発売日: 1975年6月
ジャンル: カントリーロック、ウェストコーストロック、ゴスペルロック
概要
『Oh, What a Mighty Time』は、New Riders of the Purple Sage(NRPS)が1975年に発表した6作目のスタジオ・アルバムであり、バンドのディスコグラフィの中でもひときわ異彩を放つ、開放感と宗教的情熱が交錯する作品である。
タイトルにある「Mighty Time(偉大なる時)」という表現は、ゴスペル的高揚感や霊的覚醒を意味しており、本作はカントリーロックの枠組みにとどまらず、ソウル、ファンク、ゴスペルといったアメリカン・ルーツ音楽の多彩な要素が色濃く取り入れられている。
本作のハイライトとして注目されるのは、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアとボブ・ウィア、さらにはスフィンクスのような存在感を持つスライ・ストーンのゲスト参加である。
とりわけスライは、彼らの持つ“自由と混沌の精神”を本作に注入し、NRPSのサウンドにまったく新しいグルーヴと精神性をもたらした。
全曲レビュー
1. Mighty Time
アルバムの幕開けを飾る、ゴスペル調の高揚感に満ちた表題曲。
コーラスが炸裂し、“今こそが偉大なる時だ”という宗教的ともいえるメッセージが込められている。
スライ・ストーンがキーボードとコーラスで参加し、ソウルフルな空気を強化。
2. I Heard You Been Layin’ My Old Lady
挑発的なタイトルが印象的な、ブルースベースのラフなナンバー。
浮気された男の嫉妬と皮肉を、軽快なグルーヴとともに描いており、NRPSのユーモアと人間臭さが凝縮されている。
3. Strangers on a Train
ウェスタン調の物語ソング。
偶然出会った他者との交差と、その先にある人生の選択が描かれる。
ペダル・スティールとギターの絡みが郷愁を誘う。
4. Up Against the Wall, Redneck Mother
レイ・ワイリー・ハバード作のカバーで、南部的マッチョ文化への皮肉が炸裂するアウトロー賛歌。
カントリーロックとしての骨太さと、風刺としての機能が共存する、痛快な一曲。
5. Take a Letter, Maria
オリジナルはR・B・グリアーヴスによるソウル・ヒットだが、NRPS流に大胆アレンジ。
オルガンとホーンが躍動し、ソウルとカントリーの越境が鮮やかに実現している。
職場の秘書にあてた“別れの手紙”という設定もユニーク。
6. Little Old Lady
軽やかなラグタイム調のナンバー。
老婆と若い音楽家の心の交流を描いたような、寓話的であたたかな楽曲。
演奏は簡素ながら、表情豊かで微笑ましい。
7. On Top of Old Smoky
アメリカ民謡の名曲を、NRPSのユーモアと遊び心で再構築。
テンポはやや早め、コーラスもコミカルに展開され、ライヴ感の強い一曲となっている。
8. Over and Over
繰り返し続ける愛と失望のサイクルを描いた、フォーク寄りのスロー・ナンバー。
静かだが力強いメッセージ性を秘め、ドーソンの内省的な側面が表れている。
9. La Bamba
リッチー・ヴァレンスのラテンロック名曲をカバー。
異色の選曲だが、祝祭感とNRPS流のアーシーな演奏が融合して、意外にもアルバム全体の文脈に溶け込んでいる。
ライヴでの盛り上がりを意識したアレンジ。
総評
『Oh, What a Mighty Time』は、New Riders of the Purple Sageが持つ“自由なるカントリー・ロック・スピリット”を、宗教的、ソウルフル、あるいはグルーヴィーな方向へ大胆に拡張した試みである。
バンドとしてのアイデンティティはしっかりと保たれつつも、ゲストの存在がアルバムに強い外部刺激を与え、結果として“越境するカントリーロック”という新しい地平を切り開いている。
派手なジャムや長尺のインプロヴィゼーションはなく、むしろタイトに構成された短い楽曲が並ぶが、それぞれが豊かな物語性とサウンドの多様性を宿している。
カントリーロックの枠を抜け出し、ゴスペルやR&B的な魂を得た本作は、NRPSの進化と柔軟性を如実に物語るアルバムといえるだろう。
おすすめアルバム(5枚)
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Little Feat – Feats Don’t Fail Me Now (1974)
ソウルやファンクとの融合という意味で強く共鳴。『Take a Letter, Maria』との相性抜群。 -
Grateful Dead – Blues for Allah (1975)
同時期の実験的アプローチを共有する“親バンド”の作品。精神性と音楽性の柔軟さが共通。 -
Commander Cody – Tales from the Ozone (1975)
ジャンル越境型カントリーロックの好例。『La Bamba』的祝祭性にも通じる。 -
The Band – Moondog Matinee (1973)
カバー中心の作品で、アメリカン・ルーツへの愛と遊び心がNRPSと共鳴。 -
Sly & the Family Stone – Small Talk (1974)
スライ参加の空気をより深く理解したいなら本作。グルーヴとスピリチュアルな空気が鍵。
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