発売日: 1976年5月
ジャンル: カントリー・ロック、フォーク・ロック、ウェストコースト・ロック
概要
『Rose of Cimarron』は、Pocoが1976年に発表した通算8作目のスタジオ・アルバムであり、創設メンバーであるリッチー・フューレイ脱退後の新体制によって制作された最初の本格的スタジオ作でもある。
ポール・コットンとティモシー・B・シュミットを中心に据えたこの時期のPocoは、より洗練され、成熟したサウンドと抒情性を手に入れ、ポップ寄りのカントリー・ロックへと自然な進化を遂げた。
タイトル曲「Rose of Cimarron」は、アメリカ西部の伝説的な女性アウトローに着想を得た叙事詩であり、Pocoのキャリアを代表する楽曲のひとつとして知られている。
それまでのカントリー要素を残しながらも、オーケストラ風アレンジや叙情的な構成が加わり、物語性と音響美の両立を実現している。
本作は、“時代の波を捉えながらも、自己のサウンドを崩さずに歩んだバンドの気品”を体現する、静かに輝く一枚である。
全曲レビュー
1. Rose of Cimarron
アルバムの冒頭を飾る、9分におよぶドラマティックな大曲。
西部の伝説“シマロンの薔薇”を題材にしたこの曲は、女性アウトローの生き様と、彼女に魅了される男たちの視線を交錯させる叙情詩となっている。
シュミットの清らかなボーカル、幻想的なコード進行、クライマックスにかけての構成美はいずれも絶品。
Poco史上最も壮麗な名曲。
2. Company’s Comin’
ポール・コットン作による陽気なロッカ・ビリー調ナンバー。
“お客が来るぞ、準備しよう!”という歌詞に、アメリカ南部の家庭的な明るさがにじむ。
シンプルながら演奏にキレがあり、アルバムの緊張を緩める効果的な配置。
3. Slow Poke
ユーモラスなリズムとスライド・ギターが効いたミディアム・テンポの楽曲。
“のろま(Slow Poke)”と呼ばれる主人公の恋愛模様を、軽快かつユーモラスに描く。
カントリーの語法を活かしつつ、キャッチーなポップ感覚が光る。
4. Too Many Nights Too Long
アーバンで洗練された大人のバラード。
タイトルが示す通り、“長すぎた夜”の果てに待つ孤独と希望の交錯が描かれる。
ティモシー・シュミットのボーカルが極めてエモーショナルで、70年代後半のソフトロック的な感性も感じさせる一曲。
5. P.N.S. (When You Come Around)
本作の中ではやや異色のアップテンポ・ナンバー。
アメリカン・ロックとしての硬派な一面を見せながらも、コーラスとギター・ワークでPocoらしい軽やかさを忘れない。
アルバムにダイナミズムを加える中盤のアクセント的楽曲。
6. Tulsa Turnaround
オクラホマの街タルサを舞台にした、ロードムービー的な楽曲。
スライド・ギターとブルースフィーリングが香る演奏は、アメリカン・ミュージックのルーツを丁寧になぞる。
ポール・コットンの語り口が映える一編。
7. Fallin’ in Love
シュミットによる甘くメロウなラブ・バラード。
のちにイーグルスでの彼の活躍を予感させるような、リリカルかつポップなメロディラインが際立つ。
“恋に落ちる”瞬間の高揚と不安を見事に歌い上げている。
8. Rollin’ Down the Highway
アルバムのクロージングを飾る爽快なトラベル・ソング。
“高速道路を走る”という単純なテーマの中に、自由、逃避、そして再生のニュアンスが織り込まれている。
コーラスとギターがスピード感を増幅させ、最後までPocoらしい品の良さで締めくくられる。
総評
『Rose of Cimarron』は、Pocoがロックとカントリー、そして叙情と洗練の間を自由に行き来できるバンドであることを再確認させる傑作である。
フューレイ脱退後という転換期にありながら、ティモシー・シュミットとポール・コットンを軸にした新体制は極めて機能的であり、“継承と進化”を見事に両立している。
なかでも表題曲は、単なるバラードやカントリーロックの枠を超えた物語的作品であり、Pocoがいかに“音楽を通じてアメリカの精神史を描こうとしていたか”が明確に感じられる。
フォークロックやアメリカーナの文脈においても、再評価されるべきアルバムであり、1970年代ウェストコースト・サウンドのひとつの頂点と言えるだろう。
おすすめアルバム(5枚)
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America – Hideaway (1976)
同時代のウェストコースト・ポップの傑作。叙情性とアレンジの妙に共通点あり。 -
Eagles – One of These Nights (1975)
シュミットの後の参加先。『Fallin’ in Love』との音楽的共通性に注目。 -
Pure Prairie League – Bustin’ Out (1972)
カントリー・ロックとソフトロックの中間点を志向した姉妹的存在。 -
J.D. Souther – Black Rose (1976)
タイトルの共鳴もさることながら、Pocoに通じるリリシズムとアメリカーナ性がある。 -
Little River Band – Sleeper Catcher (1978)
洗練されたハーモニーとソフトロックの叙情が、Poco後期との共鳴を見せる。
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