
発売日:1996年3月11日 ジャンル:Progressive House / Techno / Electronic / Ambient Techno
概要
Second Toughest in the Infantsは、Underworldが1996年に発表したスタジオ・アルバムであり、Karl Hyde、Rick Smith、Darren Emersonによる体制での2作目にあたる。前作dubnobasswithmyheadmanで彼らは、ロック・バンド的な歌、クラブ・ミュージックの反復、都市の断片を拾うような言葉を結びつけ、1990年代イギリスの電子音楽の中で独自の場所を作った。本作ではその方法をさらに広げ、曲を短くまとめるより、長い時間の中で音が変形していく構成を前面に出している。
アルバムの特徴は、テクノやハウスのビートを軸にしながら、曲が単純なダンス・トラックとして終わらないところにある。キックは一定に打たれ、シンセやベースは反復を続けるが、その上で声、ノイズ、ギターのような質感、環境音に近い断片が少しずつ出入りする。リスナーは明確なサビを待つというより、音の層が厚くなったり薄くなったりする変化を追うことになる。クラブで体を動かす音楽でありながら、ヘッドフォンで細部を聴くアルバムとしても成立している。
Karl Hydeの言葉は、物語を順番に説明するものではない。街で見かけた看板、人の声、感情のかけら、意味がつながりきらないフレーズが、リズムの中で浮かんでは消える。そのため歌詞は、理解する対象というより、都市の夜を歩いているときに耳へ入ってくる言葉のように機能する。Second Toughest in the Infantsは、クラブ・カルチャーの高揚と、夜明け前の疲れ、移動中の孤独を一つの長い流れにしたアルバムである。
全曲レビュー
1. 「Juanita : Kiteless : To Dream of Love」
16分を超えるオープニング曲「Juanita : Kiteless : To Dream of Love」は、三つのパートが一つの長い流れとして接続された、本作の性格を最初に示す曲である。序盤は低く跳ねるビートとシンセの反復がじわじわ立ち上がり、声ははっきりした歌というより、夜の中で断片的に聞こえる言葉として現れる。中盤では音の密度が変わり、リズムが前へ走る感覚と、上空に広がるようなシンセの響きが重なる。最後の「To Dream of Love」に近づくにつれて、曲はダンス・トラックの推進力から少し離れ、疲れた体に残る余熱のような美しさを帯びる。長さを使って景色を何度も変える構成が、アルバム全体の入口として非常に効果的である。
2. 「Banstyle/Sappys Curry」
「Banstyle/Sappys Curry」は、前曲の大きな流れを受けつつ、より柔らかく揺れる曲である。ビートは強く打ちつけるより、沈み込むように進み、ベースとシンセがゆっくり体を包む。Karl Hydeの声は近くにあるが、言葉の意味を一つずつ説明するのではなく、音の一部として漂っている。途中から曲の質感が変わり、浮遊する前半から少し乾いたリズムの後半へ移ることで、長い夜の中で場所を移動しているような感覚が生まれる。静かな曲に聞こえても、細かい音の入れ替わりが多く、Underworldが反復の中で退屈させないバンドであることが分かる。
3. 「Confusion the Waitress」
「Confusion the Waitress」は、タイトルからして奇妙な人物や場面を思わせる曲で、歌詞も明確なストーリーより、断片的なイメージを並べている。リズムは比較的抑えられ、シンセの響きも暗くにじむため、クラブの中心ではなく、明け方の裏通りや店の隅にいるような空気がある。声は淡々としているが、その冷静さがかえって混乱した感情を強める。曲が大きく爆発しないぶん、反復される音と少しずつ変わる声の配置が耳に残り、アルバム前半の長大な流れを人間の不安へ引き寄せている。
4. 「Rowla」
「Rowla」は、硬く太いビートと低音が前に出る、アルバムの中でもフィジカルな曲である。キックが一定に打たれ、ベースが地面を押すように鳴るため、体を動かす力がはっきりしている。上に乗るシンセは鋭く、音の反復が少しずつ熱を増していく。歌はほとんど中心にはならず、言葉よりも機械的なうねりと音圧が主役である。前の曲で内側に沈んだ空気を、ここで再びクラブの床へ戻す構成になっており、本作が聴く音楽であると同時に踊る音楽でもあることを思い出させる。
5. 「Pearl’s Girl」
「Pearl’s Girl」は、本作の中で最も強い推進力を持つ代表曲である。細かく刻まれるビートと高速で流れるシンセが、列車や車が夜の道路を走るような感覚を作る。Karl Hydeの言葉は、地名、人名、物の名前が次々と現れる断片の連続で、意味を一つにまとめるより、移動中に窓の外を過ぎていく景色のように響く。曲は長いが、リズムの圧力と音色の変化によって勢いが途切れない。クラブ・トラックとしての直接的な強さと、都市を横切る映像的な感覚が合わさり、Underworldの魅力が最も分かりやすく表れた曲である。
6. 「Air Towel」
「Air Towel」は、「Pearl’s Girl」の速度の後で、少し不安定な空間へ入っていく曲である。ビートはあるが、前曲ほど一直線には進まず、シンセやノイズが周囲で揺れるため、足元が少し浮くように聞こえる。タイトルの意味もつかみにくく、歌詞の断片と合わせて、日常的なものがクラブの光の中で奇妙に変形して見える感覚がある。曲の中ではリズムが粘り強く続き、その上で音が細かく出入りするため、派手なサビがなくても集中力を保っている。アルバム後半の入口として、熱気を少し曇らせる役割を持つ。
