
発売日:2020年1月17日
ジャンル:インディー・ポップ/シンセ・ポップ/アート・ポップ/ニューウェイヴ/エレクトロ・ポップ/サイケデリック・ポップ
概要
of MontrealのUR FUNは、Kevin Barnesが長年にわたって展開してきたサイケデリック・ポップ、グラム・ファンク、エレクトロ・ポップ、アート・ロック的な過剰さを、比較的コンパクトで明るいシンセ・ポップの形へ凝縮したアルバムである。2020年に発表された本作は、of Montrealの膨大なディスコグラフィーの中でも、特にポップで聴きやすい作品として位置づけられる。一方で、その明るい音の表面の下には、Kevin Barnes特有の自己演出、恋愛への没入、ジェンダー感覚、逃避願望、精神的な揺らぎが埋め込まれている。
of Montrealは、1990年代後半にElephant 6周辺のサイケデリック・インディー・ポップの文脈から登場した。初期作品ではThe Beatles、The Kinks、The Beach Boys、The Zombiesなどの影響を感じさせるカラフルなポップ・ソングが中心だったが、2000年代半ば以降、Kevin Barnesの音楽は大きく変化した。特に2007年のHissing Fauna, Are You the Destroyer?では、精神的崩壊、自己分裂、エレクトロ・ファンク、グラム・ロックを結びつけた強烈な作品を生み出し、of Montrealの評価を決定づけた。
その後のSkeletal Lamping、False Priest、Paralytic Stalksでは、曲構成はさらに複雑化し、性、政治、自己嫌悪、幻想、キャラクター性が過密に絡み合う作品が続いた。一方で、Lousy with Sylvianbriarでは60〜70年代ロック的なバンド・サウンドへ接近し、Aureate Gloomではグラム/ファンク/ロックの生々しい感触を押し出した。さらにWhite Is Relic/Irrealis Moodでは、長尺でクラブ・ミュージック的な構造を取り入れるなど、of Montrealは常に音楽的変化を繰り返してきた。
その流れの中でUR FUNは、ある意味で意図的に明るく、軽く、ポップな作品である。アルバム全体は1980年代のシンセ・ポップ、ニューウェイヴ、ダンス・ポップ、エレクトロ・ファンクの質感に強く寄っている。Prince、Cyndi Lauper、The Human League、Depeche Mode、Pet Shop Boys、Madonna、Duran Duran、Eurythmicsなどの80年代ポップ文化の影がありつつ、それらをKevin Barnes流の奇妙な言語感覚とクィアな自己演出で再構築している。
タイトルのUR FUNは、非常に軽く、SNS的で、短縮語的な響きを持つ。「You are fun」と読めるこのタイトルは、親密な相手へのメッセージのようでもあり、ポップ・カルチャーの表面に浮かぶ簡略化された言葉のようでもある。ここには、深刻な自己分析を一度ポップな仮面で覆うような感覚がある。of Montrealの音楽はしばしば、明るく踊れる音の中に、孤独や不安を混ぜ込む。本作でも、その構造は変わらない。
本作は、Kevin Barnesが当時の恋愛関係から強く影響を受けて制作した作品としても理解できる。曲の多くには、恋人への賛美、恋愛による高揚、相手といることで日常が変化する感覚がある。だが、それは素朴な幸福の記録ではない。Kevin Barnesの歌詞において、恋愛は常に自己変容、依存、幻想、演技、逃避と結びつく。誰かを愛することは、自分自身を別のキャラクターへ変えることでもあり、現実から一時的に離脱することでもある。
音楽的には、UR FUNはof Montrealの中でも曲が比較的短く、メロディが明快で、シンセサイザーのフックが分かりやすい。過去作のように、曲が突然別のパートへ分裂したり、複雑な構造を取りすぎたりすることは少ない。これはポップ化であると同時に、Kevin Barnesの過剰さを別の形で制御した作品でもある。歌詞は相変わらず密度が高いが、音楽はよりダイレクトに身体へ届く。
