発売日: 2017年6月16日
ジャンル: オルタナティブロック、シューゲイザー
2017年にリリースされたRideのアルバム『Weather Diaries』は、バンドが21年ぶりに発表したオリジナルアルバムであり、待望の再結成後の作品だ。1990年代初頭にシューゲイザーシーンを牽引したRideが、現代の音楽シーンにどう適応しつつも自らのアイデンティティを保つか、という問いに対する答えが詰まった一枚だ。
プロデュースを手掛けたのは、ポーティスヘッドやゴリラズとの仕事で知られるErol Alkan。彼の手腕によって、バンドの持ち味であるリバーブに包まれたギターサウンドが現代的にアップデートされている。一方で、90年代のRideらしいメランコリックなメロディと内省的な歌詞も健在だ。アルバム全体を通じて、ノスタルジーと新鮮さが絶妙にバランスを取り合っており、古くからのファンにとっても、新しい世代のリスナーにとっても楽しめる作品に仕上がっている。
各曲解説
1. Lannoy Point
アルバムの幕開けを飾る壮大なトラック。シンセサイザーを活用したドリーミーなイントロから、徐々にギターの層が重なり、Ride特有の音の壁が広がる。歌詞には政治的なメッセージが込められており、不確実な時代に対する問いかけが感じられる。
2. Charm Assault
リードシングルとしてリリースされたキャッチーなトラック。明るく疾走感のあるメロディとは裏腹に、歌詞は現代社会の腐敗や欺瞞を風刺している。エッジの効いたギターワークが特に印象的だ。
3. All I Want
エネルギッシュなギターリフと感情的なボーカルが際立つ楽曲。青春時代の焦燥感を想起させるメロディが胸に迫る。
4. Home Is a Feeling
静かで内省的な雰囲気を持つトラック。浮遊感のあるギターと柔らかいボーカルが調和し、家庭や帰属意識についてのテーマが静かに語られる。
5. Weather Diaries
アルバムのタイトル曲で、約7分にわたる大作。緩やかなビートの上に、シューゲイザー特有の濃密な音響が広がる。歌詞は気候変動や環境問題を暗喩的に描写しており、壮大なスケール感を感じさせる。
6. Rocket Silver Symphony
実験的なアプローチが光る楽曲で、サイケデリックな要素が目立つ。ギターリフの反復がトランスのような効果を生み出し、音の旅に誘う。
7. Lateral Alice
わずか2分台の短い楽曲ながら、激しくエネルギッシュな一曲。パンク的な勢いとオルタナティブロックの要素が融合している。
8. Cali
夏の終わりを思わせるメランコリックなトラック。アメリカ西海岸の風景を描写したような歌詞と爽やかなギターサウンドが心地よい。
9. Integration Tape
アルバム全体の中で最もアンビエント的なトラック。シンセサイザーが主役となり、瞑想的な音の世界を描いている。
10. Impermanence
儚さや無常観をテーマにした楽曲で、歌詞は愛する人の喪失を暗示しているようにも感じられる。感情的なボーカルと壮大なサウンドスケープが美しい。
11. White Sands
アルバムを締めくくる静かなトラックで、広がりのあるギターと穏やかなボーカルが心を落ち着かせる。タイトルが示すように、砂漠の中での孤独感や解放感を感じさせる楽曲だ。
アルバム総評
『Weather Diaries』は、過去の栄光に寄りかかるのではなく、現在の音楽シーンと向き合いながらもRideの持ち味をしっかりと維持したアルバムだ。リバーブを多用したギターサウンドと現代的なプロダクションが見事に融合し、彼らの音楽が時代を超えて進化していることを証明している。「Charm Assault」や「Weather Diaries」といった楽曲は特に印象的で、バンドの新たな章を告げるにふさわしい。ノスタルジーと現代性の間を巧みに行き来するこの作品は、旧ファンと新規リスナーの両方を魅了するだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Nowhere by Ride
Rideのデビューアルバム。リバーブに包まれた轟音ギターと感傷的なメロディの原点がここにある。
Slowdive by Slowdive
同じく2010年代に再結成したシューゲイザーの代表バンドによるセルフタイトルアルバム。懐かしさと新鮮さが絶妙に混ざり合っている。
To Be Everywhere Is to Be Nowhere by Thrice
オルタナティブロックにシューゲイザー的な音響を取り入れたアルバムで、現代的なエッジが魅力的。
MBV by My Bloody Valentine
シューゲイザーの伝説的バンドによる2013年のアルバム。リバーブとノイズの美学を極めた一枚。
Luminous by The Horrors
シューゲイザーやドリームポップからの影響を感じるサウンドで、モダンな音響が特徴的な作品。
コメント