発売日: 1998年6月2日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ノイズポップ
The Jesus and Mary Chainの6作目にして、リリース当時は事実上のラストアルバムとなった『Munki』は、バンドのキャリアを締めくくるにふさわしい壮大かつ混沌とした作品である。1990年代を通してメンバー間の摩擦が深まり、リード兄弟の関係が破綻寸前にまで陥っていた中で生み出されたこのアルバムには、彼らの鬱屈した感情が色濃く反映されている。ブラーやオアシスなどブリットポップ全盛期の影響も垣間見られる一方で、彼らが本来持つノイズポップのエッジとポストパンクの冷徹さが存分に詰まっており、従来のファンにも新鮮さを感じさせる内容だ。
プロデューサーにはジムとウィリアム・リード兄弟が関わり、収録曲もそれぞれが主導する曲が散在している。そのため、アルバム全体は一貫性よりも変化に富んだ構成になっており、実験的で複雑なアレンジが随所に見られる。分裂と再生がテーマになっているかのように、激しいノイズの中に繊細なメロディが顔を出す瞬間も多く、カオスの中に美しさが漂う作品だ。『Munki』は、混乱の中にある一瞬の輝きを捉えたようなアルバムであり、彼らの音楽の原点と進化の両方が詰まっている。
トラック解説
1. I Love Rock ‘n’ Roll
軽快なリズムとシンプルなギターリフで幕を開ける楽曲。歌詞にはバンドの長年のキャリアへの誇りが込められているかのようで、明るいメロディの裏に微かな諦念も感じられる。軽やかなポップチューンでありながら、反抗心が透けて見える。
2. Birthday
ミドルテンポでメランコリックなムードを漂わせる一曲。バースデーというテーマに皮肉を込め、過去と現在の交錯を歌っている。ジムの憂いを帯びたボーカルが曲全体の哀愁を引き立て、ノイズが控えめながらも心に残る。
3. Stardust Remedy
荒々しいギターリフが印象的で、エネルギッシュなロックンロールに仕上がっている。歌詞には葛藤と解放が描かれており、疾走感のあるビートが聴き手を一気に引き込む。バンドの持つ鋭いエッジがよく表れている楽曲だ。
4. Fizzy
短くポップで軽やかなこのトラックは、気だるいボーカルとシンプルなメロディが特徴的。リズムとメロディの繰り返しが癖になる一方で、歌詞にはどこか虚しさが漂い、日常に潜む倦怠感を表現している。
5. Moe Tucker
タイトルが示すように、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのドラマーであるモー・タッカーへのオマージュが込められた一曲。シンプルなドラムとミニマルなギターサウンドが彼女のスタイルを彷彿とさせ、バンドのルーツと敬意が感じられる。
6. Perfume
ギターのフィードバックが心地よいリズムを生み出し、リード兄弟の冷めた視点が歌詞に反映されている。恋愛をテーマにしながらも、どこか距離を感じさせる冷淡なアプローチが魅力的な楽曲。
7. Virtually Unreal
エレクトロニックなビートが新鮮で、従来のノイズポップに新たな風を感じさせる一曲。歌詞には現実逃避の要素があり、デジタル感のあるサウンドがそれを一層引き立てている。新しい方向性を模索する姿が伺える。
8. Degenerate
不穏なイントロから始まり、重々しいギターが緊張感を生み出す楽曲。歌詞には人間の堕落や絶望が描かれ、ダークなサウンドが曲全体を支配している。鬱屈したムードが漂う、アルバム中でも特に内省的なナンバー。
9. Cracking Up
このアルバムのリードシングルで、キャッチーなメロディとヘビーなギターが絶妙に絡み合っている。自己崩壊と不安をテーマにした歌詞が印象的で、繰り返されるギターリフが中毒性を生む一曲。アルバム全体の中でも特にポップな一面が際立つ。
10. Commercial
シニカルなタイトルにふさわしく、歌詞には商業主義への皮肉が込められている。実験的でカオスなサウンドが特徴で、商業音楽への批判と自己破壊的な姿勢が反映されている。
11. Supertramp
暗く不穏なムードが漂う一曲で、ギターが低音で鳴り響き、リズムも控えめに抑えられている。孤独や疎外感がテーマとなっており、冷たいサウンドが心に染み入るような感覚を与える。
12. Never Understood
テンポの速いリズムとノイズが交錯し、聴き手に衝撃を与える楽曲。リード兄弟の葛藤が歌詞に反映され、荒削りなサウンドが曲のエネルギーを増幅させている。混乱と怒りが詰まった一曲だ。
13. I Can’t Find the Time for Times
スローテンポで進行するこの曲は、リード兄弟の苦悩と葛藤が投影されている。抑えたボーカルと静かなギターが切なさを感じさせ、長年のキャリアを振り返るような哀愁が漂う。
14. Man on the Moon
アルバムの締めくくりを飾るこの曲は、ゆったりとしたギターリフとメロディアスなボーカルが特徴。歌詞には別れと再生のテーマが感じられ、どこか壮大な余韻を残す。終わりとともに新たな始まりを予感させるような、深い余韻が残るエンディングだ。
アルバム総評
『Munki』は、The Jesus and Mary Chainが自己を再定義し、キャリアの終焉を迎えるなかで生まれた一作である。アルバム全体は、バンド内の葛藤や自己破壊的なエネルギーが色濃く表現され、混沌としたサウンドと静寂が入り交じる。このアルバムは、ノイズポップやオルタナティヴ・ロックの枠を超えて、多様な実験性を備えている。様々な曲調が一つのアルバムに収められ、バンドの変遷と複雑な内情が反映された作品であり、リード兄弟の持つ反抗心と美意識の両方が表現された、ある種の集大成である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
13 by Blur
オルタナティヴ・ロックにエクスペリメンタルな要素が加わり、バンド内の葛藤が表現された一作。『Munki』同様に暗いムードと実験性が際立っている。
The Holy Bible by Manic Street Preachers
鋭い社会批判と内省的な歌詞が詰まったアルバムで、鬱屈としたテーマが『Munki』に共通する。重苦しいサウンドと暗いリリックが特徴。
Ladies and Gentlemen We Are Floating in Space by Spiritualized
愛と失望をテーマにした一作で、ロックとアンビエントの融合が美しい。切なさや悲壮感が漂い、内省的なムードが『Munki』ファンに響くだろう。
Deserter’s Songs by Mercury Rev
ドラマティックなサウンドと詩的な歌詞が印象的なアルバムで、静かさと重厚さが共存している。『Munki』の持つ繊細さとカオスのバランスが共鳴する。
Mechanical Animals by Marilyn Manson
デジタルビートとギターサウンドが融合した実験的な作品で、商業主義への皮肉と自己破壊的なテーマが強調されている。『Munki』と同じく、反抗的なエネルギーに満ちている。
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