
発売日:2017年6月16日
ジャンル:オルタナティブ・ロック、シューゲイズ、ドリームポップ、インディー・ロック、ネオ・サイケデリア
概要
Rideの5作目『Weather Diaries』は、1990年代初頭のシューゲイズを代表するバンドが、約21年ぶりに発表した再始動作である。前作『Tarantula』が1996年にリリースされて以来、Rideは長い活動停止期間に入り、メンバーはそれぞれ別の道を歩んだ。Andy BellはHurricane #1を経てOasis、Beady Eyeへ参加し、Mark Gardenerはソロ活動やプロデュースを行い、Steve QueraltやLoz Colbertもそれぞれ音楽活動を続けた。その後、2014年に再結成し、ライブ活動を経て発表されたのが本作である。
Rideは、1990年の『Nowhere』と1992年の『Going Blank Again』によって、シューゲイズ史に決定的な足跡を残した。彼らの特徴は、My Bloody Valentineのようにギター音を完全に溶かす方向だけではなく、強いドラム、明確なメロディ、疾走するバンド・サウンドを保ちながら、轟音と浮遊感を両立させた点にある。特に『Going Blank Again』では、クラウトロック的な反復やサイケデリックな推進力が加わり、シューゲイズと英国ギター・ロックの橋渡しとなる作品を生み出した。
『Weather Diaries』は、その過去を単純に再現するアルバムではない。もちろん、きらめくギター、重なり合うヴォーカル、広がりのある音響、サイケデリックな反復といったRideらしい要素は随所にある。しかし本作は、90年代の若い衝動をそのまま取り戻すのではなく、時間を経たバンドが、現在の音響環境の中で自分たちのギター・ロックを再構築する作品である。タイトルの「Weather Diaries」は「天候の日記」を意味し、変化し続ける空模様、時間、気分、社会の不安定さを記録するような響きを持つ。
本作のプロデュースを手がけたのは、DJ/プロデューサーとして知られるErol Alkanである。この人選は非常に重要である。Erol Alkanは、インディー・ロックとクラブ・ミュージックの接点に強く、リズム、音の厚み、現代的なミックス感覚を持つプロデューサーである。そのため『Weather Diaries』は、単なる懐古的なシューゲイズ作品にはなっていない。ギターは厚く鳴るが、低音やドラムの輪郭は明確で、音の配置は現代的である。90年代のRideが持っていた疾走感を、2010年代のプロダクションで再び立ち上げようとした作品と言える。
アルバム全体のテーマには、気候、時間、政治的な不安、個人の記憶、再生、喪失、移動といった要素がある。2010年代後半の英国は、Brexitをめぐる分断、社会的な不安、環境問題、情報過多の時代感に包まれていた。『Weather Diaries』は直接的な政治アルバムではないが、曲の中には世界が不安定に変化している感覚が漂う。天候というモチーフは、個人の感情だけでなく、社会全体の空気の変化を象徴している。
「Lannoy Point」や「Charm Assault」では、再結成後のバンドらしい力強い始動感がある。「Home Is a Feeling」では、場所や帰属をめぐるノスタルジックな感情が浮かび上がり、「Weather Diaries」では、タイトル曲らしく、時代の空模様を見つめるような広がりがある。「Rocket Silver Symphony」や「Integration Tape」では、過去のRideには少なかった電子的・実験的な質感も導入される。一方で、「Cali」や「Lateral Alice」には、往年のRideらしいギター・ロックの推進力が強く残っている。
歌詞の面では、若さの曖昧な焦燥を描いていた初期作品とは異なり、より大人びた視点がある。帰る場所とは何か、時間が経つとはどういうことか、社会が変わる中で自分はどこに立つのか。こうした問いが、直接的すぎない形で散りばめられている。Rideの歌詞は、依然として明快な物語よりもイメージや感覚を重視するが、本作ではその感覚が、より経験を積んだ者の視点から発せられている。
『Weather Diaries』は、再結成アルバムとして非常に興味深い。多くの再結成バンドは、過去の代表作の影をなぞるか、無理に現代化しすぎて本来の魅力を失う危険がある。しかしRideは本作で、その中間を狙っている。初期の轟音ギターとメロディを取り戻しつつ、プロダクションやアレンジには現在の感覚を取り入れる。完全な傑作というより、長い沈黙の後にバンドが再び自分たちの音を探し始めたアルバムとして重要である。
