1. 歌詞の概要
「Dangerously（デンジャラスリー）」は、チャーリー・プースのデビュー・アルバム『Nine Track Mind』（2016年）に収録されたバラードであり、深く激しい恋愛の果てに“危険なほどに”相手を愛してしまったという、壊れそうな心情を赤裸々に描いた一曲である。
タイトルの「Dangerously」とは、“危険なほどに”“常軌を逸して”という意味合いを持ち、ここでの語り手は自らの愛がどれだけ深く、同時に破壊的だったかを回想している。これは単なる失恋の物語ではない。むしろ“自分の一部を失ってしまうほどの愛”の記録であり、そこには後悔、依存、そして自己否定に近い苦しみがにじむ。
歌詞全体を通して描かれているのは、愛によって高揚した瞬間ではなく、その愛が終わった後に残された空虚さや痛みである。心から愛したことを否定することはできないけれど、その愛は「危険だった」と自覚せざるを得ない――そんな切実な想いが、シンプルなメロディの中に強烈な感情を宿している。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Dangerously」は、チャーリー・プースの“甘くて清潔なラブソング”のイメージとは一線を画する、より内面的で破壊的な感情をテーマとした作品である。彼自身がこの楽曲の作詞・作曲・プロデュースを手がけており、リリース当時のインタビューでも「最も個人的で感情的に難しかった曲のひとつ」と語っている。
楽曲はソウルフルなバラードスタイルで構成されており、最小限のアレンジの中でチャーリーのヴォーカルがドラマチックに展開していく。特にクライマックスに向かって声を張り上げる場面では、抑え込んできた感情が一気に噴き出すような迫力があり、聴き手の心を掴んで離さない。
「See You Again」「One Call Away」など、比較的希望や優しさを軸にした作品が多い中で、「Dangerously」は“壊れる寸前の愛”というテーマに真正面から向き合ったチャーリー・プースの“陰”の表現力が際立つ楽曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I loved you dangerously
More than the air that I breathe
Knew we would crash at the speed that we were going
君を“危険なほど”に愛していた
呼吸する空気よりも、深く
あのスピードで走っていたら、きっといつか壊れるって、最初からわかっていたのに
We were going way too fast
Love’s like a time bomb and we should have known it
僕たちはあまりにも速すぎた
愛はまるで時限爆弾みたいで
それに気づくべきだったんだ
You took me down, down, down, down
And kissed my lips with goodbye
君は僕を堕としていった
そして、別れのキスを僕の唇に落とした
引用元：Genius Lyrics – Charlie Puth “Dangerously”
一語一語が研ぎ澄まされており、“愛の終わり”というより“愛に焼かれた者の記憶”が刻まれている。比喩表現も鋭く、時間、スピード、爆弾など、壊れる運命にあるものが意図的に並べられているのが印象的である。
4. 歌詞の考察
「Dangerously」は、“愛しすぎること”が“壊れていくこと”と表裏一体であるという真理を突きつける楽曲である。
この曲の語り手は、別れを悔いているわけではない。むしろ“愛したことそのもの”を否定せず、それがどれほど危険で、そして美しかったかを噛みしめている。
愛がすべてだった。呼吸することよりも、理性よりも、何よりも強かった。
だがそれは同時に、自分という存在を崩壊させる引き金でもあった――という痛烈な認識が、曲全体に宿っている。
「I loved you dangerously」というラインは、誇りでもあり、傷でもある。愛に没頭しすぎて自分を見失った経験、それでもなお“あの瞬間は真実だった”と語る声には、成熟と未熟、確信と後悔が複雑に絡み合っている。
チャーリー・プースの歌声は、この曲において“声”ではなく“感情の震え”として響いてくる。クリーンで整った表現よりも、感情のひび割れや吐息のような声が際立ち、まるで“壊れていく過程”そのものを聴いているかのような感覚になる。
これはただの失恋ソングではない。
それは“危険なほどに誰かを愛したことがある人間”にしか歌えない、
ある種の“告白”であり、人生の一断面なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Jealous by Labrinth
愛によって理性を失う、自分の中の“危うさ”を描いたエモーショナルなバラード。 - Let It Go by James Bay
愛することと、手放すことの矛盾を静かに描いたソウルフルな名曲。 - Wrecking Ball by Miley Cyrus
“壊したくなかったのに壊してしまった関係”をテーマにした、心の叫び。 - In the Name of Love by Martin Garrix & Bebe Rexha
愛という名のもとに突き進む衝動と、感情の振幅を描いた現代的バラード。
6. “愛しすぎたことの代償”
「Dangerously」は、恋に落ちることの美しさと、落ちた先の“破滅”を同時に見せつけるような、赤裸々なラブソングである。
それは恋の始まりではなく、終わったあとにやってくる“喪失の残響”。
何もかもをかけて愛した――その確かさが、今となっては自分を苦しめている。
チャーリー・プースは、この曲で“声のすべて”を感情のために捧げている。
それは完璧なパフォーマンスではなく、不安定で、生々しくて、だからこそリアルだ。
「Dangerously」は、“恋が人をどこまで壊すか”を描いた、静かな名作である。
そして、それでも「愛してよかった」と思ってしまう自分を、そっと許すような歌でもあるのだ。
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