まり、音楽を作ること自体が「stars align」の状態だと言える。この曲は、過去への郷愁ではなく、偶然と時間によって可能になった現在を肯定する楽曲である。
9. Quicksand
「Quicksand」は、流砂を意味するタイトルを持つ楽曲であり、不安定な足場、抜け出せない状況、ゆっくり沈んでいく感覚を象徴している。Bellyの歌詞世界では、自然物がしばしば心理状態を映す鏡として使われるが、この曲では地面そのものが信頼できないものとして描かれる。
音楽的には、沈み込むようなムードがある。リズムは過度に速くなく、ギターも浮遊感と不安を同時に持っている。Tanya Donellyのヴォーカルは、流砂に沈む恐怖を劇的に叫ぶのではなく、むしろその過程を静かに見つめるように歌う。この距離感が、曲の不気味さを強めている。
歌詞のテーマは、抜け出そうとするほど沈んでいく関係や感情として読める。恋愛、依存、記憶、後悔、あるいは社会的な状況など、さまざまなものが流砂になりうる。『Dove』全体には、過去と現在の間で足場を探す感覚があるが、「Quicksand」はその不安定さを最も直接的に表した曲のひとつである。
10. Artifact
「Artifact」は、「人工物」「遺物」「歴史的な残存物」を意味するタイトルを持つ楽曲である。復帰作である『Dove』において、この言葉は非常に重要である。Belly自身が、90年代オルタナティヴ・ロックの記憶の中で「遺物」として扱われる危険もあった。しかし本作は、バンドが単なる過去の品物ではなく、現在形の表現者であることを示している。
サウンドは、内省的でありながらも芯がある。ギターは過度に派手ではなく、曲全体に落ち着いた緊張感を与える。ヴォーカルは静かに言葉を置き、過去のものを見つめるような距離を保つ。アルバム終盤に置かれることで、ここまで描かれてきた記憶や時間のテーマがより明確になる。
歌詞のテーマは、残されたものの意味である。人間関係、写真、録音、言葉、身体の記憶など、過去の断片はすべて「artifact」になりうる。しかし遺物は死んだものとは限らない。それは現在の人間が触れることで、新しい意味を持つことがある。この曲は、Bellyが自分たちの過去をどう扱うかという問いにも重なる。過去を保存するだけでなく、それを現在の感情の中で再び鳴らすこと。それが『Dove』の重要な姿勢である。
11. Heartstrings
アルバムを締めくくる「Heartstrings」は、タイトル通り心の琴線、感情の深い部分に触れる楽曲である。終曲として非常に象徴的であり、本作が単なる再結成の記念ではなく、時間を経た人間たちが再び音楽によってつながる作品であることを示している。
サウンドは穏やかで、アルバムの最後にふさわしい余韻を持つ。大きな爆発ではなく、静かに感情をほどいていくような曲である。Tanya Donellyのヴォーカルは、過剰な感傷を避けながらも、深い情感を含んでいる。Bellyの音楽は、いつも光と影、幻想と現実の間にあったが、この曲ではその両方が落ち着いた形で結ばれている。
歌詞では、心を引っ張るもの、過去から現在へ伸びる感情の糸がテーマになっているように響く。人は時間が経っても、完全に過去から自由になることはできない。むしろ、過去との細い糸によって現在の自分が形作られている。「Heartstrings」は、その事実を悲劇としてだけでなく、音楽が再び人を結びつける可能性として提示する。
終曲として、この曲は『Dove』のテーマを静かにまとめている。過去のBellyを知るリスナーにとっては懐かしさを呼び起こしながらも、現在のバンドが鳴らす音として新しく響く。アルバムは派手な勝利宣言ではなく、心の糸がまだ切れていないことを確認するように閉じられる。
総評
『Dove』は、Bellyの再結成作として、過去の栄光を単に再現するのではなく、時間の経過そのものを音楽に変えたアルバムである。1993年の『Star』が、若さ、幻想、死、童話的イメージ、ギター・ポップの輝きを併せ持つ作品だったのに対し、『Dove』はより静かで、成熟し、記憶と現在の関係を丁寧に扱っている。そこにあるのは、90年代の再演ではなく、90年代を生きたバンドが2010年代に再び音を鳴らすことの意味である。
本作の音楽性は、Bellyらしいギターのきらめきと、Tanya Donellyの透明なヴォーカルを保ちつつ、全体としてはより落ち着いた響きを持つ。若いバンド特有の切迫感や不安定さは薄れたが、その代わりに音の余白、歌詞の陰影、メンバー間の信頼が前面に出ている。『Dove』は、勢いだけで聴かせるアルバムではない。むしろ、聴き込むほどに、言葉の象徴性やギターの質感、コーラスの重なりが浮かび上がる作品である。
歌詞面では、過去のBelly作品に見られた幻想的なモチーフが、成熟したかたちで再登場している。「Shiny One」や「Stars Align」には光や星のイメージがあり、「Human Child」には身体と無垢、「Army of Clay」には作られた存在の脆さ、「Quicksand」には沈み込む不安、「Artifact」には遺物としての記憶がある。これらはすべて、単なる美しい言葉ではなく、時間を経た人間の感情を表す象徴として機能している。
