1. 歌詞の概要
「Last Day On Earth」は、Beabadoobeeが2021年にリリースしたEP『Our Extended Play』のリードシングルであり、彼女がThe 1975のMatty HealyとGeorge Danielとともに共作・共演した初の試みとしても注目された楽曲である。
タイトルが示すように、この曲は「もし明日世界が終わるとしたら?」という仮定のもとで描かれている。しかしそこに込められているのは、絶望や恐怖ではなく、「この瞬間を無駄にしたくない」というポジティブな衝動である。
歌詞の内容は、ロックダウン下で奪われた青春の時間、予定されていたはずの何かが永遠に未遂に終わってしまった感覚、そうした喪失を背景に、今この瞬間だけは本音で、自由に、誰にも遠慮せずに生きたいという願いが込められている。飾り気のない言葉と、どこか飄々としたメロディにのせて、彼女は“青春の回復”を静かに、しかし力強く歌い上げているのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Last Day On Earth」は、Beabadoobeeにとって創作的な転機となった作品である。この曲を含むEP『Our Extended Play』は、The 1975の中心人物であるMatty HealyとGeorge Danielが全面的に制作に関わっており、彼女のこれまでのギター主導のグランジ・ポップ路線に、より洗練されたプロダクションとダンスビートが加わっている。
コロナ禍で予定されていたツアーや活動がストップした2020年、Beabadoobeeはロックダウン下の退屈と不安の中でこの曲を作り上げた。Mattyたちとの田舎でのセッションの中で生まれたこの作品は、制限された環境の中でも創造性を発揮できることの証であり、同時に、パンデミックに翻弄されたZ世代の心情を等身大で捉えた“時代の記録”ともなっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I’d wear my favorite dress at night
夜にはお気に入りのワンピースを着るわAnd try to smile real nice
そしてできるだけ素敵な笑顔を作ってみるのI’d take you out for dinner
あなたをディナーに誘ってI’d let you win at poker
ポーカーであなたを勝たせてあげるIf it was the last day on Earth
もし今日が地球最後の日だったらIf it was the last day on Earth, my life
もし今日が人生最後の日だったとしたら
歌詞引用元:Genius Lyrics – Last Day On Earth
4. 歌詞の考察
この楽曲の魅力は、「世界の終わり」というシリアスなテーマを、驚くほど軽やかに、そしてユーモラスに描いている点にある。「もし最後の日だったら、あなたをポーカーで勝たせる」などのユーモア交じりのリリックには、シリアスすぎないことでかえって本音が浮かび上がる独特のニュアンスがある。
さらに、「笑顔を作る」「ディナーに連れて行く」といった何気ない行動に、Beabadoobeeは“失われた時間”を取り戻そうとする願いを込めているように思える。パンデミックによって“普通のこと”が特別なものになってしまった現代において、彼女はささやかな行為の一つひとつに意味を見出しているのだ。
この曲は、青春の“無駄にされた時間”を、ユーモアと誠実さの両方で弔うような性質を持っている。その結果、聴き手は彼女の声に導かれ、自分自身の「失ったもの」や「やり直したいこと」に想いを巡らせることになるのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- People, I’ve Been Sad by Christine and the Queens
パンデミック期の孤独を美しいエレクトロ・サウンドで描く、時代の空気を反映した傑作。 - Hard Drive by Cassandra Jenkins
都会の孤独と再生の可能性を描いた詩的な語りが、Beabadoobeeの柔らかな憂いと響き合う。 - No Song Without You by HONNE
控えめで繊細な愛の表現に、内省的な「もしも」の感覚が重なる。 - There’d Better Be A Mirrorball by Arctic Monkeys
終わりゆく関係や時間の中で、それでも美しくあろうとする姿勢が共通する。
6. “Z世代のレクイエム”としての価値
「Last Day On Earth」は、単なる失恋や別れの歌ではない。それは「私たちが過ごすはずだった日々へのレクイエム」であり、同時に「それでも今を大切に生きよう」という宣言でもある。青春の美しさと脆さ、そしてそれが思いがけない形で断ち切られてしまう現実――この曲はそれらすべてを、淡く、やさしく、しかし確実に掬い取っている。
Beabadoobeeは、派手な言葉で叫ぶのではなく、ささやくように感情を歌う。その静けさの中にある共感性が、同じ時代を生きる多くの若者たちの心をとらえて離さない。
この曲を聴いた後に訪れるのは、寂しさではなく、不思議な温かさである。たとえ明日が来なかったとしても、今日をきちんと生きたい。Beabadoobeeはその想いを、軽やかなメロディとともに、静かに私たちに届けてくれているのだ。
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