日本のリスナーにとって本作は、90年代シューゲイズの名盤を聴いた後に、Rideが現代にどう戻ってきたかを知るうえで有効な作品である。『Nowhere』や『Going Blank Again』の若々しい衝動とは異なるが、そこには時間を経たバンドならではの深みと、再び大きなギター・サウンドを鳴らす喜びがある。シューゲイズの懐古ではなく、シューゲイズ以後のRideとして聴くべきアルバムである。
全曲レビュー
1. Lannoy Point
オープニング曲「Lannoy Point」は、『Weather Diaries』の再始動感を最もよく示す楽曲である。長い活動停止期間を経たRideが、再び大きなギター・サウンドで戻ってきたことを告げる曲であり、アルバムの入口として非常に効果的である。タイトルは具体的な地名のような響きを持ち、海岸線、見晴らしのよい地点、風の強い場所を連想させる。
サウンドは広がりがあり、ギターは重なりながらも濁りすぎず、ドラムは力強く前へ進む。初期Rideのような若い疾走感とは少し異なり、ここには大人になったバンドの落ち着いた推進力がある。ヴォーカルはギターの中に溶け込みながらも、比較的明確に聴こえる。これは2010年代的なミックスの特徴でもある。
歌詞では、距離、視界、変化、前進の感覚が漂う。再結成後の最初のアルバムの冒頭にふさわしく、過去に戻るというより、新しい地点から再び出発する印象が強い。「Lannoy Point」は、Rideが自分たちの歴史を背負いながら、現在形のバンドとして鳴ろうとしていることを示す楽曲である。
2. Charm Assault
「Charm Assault」は、タイトルからして魅力と攻撃性が同居した楽曲である。「charm」は魅力や魔法、「assault」は攻撃を意味し、柔らかさと暴力性がぶつかる言葉の組み合わせになっている。Rideの音楽そのものも、きらめくメロディと厚いギターの圧力が同時に存在するため、このタイトルは非常に象徴的である。
サウンドは力強く、アルバム序盤の勢いをさらに押し出す。ギターは鋭く、ドラムはタイトで、曲全体に明確なロックの推進力がある。初期Rideの「Leave Them All Behind」ほど長大ではないが、同じく前へ走る感覚を持つ。Erol Alkanのプロダクションによって、音は現代的に整理されている。
歌詞には、社会的な不安や操作される感覚が読み取れる。魅力的に見えるものが、実際には攻撃として機能する。現代のメディア、政治、消費文化、情報環境への違和感とも重なるテーマである。「Charm Assault」は、Rideのギター・ロックを現代の不穏な空気へ接続した楽曲である。
3. All I Want
「All I Want」は、タイトル通り「自分が求めるもの」をテーマにした楽曲である。しかし、ここでの欲求は単純な恋愛や物質的な願望ではなく、より広い意味での自由、安定、真実、帰属への願いとして響く。アルバム全体の中でも、感情の核に近い曲である。
サウンドは、ややダークで広がりがある。ギターは厚く鳴るが、メロディには哀愁があり、曲全体に切迫感がある。ドラムは安定した推進力を持ち、ヴォーカルは内省的でありながら力強い。Rideの再結成後の音は、ここで非常にバランスよく表れている。
歌詞では、自分が本当に望むものを探す感覚が描かれる。若い頃のRideが未来への焦燥を音にしていたとすれば、この曲では、時間を経た後にそれでも残る欲求が扱われている。何を手放し、何を守るのか。その問いが曲の奥にある。「All I Want」は、本作の内面的な深さを示す楽曲である。
4. Home Is a Feeling
「Home Is a Feeling」は、『Weather Diaries』の中でも特に美しく、ノスタルジックな楽曲である。タイトルは「家とは感情である」という意味を持ち、物理的な場所としての家ではなく、記憶、安心、関係、帰属感としての家を描いている。長い活動停止を経て再びRideとして戻ってきたバンドにとって、このタイトルは特別な響きを持つ。
サウンドは穏やかで、ドリームポップ的な浮遊感が強い。ギターは柔らかく広がり、ヴォーカルは優しく重なる。初期Rideの激しい轟音とは異なり、ここでは成熟したメロディと音の余白が前面に出る。曲全体には、過去を振り返るような温かさと少しの寂しさがある。