7. 「Blueski」
「Blueski」は、2分台の短い曲で、アルバムの中では小さな休憩のように置かれている。アコースティック・ギターの響きが前に出ており、それまでの長い電子音の流れから急に人の手触りが近づく。曲名にはブルースを思わせる響きもあるが、伝統的なブルースそのものというより、夜が明けかけた時間にふとこぼれる短い独白に近い。大きなビートを外したことで、Karl Hydeの声と言葉の寂しさがよく見える。アルバム全体の緊張を少しほどき、最後の曲へ向けて空気を薄くする小品である。
8. 「Stagger」
ラストの「Stagger」は、アルバムを静かで内省的な場所へ着地させる曲である。リズムは重く前へ押すよりも、揺れながら歩くように進み、シンセやギターの淡い音が周囲に広がる。タイトルの「よろめく」という意味の通り、曲にはまっすぐ帰れない疲れや、夜の終わりに残るぼんやりした意識がある。歌詞は断片的だが、そこに漂う孤独や優しさははっきり伝わる。アルバムの前半から中盤にあった強い推進力を大きな結論へまとめるのではなく、体の中に残った振動が少しずつ消えていくように終わるところが印象的である。
総評
Second Toughest in the Infantsは、Underworldのアルバムの中でも、長い構成と音の移り変わりを最も大胆に使った作品である。収録曲数だけを見ると多くないが、一曲ごとの尺は長く、特に前半の二曲は複数の場面を内側に含んでいる。そのため、ポップ・アルバムのように曲を一つずつ消費するというより、連続した時間の中に入っていく聴き方が合っている。曲の境目よりも、ビート、声、シンセの層がどのように変化するかが重要になる。
このアルバムの強さは、クラブ・ミュージックの反復を退屈な繰り返しにしない点にある。キックやベースは一定に続くが、その上で音色が少しずつ変わり、声の断片が別の意味を帯び、シンセの明るさや暗さが場面を変えていく。大きな転調や分かりやすいサビに頼らず、細部の変化で長い曲を動かす作りは、ダンス・ミュージックの身体性とアルバム作品としての構成力をうまく結びつけている。
Karl Hydeの歌詞も、本作をただの電子音楽アルバムではなく、都市の記録のような作品にしている。彼の言葉は説明的ではなく、時には意味がつかみにくい。しかし、そこに出てくる名前、物、場所、会話の切れ端は、夜の街や移動中の意識を非常に具体的に感じさせる。歌詞を物語として読むより、ビートの上に置かれた視覚や記憶の断片として受け取ると、本作の世界は見えやすい。
前作dubnobasswithmyheadmanと比べると、本作はロック的な歌の親しみやすさが少し後ろへ下がり、音響と流れの大きさが前面に出ている。そのぶん一聴して分かりやすい曲は限られるが、アルバム全体の没入感は深い。「Pearl’s Girl」のように強い推進力を持つ曲がある一方で、「Blueski」や「Stagger」のように体温を下げる曲もあり、夜の始まりから終わりまでを一つの時間として感じさせる。
Second Toughest in the Infantsは、1990年代のイギリス電子音楽が持っていた広がりをよく示す作品である。テクノ、ハウス、アンビエント、ロックの感覚を分けずに扱い、クラブの熱気と個人の孤独を同じ音の中へ入れている。派手なヒット曲だけで語るには複雑なアルバムだが、長い曲の中で少しずつ景色が変わる感覚に身を任せると、Underworldがなぜアルバム単位でも強いグループなのかが分かる。踊るための音楽でありながら、踊り終わった後の記憶まで描いた作品である。
おすすめアルバム
dubnobasswithmyheadman by Underworld
Underworldがテクノ、ハウス、ロック的な歌を結びつけた前作である。Second Toughest in the Infantsより曲単位の輪郭が見えやすく、彼らの基本形を知るのに向いている。
Beaucoup Fish by Underworld
次作にあたるアルバムで、より整理されたビートと強いフックを持つ曲が増えている。Second Toughest in the Infantsの長い流れと比べると、ポップさとクラブ感の配分の違いが分かる。
Surrender by The Chemical Brothers
1990年代末のイギリス電子音楽を代表する作品である。Underworldよりロック的な派手さが強いが、クラブの高揚をアルバム全体の流れに変える発想に共通点がある。
Music Has the Right to Children by Boards of Canada
ビートと電子音で記憶や風景を作るという点で関連して聴ける作品である。Underworldより静かで内向きだが、反復の中に不思議な映像感を宿すところが近い。
Leftism by Leftfield
ハウス、ダブ、テクノを横断しながら、アルバムとしての大きな流れを作った重要作である。Second Toughest in the Infantsと同じく、クラブの音を長く深い聴取体験へ広げている。

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