1. 歌詞の概要
「Last Girl(ラスト・ガール)」は、アメリカ・ナッシュビル出身のシンガーソングライター Soccer Mommy(ソッカー・マミー) ことソフィー・アリソンが、2020年にリリースしたセカンド・アルバム『color theory』に収録された楽曲であり、恋愛感情の中に芽生える劣等感と自己否定、そして“理想の彼女像”に対する対抗意識を、痛々しいほど正直に、かつポップに描いた作品である。
曲の語り手は、恋人の“前の彼女”に強く嫉妬している。彼女は美しく、クールで、何もかもが完璧に見える。そんな“ラスト・ガール”と比較されることで、語り手はどんどんと自己評価を下げていく。だがその裏には、「私も誰かにとっての最後の人でありたい」という、愛されたい、認められたいという願いがひそんでいる。
ポップなギターリフと軽快なテンポに乗せて語られるこの“内なる嫉妬”は、まるで笑顔の裏で泣いているかのような複雑な感情をまとっており、明るさと陰りの同居がこの楽曲の最大の魅力となっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
アルバム『color theory』は“色”をテーマに感情の領域を分類しており、「Last Girl」は“青=憂鬱”のセクションに収められている。ソフィー・アリソンは、「色は感情を視覚化するための道具として機能する」と語っており、本曲において“青”は劣等感や孤独、満たされなさの象徴として現れている。
この曲は、いわゆる「前カノコンプレックス」を扱いながらも、単なる嫉妬心ではなく、“理想像”に縛られた現代の女性が感じるプレッシャーや、自分自身を愛せない苦しさを深く掘り下げている。アルバムの中でも特にキャッチーで親しみやすいナンバーでありながら、その内側にある傷は深く、鋭い。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I want to be like your last girl
あなたの“前の彼女”みたいになりたいShe’s the sun in your cold world
彼女は、あなたの冷たい世界に差し込む太陽だったAnd I am just a shadow
私はその影にすぎないI don’t know why you’d ever leave her
なぜ彼女を離れたのか、私には分からないI’m not as pretty
私はあんなにきれいじゃないI’m not as cool
私はあんなにクールじゃない
歌詞引用元:Genius Lyrics – Last Girl
4. 歌詞の考察
「Last Girl」は、誰かの過去と自分を比較してしまうことで生じる苦しさを描いた非常にリアルな楽曲である。とりわけ、「She’s the sun / I am just a shadow(彼女は太陽、私は影)」というラインは、他者の輝きに照らされて“自分がどれほど暗い存在か”を思い知らされるという心象を、詩的かつ直感的に表現している。
この曲の主人公は、自分が「Not as pretty, not as cool(あんなにきれいじゃないし、クールでもない)」と繰り返すことで、自分の価値を引き下げ続けているが、それは同時に「そんな私でも、あなたに愛されたい」というひそやかな希望と執着の表れでもある。
そして何よりこの曲が優れているのは、そうしたネガティブな感情を正面から否定せず、“あるものとして受け入れる”視点があることだ。ソフィー・アリソンは、自己嫌悪や嫉妬といった感情を、「持っていてはいけないもの」として扱わない。むしろそれらは、自分という人間を構成する一部として、痛みとともに丁寧に扱われている。
その誠実なまなざしこそが、Soccer Mommyの作品が多くの人の心を打つ理由であり、「Last Girl」はその真髄ともいえる楽曲なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Jealousy by Natalie Imbruglia
嫉妬心と自己比較を描いた繊細でエモーショナルなポップバラード。 - Green Light by Lorde
失恋後の感情の混乱を、エネルギッシュなサウンドで昇華した現代的アンセム。 - Punisher by Phoebe Bridgers
自己否定と他者への執着を静かに綴る、孤独のための現代詩。 - Shameika by Fiona Apple
過去の劣等感と他者評価に抗いながら、自分の内面に居場所を見出していく力強い一曲。
6. “あの子にはなれない。でも、私としてここにいる”
「Last Girl」は、他者と自分を比べてしまうすべての人への共感と赦しの歌である。完璧ではないこと、美しくないと思うこと、クールになれないこと——そのすべてが、この曲では“否定すべきもの”ではなく、そのまま存在してよいものとして認められている。
それは、ソフィー・アリソンというアーティストの最大の美徳でもある。彼女は“強くなる”ことを押しつけない。弱いままで、欠けたままで、そこにいることを許してくれる。だからこそ、この歌は誰かにとっての“心の避難所”となる。
「Last Girl」は、“誰かと比べられる”ことで生まれる痛みを、自分自身の言葉で塗り替えていくためのはじまりの歌なのだ。そしてそのメロディは、穏やかに、しかし確実に、聴き手の心の奥へと届いていく。
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