歌詞では、帰る場所が地理的なものではなく、感情の中にあることが示される。家は住所ではなく、誰かとの記憶や、自分が自分でいられる感覚によって成立する。この曲は、再結成したバンドが「Rideという場所」に戻ってきたこととも重なる。「Home Is a Feeling」は、本作の中でも最も感情的に深い楽曲の一つである。
5. Weather Diaries
表題曲「Weather Diaries」は、アルバムの中心的なコンセプトを担う楽曲である。天候の日記というタイトルは、日々変化する空模様を記録するように、個人の気分、社会の空気、時代の不安定さを捉えることを示している。Rideの再始動作において、過去と現在、個人と社会をつなぐ重要な曲である。
サウンドは広がりがあり、どこか曇天のような質感を持つ。ギターは厚いが、明るく突き抜けるというより、雲の層のように重なっている。ヴォーカルは少し距離を保ち、観察者のように響く。曲は大きく爆発するというより、変化する空気をじっくり見つめるように進む。
歌詞では、天候が感情や社会状況の比喩として機能する。晴れや雨、風や雲は、単なる自然現象ではなく、時代の気分そのものを示す。『Weather Diaries』というアルバム全体が、長い時間を経たバンドの現在地を記録する日記だとすれば、この曲はその表題にふさわしい内省を持っている。
6. Rocket Silver Symphony
「Rocket Silver Symphony」は、タイトルからして宇宙的で、金属的で、壮大な響きを持つ楽曲である。ロケット、銀、交響曲という言葉が並ぶことで、未来的な速度、冷たい光沢、大きな音響構築が連想される。Rideのサイケデリックな側面と、現代的な音響志向が強く出た曲である。
サウンドは、アルバムの中でも比較的実験的で、電子的な質感や浮遊感が目立つ。ギター・バンドとしてのRideの枠を保ちながら、音の配置にはスペーシーな広がりがある。タイトル通り、ロケットがゆっくりと上昇し、銀色の光の中へ進んでいくような感覚がある。
歌詞は抽象的で、宇宙、速度、光、変化のイメージが漂う。初期Rideにもサイケデリックな要素は強かったが、この曲ではそれがより現代的なプロダクションと結びついている。「Rocket Silver Symphony」は、再結成Rideが単なる過去の再現ではなく、新しい音響を探ろうとしていることを示す楽曲である。
7. Lateral Alice
「Lateral Alice」は、本作の中でも比較的ストレートなギター・ロック色が強い楽曲である。タイトルは、横方向を意味する「lateral」と、人物名のような「Alice」を組み合わせたもので、奇妙な視点のずれや、横へ滑るような感覚を持つ。Aliceという名前は、しばしば不思議の国や夢の世界とも結びつくため、サイケデリックな連想もある。
サウンドはタイトで、ギターは明るく鋭い。曲は長く引き延ばされず、比較的コンパクトに進む。Rideの再結成後の音の中でも、90年代のギター・バンドとしての勢いを最も分かりやすく感じられる曲の一つである。ドラムの推進力も強く、ライブで映えるタイプの楽曲である。
歌詞では、人物像や視点のずれが断片的に描かれる。Aliceという存在は、具体的な人物というより、移動し続ける視界や奇妙な心理状態の象徴のように機能する。「Lateral Alice」は、本作の中で軽快なギター・ロックのエネルギーを担う楽曲である。
8. Cali
「Cali」は、カリフォルニアを連想させるタイトルを持ち、アルバムの中でも明るく、開放的な空気を持つ楽曲である。Rideは英国のバンドだが、この曲には西海岸的な光、広い空、ドライブ感のようなものが漂う。タイトルの短さも、軽やかな印象を与える。
サウンドは爽快で、メロディも比較的ポップである。ギターはきらめき、リズムは前向きに進む。『Weather Diaries』の中には曇り空や不安定な気分を感じさせる曲も多いが、「Cali」はその中で太陽の光を差し込むような役割を持つ。
歌詞では、逃避、旅、明るい場所への憧れが感じられる。カリフォルニアは実際の場所であると同時に、ポップ・カルチャーにおける自由や開放感の象徴でもある。Rideがこのイメージを使うことで、英国的な曇り空のアルバムに、一時的な光と風が加わる。「Cali」は、本作の中でも親しみやすい楽曲である。
9. Integration Tape
「Integration Tape」は、アルバムの中でも最も実験的な性格を持つトラックの一つである。タイトルは「統合テープ」を意味し、録音物、記憶、断片、音の編集、複数の要素を一つにまとめる行為を連想させる。Rideの伝統的なギター・ロックから少し離れ、音響的なコラージュ感覚が前に出る曲である。