特に重要なのは、本作が再結成アルバムであることを過度に劇的に扱っていない点である。多くのバンドが復帰作で、かつての代表曲に似たサウンドを再現したり、反対に極端な変化を示したりする中で、Bellyは自然な場所に立っている。『Dove』には、『Star』のような強烈な時代性や、「Feed the Tree」のような即効性のある代表曲は少ない。しかし、アルバム全体には、長い時間を経ても失われなかったバンドの核がある。
Tanya Donellyの声も、本作の重要な要素である。若い頃の彼女の声には、無邪気さと不気味さが同居する独特の透明感があった。『Dove』では、その声に落ち着きと温かさが加わっている。これは単なる加齢による変化ではなく、歌詞のテーマと深く結びついている。子ども、記憶、遺物、心の糸といったモチーフは、若い声で歌われるよりも、時間を経た声で歌われることで説得力を増している。
音楽史的には、『Dove』は90年代オルタナティヴ・ロックの再評価と、女性中心のインディー・ロックの系譜を考えるうえで重要な作品である。Bellyは、The BreedersやThrowing Muses、Lush、The Sundays、Mazzy Starなどと並び、90年代初頭のギター・ミュージックにおいて、女性の声と視点が新しい表現領域を切り開いた時代を象徴する存在だった。本作は、その遺産が単なるノスタルジーではなく、現在でも有効な音楽言語であることを示している。
日本のリスナーにとって『Dove』は、90年代オルタナティヴ・ロックをリアルタイムで聴いていた世代にも、後追いでその時代を掘っているリスナーにも聴きやすい作品である。『Star』の幻想的なギター・ポップを期待すると、本作はやや落ち着いて聴こえるかもしれない。しかし、その穏やかさの中には、再会、記憶、時間、成熟というテーマが深く刻まれている。The Breedersの再始動期、Throwing Musesの後期作品、LushやSlowdiveの復帰作などに関心があるリスナーにも、本作は強く響くだろう。
『Dove』は、過去のBellyを完全に取り戻そうとするアルバムではない。むしろ、過去を抱えたまま現在の音を鳴らすアルバムである。星ではなく鳩。遠く輝くものではなく、空を渡り、戻ってくるもの。タイトルの象徴は、本作の性格をよく表している。Bellyはこのアルバムで、失われた時間を埋めるのではなく、時間が流れたからこそ鳴らせる音を提示した。『Dove』は、復帰作として控えめでありながら、深く誠実な成熟の記録である。
おすすめアルバム
1. Star by Belly
1993年発表のデビュー・アルバム。Bellyの幻想的な歌詞世界、きらめくギター、Tanya Donellyの透明なヴォーカルが最も鮮やかに結実した作品である。『Dove』に含まれる星、光、身体、童話的イメージの原点を知るうえで欠かせない。『Dove』が成熟後のBellyを示すなら、『Star』は若いバンドの魔術的な瞬間を記録した作品である。
2. King by Belly
1995年発表の2作目。『Star』よりも硬質で、バンドとしてのロック色が強いアルバムである。『Dove』のギター・バンドとしての厚みや、幻想性だけに頼らない演奏の力を理解するうえで重要な作品である。デビュー作のドリーミーな印象とは異なる、Bellyのもうひとつの側面を聴くことができる。
3. Pacer by The Amps
1995年発表のThe Ampsのアルバム。The BreedersのKim Dealによるプロジェクトであり、90年代オルタナティヴ・ロックのラフで親密な質感が詰まっている。Bellyとは異なる作風だが、女性中心のギター・ロックが、過度な装飾なしに個性的な世界を作り出していた時代の空気を共有している。
4. University by Throwing Muses
1995年発表のThrowing Musesのアルバム。Tanya Donellyがすでに離れた後の作品ではあるが、Bellyと深く関係する東海岸インディー・ロックの神経質で文学的な側面を理解するうえで有効である。Bellyのポップな構造と比較すると、Throwing Musesの不規則で緊張感のあるギター・ロックの特徴がより明確になる。
5. Nocturne by Wild Nothing
2012年発表のインディー・ポップ作品。80年代ドリーム・ポップやギター・ポップの影響を受けた柔らかな音像が特徴で、『Dove』の持つ穏やかなギターのきらめきや、記憶を扱う淡い感覚と共鳴する。Bellyの90年代的なオルタナティヴ感覚とは異なるが、光と郷愁を現代的なインディー・サウンドで表現する関連作として聴ける。

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