
発売日: 2023年5月12日(配信限定)
ジャンル: ライブ・アルバム、ポップ、オルタナティヴロック、Y2Kポップ
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概要
『Live at the Roundhouse』は、Rina Sawayamaが2023年にロンドンの伝説的ライブ会場「The Roundhouse」で行った公演を収録した初の公式ライブアルバムであり、彼女のパフォーマーとしての実力とカリスマ性を余すところなく記録した作品である。
本公演は『Hold the Girl』ツアーの一環として開催され、アルバムのエモーショナルな楽曲群と、前作『Sawayama』のジャンル越境的ヒット曲がセットリストに巧みに織り込まれている。
Rinaはこのアルバムについて「ライブこそが私の音楽の最も完成された形」と語っており、舞台上での彼女の声、表情、そして観客との共振が、すべての楽曲に新たな命を吹き込んでいる。
本作は、単なるライブ録音ではない。Rina Sawayamaが“音楽”を“体験”に昇華させる、音と物語の劇場として存在しているのだ。
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全曲レビュー
1. Minor Feelings (Live)
アルバム『Hold the Girl』と同様に、ライブの“導入”として使われる短い詩的プロローグ。観客の静寂と緊張感が空気を支配する。
2. Hold the Girl (Live)
スタジオ版以上に壮大な構成で披露され、Rinaのボーカルは終盤にかけて激しく感情を爆発させる。照明演出との相乗効果で圧巻の一曲に。
3. Dynasty (Live)
『Sawayama』の幕開けを飾る楽曲が、ドラマチックな照明とともにステージに登場。ギターとストリングスの迫力が会場全体を飲み込む。
4. STFU! (Live)
会場全体が一体化する怒りのアンセム。ヘヴィなリフとシャウトに、観客のコールアンドレスポンスが加わり、完全なカタルシスへ。
5. This Hell (Live)
カントリーポップの軽快さとライブの熱気が融合した、ポップな祝祭空間。観客が「This hell is better with you!」と大合唱する様は圧巻。
6. Catch Me in the Air (Live)
観客との感情的な共鳴が強い楽曲。イントロでのRinaの語りが泣けると話題になり、“母への手紙”のように披露される。
7. XS (Live)
エレクトロとバロックポップを融合させた中毒性のあるヒット曲。会場ではビートの強調が行われ、よりクラブミュージック的な構成に。
8. Bad Friend (Live)
照明が落ち、Rinaがピアノの前に座って披露。観客は息をのむように聴き入り、終盤のサビで涙を拭うファンの姿も印象的。
9. Frankenstein (Live)
ロック色の強いトラック。照明の点滅と歪んだギターが、心の“分裂”というテーマをヴィジュアルでも強化する。
10. Send My Love to John (Live)
アコースティックセットで演奏される静かな一曲。Rinaが実話を元にした背景を語り、会場が一体となって聴き入る神聖な瞬間。
11. Chosen Family (Live)
ファンとの絆を象徴するバラード。LGBTQ+コミュニティへの賛歌として披露され、会場にはレインボーフラッグが多数揺れる。
12. Lucid (Live)
未収録のスタジオアルバムながら人気の高いダンス・トラック。後半に登場し、会場を完全にクラブ化。ラストへの前振りとして機能。
13. To Be Alive (Live)
ラストソングとして完璧な選曲。壮大な照明と共に「生きていること」そのものを讃える大団円。ステージ上のRinaが涙ぐむ場面も収められている。
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総評
『Live at the Roundhouse』は、Rina Sawayamaが単なる“レコーディング・アーティスト”ではなく、“体感型アーティスト”であることを明示するライブ・アルバムである。
本作では、1曲ごとのアレンジや演出が精緻に設計されており、スタジオ音源とは異なる“今この瞬間だけの音”が鳴っている。とりわけ“Hold the Girl”や“Catch Me in the Air”では、Rinaがリリックの背後にある物語を語ることで、会場の感情の空気が塗り替えられていく様子が記録されている。
また、LGBTQ+や移民としての立場をオープンにした上で、その「物語」を“みんなで歌うもの”へと昇華していく姿勢には、ポップミュージックが持つ原初的な力—つまり“癒しと祝祭”—の両方が息づいている。
このライブアルバムは、Rinaのこれまでの歩みと、彼女とファンとの“chosen family”としての関係性を可視化する音の記録であり、2020年代ポップの象徴的瞬間を閉じ込めた貴重な作品である。
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おすすめアルバム(5枚)
- Lady Gaga『Chromatica (Dawn of Chromatica)』
ライブ仕様への再構築とクラブ的解放感の演出が、Rinaのステージと共振する。 - Troye Sivan『Live at the Capitol Studios』
スタジオをライブ空間に変える感性と親密さが、『Chosen Family』に通じる。 - Haim『Women in Music Pt. III (Deluxe Live Tracks)』
姉妹バンドのライヴ感溢れる演奏と、女性の声を中心に据えた構成が似ている。 - Florence + The Machine『MTV Unplugged – A Live Album』
声の力で空間を支配するパフォーマンスの記録として共通性が高い。 - Beyoncé『Homecoming: The Live Album』
ポップアイコンがライブで物語を再構築する試みの最高峰。
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ビジュアルと演出の特徴
Roundhouseでのライブでは、サーキュラーな舞台構造を活かし、360度の演出で観客と“対話する空間”が構築された。
衣装もRinaのアイデンティティを体現するもので、“和風”のモチーフとY2K的装飾が融合したハイブリッドなビジュアル。ビジュアルアートと音楽が一体となる、現代的なライブパフォーマンスの理想形がここにはある。
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