サウンドは、反復的で、やや電子的・実験的な質感を持つ。明確なポップ・ソングというより、アルバムの流れの中で異なる空間を作る役割が強い。Erol Alkanのプロダクションが持つクラブ/電子音楽的な感覚も、ここでは比較的強く感じられる。
この曲は、Rideが過去のサウンドを再現するだけでは満足していないことを示している。再結成バンドにとって、新しい実験をどの程度行うかは難しい問題だが、「Integration Tape」は本作に現代的な異物感を加えている。アルバムの後半に置かれることで、音の流れに変化を与える重要なトラックである。
10. Impermanence
「Impermanence」は、「無常」「永続しないこと」を意味するタイトルを持つ楽曲であり、本作の中でも特に内省的なテーマを持つ。長い活動停止、再結成、時間の経過を経験したRideにとって、この言葉は非常に重い。すべては変わり、同じ状態に留まるものはない。その認識が曲の中心にある。
サウンドは比較的落ち着いており、メロディには静かな哀愁がある。ギターは厚く鳴るというより、広い空間の中で揺れる。ヴォーカルは穏やかで、若い頃の焦燥とは異なる、時間を受け入れるような響きを持つ。アルバム終盤にふさわしい、成熟した楽曲である。
歌詞では、変化、喪失、時間の流れが描かれる。無常というテーマは、再結成アルバムにおいて非常に重要である。過去の自分たちには戻れないが、その事実を認めることで新しい音が生まれる。「Impermanence」は、『Weather Diaries』の精神的な核心に近い楽曲である。
11. White Sands
アルバムを締めくくる「White Sands」は、静かな余韻を持つ終曲である。タイトルは「白い砂」を意味し、海岸、光、乾いた風景、時間に洗われた場所を連想させる。『Weather Diaries』が天候や移ろいをテーマにしたアルバムであるなら、この終曲は、長い気象の記録の後にたどり着く静かな場所のように響く。
サウンドは広がりがあり、落ち着いている。ギターは柔らかく、ヴォーカルも穏やかに響く。大きな爆発で終わるのではなく、ゆっくりと音が開けた場所へ消えていくような構成である。Rideの再始動作は、最後に勝利宣言ではなく、静かな余白を残す。
歌詞では、白い砂、時間、記憶、遠い場所へのイメージが浮かぶ。白い砂は、何かが消えた後に残る風景のようでもあり、新しく始まる場所のようでもある。「White Sands」は、本作の終曲として、過去と現在、喪失と再生を穏やかに結びつける楽曲である。
総評
『Weather Diaries』は、Rideが長い沈黙の後に再び自分たちの音を鳴らした、非常に意義深い再始動作である。1990年代の名盤『Nowhere』や『Going Blank Again』と比較すると、若い衝動や革新性という点では当然異なる。しかし、本作には、時間を経たバンドだからこそ出せる重みと、自分たちの歴史を現在形で鳴らそうとする誠実さがある。
本作の最大の魅力は、過去と現在のバランスである。Rideらしいきらめくギター、重なり合うヴォーカル、サイケデリックな浮遊感、ロック・バンドとしての推進力はしっかり残っている。一方で、Erol Alkanのプロダクションによって、音の輪郭は現代的に整えられ、低音やドラムには2010年代らしい厚みがある。懐古だけに留まらず、現代のRideとして成立しようとしている点が重要である。
「Lannoy Point」「Charm Assault」「All I Want」の序盤3曲は、再結成後のRideの力強さを示している。特に「Charm Assault」は、かつてのバンドの勢いを現在の音で鳴らした曲として印象的である。一方、「Home Is a Feeling」や「Impermanence」では、時間の経過、帰属、変化をめぐる成熟した感情が表れる。若いバンドには書けないタイプの曲であり、本作の大きな価値になっている。
アルバム・タイトル『Weather Diaries』も、本作の性格をよく表している。天候は常に変化する。晴れ、曇り、雨、風、光、湿度。それらは個人の気分にも、社会の空気にも重なる。Rideは本作で、再結成という個人的な出来事だけでなく、2010年代後半の不安定な世界の空模様も記録している。直接的な政治性は強くないが、社会全体が落ち着かない時代の感覚は、楽曲の曇った質感や歌詞の断片に表れている。
