1. 歌詞の概要
「Tied Up!(タイド・アップ!)」は、Genesis Owusu(ジェネシス・オウス)が2023年に発表した2ndアルバム『STRUGGLER』の終盤に収録された楽曲であり、**“自由”と“束縛”という対立概念の狭間でもがきながら、なお“生”に執着する存在の葛藤と美しさ”**をエネルギッシュに描いたトラックである。
タイトルの「Tied Up!(縛られている!)」という叫びは、恋愛や社会、自己、感情、時間などあらゆる外的・内的な力に“拘束されている”状態を表しており、
同時にそれでも**「自由を叫ばずにはいられない」内なる衝動の爆発**でもある。
リズムは疾走感に満ちており、ファンク、パンク、ヒップホップ、そしてロックの影響が入り混じるその音像は、まさに**“もがく身体”のサウンドトラック**である。
言葉もまた、叫び、重なり、躍動しながら、聴き手を“葛藤の渦”へと巻き込んでいく。
2. 歌詞のバックグラウンド
『STRUGGLER』というアルバムは、タイトルが示す通り、“もがく者”“苦闘する存在”としての人間像を多角的に描くコンセプト作品である。
「Tied Up!」は、そんなアルバムの終盤に登場し、これまでのトラックで蓄積されてきた怒りや孤独、諦めと希望を**“すべて抱えたまま走り抜ける”ような瞬間**を象徴している。
Genesis Owusuはこの曲で、“縛られている”ことそのものを否定するのではなく、むしろその縛りのなかで自分がどれだけしぶとく“生きようとしたか”を誇るような視点を提示する。
それは、単なる“解放”の歌ではなく、“縛られたままでも生き抜いてやる”というディストピア的サバイバル精神の祝祭なのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Tied up!
Can’t move, but I still fight!
縛られてる!
動けないけど、まだ戦ってる!
No light, but I still shine
No right, but I still write
光がなくても、俺は輝く
正しさがなくても、俺は書き続ける
Shackled in gold chains
Dance in the pain
金の鎖で縛られて
でもその痛みのなかで踊ってる
This life is a trap
But I’m dressed like a king
この人生は罠みたいだ
でも俺は王様のような格好をしてる
歌詞引用元:Genius – Genesis Owusu “Tied Up!”
4. 歌詞の考察
「Tied Up!」は、“縛られながら自由である”という逆説を、怒りとユーモアの両面で描き切った、Genesis Owusu流のサバイバル・アンセムである。
「No light, but I still shine(光がなくても輝く)」「No right, but I still write(正しさがなくても書く)」といったラインは、条件や環境によらず、内発的に生きようとする意志の象徴であり、
これは現代の「認められない」「報われない」「誰にも見てもらえない」アーティストや表現者たちの魂の共鳴とも言える。
また、「Shackled in gold chains(金の鎖で縛られて)」という表現は、「成功」や「名声」という表向きの栄光が、実は新たな拘束でもあることを皮肉っており、
Genesis Owusuが持つ鋭い自己批評性と社会批評が重ねられている。
「This life is a trap / But I’m dressed like a king(この人生は罠だが、俺は王様のように着飾ってる)」というラインは、まさにこの曲のエッセンスだろう。
世界が牢獄のようであっても、そのなかで王冠を被り、堂々と歩く。惨めであることを恐れず、むしろそれを武器にして生きていく力強さがにじみ出ている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- DNA. by Kendrick Lamar
自分の“血”そのものを祝福する、怒りと誇りの自己宣言的ラップ。 - Pain by King Krule
生きる痛みと無力感を、ジャジーかつノイジーなサウンドで昇華したローファイ・ポストパンク。 - Fight the Power by Public Enemy
権力に縛られていても、声を上げることの価値を知らしめるプロテスト・クラシック。 -
Freedom by Solange
静かに燃えるような美しさで「縛られた身体からの解放」を描く、内省的な反抗の歌。 -
I’m Not Okay (I Promise) by My Chemical Romance
弱さを隠さずに叫ぶことの強さを提示した、エモーショナルな生存ソング。
6. “縛られながら踊る”ことの肯定
「Tied Up!」は、自由を渇望するだけでなく、“不自由な現実の中でどうやって生きるか”を問う楽曲である。
それは、「縛られている=無力」とは限らないという、新たな“強さ”の定義なのだ。
Genesis Owusuはこの曲で、「状況が理不尽でも、希望が見えなくても、俺は俺のリズムで踊る」と宣言する。
それは、叫びではなくステップであり、涙ではなくユーモアであり、敗北ではなく継続の証だ。
「Tied Up!」は、**希望が消えかけた時代にこそ聴かれるべき“踊るための戦いの歌”**である。
この歌のリズムは、私たちが不自由のなかで自由を見つけるための、小さな勝利のビートかもしれない。
それでも生きること、それでも踊ること——その美しさが、この一曲には詰まっている。
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