シューゲイズの文脈で見ると、本作は非常に興味深い。2010年代には、シューゲイズの再評価が進み、多くの若いバンドが90年代の音響を参照していた。その中で、当事者であるRideが新作を発表したことには大きな意味がある。ただし、彼らは若いバンドのようにシューゲイズをスタイルとして再演するのではなく、自分たちの過去を背負った上で、より広いオルタナティブ・ロックとして更新している。
一方で、『Weather Diaries』には再結成アルバム特有の難しさもある。初期2作のような歴史的インパクトを求めると、本作は穏やかに聞こえる部分がある。また、曲によっては過去のRideらしさと現代的なプロダクションの間で、やや折衷的に感じられる場面もある。しかし、それは失敗というより、バンドが過去を再現するだけではなく、現在の自分たちを探っている過程として聴くべきである。
Andy BellとMark Gardenerの関係性も、本作の重要な要素である。Rideの音楽は、二人のギターと声の重なりによって成立している。長い時間を経ても、その相互作用は失われていない。初期作品のような若々しい緊張とは違うが、音の中に互いの歴史が染み込んでいる。再結成アルバムにおいて、これは非常に大きな意味を持つ。
Steve QueraltのベースとLoz Colbertのドラムも、バンドの再始動を支えている。Rideはしばしばギターのバンドとして語られるが、実際にはリズム隊の推進力が大きな魅力である。本作でも、ドラムとベースがしっかりと曲を支え、ギターの層を動かしている。特に「Lannoy Point」や「Charm Assault」では、そのバンドとしての強さがよく分かる。
『Weather Diaries』は、Rideのディスコグラフィの中で最高傑作というより、復帰後の重要な再定義作品である。『Nowhere』や『Going Blank Again』が若いバンドの衝動と時代の空気を刻んだ作品だとすれば、本作は過去を持つバンドが、現在の世界をどう見ているかを示すアルバムである。天候を記録するように、変化する感情と時代の空気を記録している。
日本のリスナーにとって本作は、90年代シューゲイズの名盤を聴いた後に触れると、その意味がより明確になる。初期作品のような衝撃を期待するよりも、長い時間を経たRideがどのように自分たちの音を再び組み立てたのかに注目すると、本作の魅力が見えてくる。ギターの美しさ、メロディの成熟、現代的な音響、時間への意識が一体となった作品である。
『Weather Diaries』は、過去の栄光をそのまま繰り返すアルバムではない。むしろ、変わってしまった天候の中で、もう一度バンドとして立ち上がるアルバムである。晴れの日だけではなく、曇りや雨、風の強い日も記録する。その意味で本作は、Rideというバンドの再生の記録であり、時間の移ろいを受け入れながら鳴らされた成熟したギター・ロック作品である。
おすすめアルバム
1. Nowhere by Ride
Rideのデビュー・アルバムであり、シューゲイズを代表する名盤の一つである。『Weather Diaries』を理解するには、まずこの作品でバンドの原点を聴くことが重要である。轟音ギター、浮遊するヴォーカル、青春の不安が美しく結びついている。
2. Going Blank Again by Ride
Rideの2作目であり、シューゲイズの音響美とギター・ロックの推進力が高いレベルで融合した代表作である。『Weather Diaries』のギターの疾走感やサイケデリックな反復を理解するうえで、最も重要な比較対象となる。
3. Weather Diaries以後のThis Is Not a Safe Place by Ride
再結成後の次作であり、『Weather Diaries』で再び始動したRideが、より自然なバンド・サウンドへ進んだ作品である。復帰後のRideの流れを追ううえで重要であり、現代のRide像をさらに理解できる。
4. Loveless by My Bloody Valentine
シューゲイズの最重要作であり、ギター音響の可能性を極限まで広げた歴史的アルバムである。Rideとは方法論が異なるが、轟音とメロディ、音の霞の中にある感情表現を理解するうえで欠かせない。
5. Slowdive by Slowdive
2017年に発表されたSlowdiveの再結成アルバムであり、『Weather Diaries』と同じく、90年代シューゲイズの重要バンドが現代に戻ってきた作品である。より静謐でドリームポップ寄りだが、再結成バンドが過去を更新する方法として非常に興味深い比較対象である。

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