日本のリスナーにとって、UR FUNはof Montrealの入門作としても比較的聴きやすいアルバムである。Hissing FaunaやSkeletal Lampingの複雑さに圧倒される場合でも、本作のシンセ・ポップ的な明るさは入り口になりやすい。ただし、単なる80年代風ポップとして聴くと、その奥にある奇妙な感情の揺れを見逃すことになる。UR FUNは、楽しいアルバムであると同時に、「楽しくあろうとすること」の不安定さを描いた作品でもある。
全曲レビュー
1. Peace to All Freaks
「Peace to All Freaks」は、アルバムの冒頭を飾る楽曲であり、本作の明るく開かれた姿勢を象徴している。タイトルは「すべての変わり者たちに平和を」と訳せる。Kevin Barnesは長年、社会の規範から外れた存在、ジェンダーや欲望の境界を揺らす存在、自己演出を通じて別の自分を生きる存在を描いてきた。この曲は、そうした「freaks」への祝福として機能している。
音楽的には、シンセサイザーの鮮やかな響きと軽快なリズムが中心で、アルバム冒頭から非常にポップである。過去作にあった複雑な構成や不穏なファンク感は抑えられ、より直接的に明るいメロディが提示される。80年代ニューウェイヴ/シンセ・ポップの影響が強く、カラフルで親しみやすい。
歌詞のテーマは、周縁化された者たちへの連帯である。freakという言葉は、かつて侮蔑的にも使われてきたが、ポップ文化やロックの中では、むしろ自由な存在、規範に従わない者の称号にもなった。Kevin Barnesはこの曲で、その言葉を肯定的に使い、社会的な奇妙さを祝福している。
オープニング曲として「Peace to All Freaks」は非常に効果的である。UR FUNは個人的な恋愛アルバムであると同時に、規範から少し外れた者たちが自分の楽しさを取り戻すためのポップ・アルバムでもある。その姿勢が最初の曲で明確に示されている。
2. Polyaneurism
「Polyaneurism」は、非常にof Montrealらしい造語的なタイトルを持つ楽曲である。polyは複数性を、aneurismは動脈瘤を意味するaneurysmを連想させる。つまり、複数の精神的・感情的な膨張や危険な高まりを含んだ言葉として響く。明るいポップ・サウンドの中に、身体的で不穏なイメージが隠れている点がKevin Barnesらしい。
音楽的には、きらびやかなシンセ・ポップであり、メロディは非常にキャッチーである。リズムは軽く跳ね、ヴォーカルも滑らかに進む。しかし歌詞やタイトルには、幸福や恋愛の中で精神が過剰に膨張していくような危うさがある。音と意味のズレが、この曲の面白さである。
歌詞のテーマは、恋愛や欲望によって自分の内側が制御不能になる感覚として読める。感情が高まりすぎると、それは幸福であると同時に危険でもある。of Montrealの作品では、恋愛はしばしば精神的な変容を伴い、安定した自己を揺るがす。この曲も、その感覚をポップな形で描いている。
「Polyaneurism」は、UR FUNの中でも特にシンセ・ポップとしての完成度が高い曲である。楽しく踊れる音の中に、身体と精神の危うい比喩が潜む。of Montrealのポップな表面と奇妙な内面がよく結びついた楽曲である。
3. Get God’s Attention by Being an Atheist
「Get God’s Attention by Being an Atheist」は、タイトルだけで強い皮肉を持つ楽曲である。「無神論者になることで神の注意を引く」という言葉には、信仰、反抗、自己演出、逆説的な承認欲求が含まれている。Kevin Barnesらしい、宗教的な語彙とポップな挑発が組み合わされたタイトルである。
音楽的には、軽快なシンセ・ポップでありながら、歌詞の内容には知的なひねりがある。メロディは明るく、リズムもダンサブルだが、タイトルが示すように、曲の中心には神や存在への皮肉な問いがある。of Montrealは、深刻なテーマをしばしば軽い音で包み込むが、この曲はその典型である。
歌詞のテーマは、信仰と不信、そして見られたいという欲望である。神を信じないことによって神の注意を引くという逆説は、誰かに無関心を装うことで逆に見てほしいという人間関係にも通じる。ここには、宗教的な言葉を使った恋愛や自己認識の比喩がある。
「Get God’s Attention by Being an Atheist」は、UR FUNの中でも言葉遊びと思想的な皮肉が強い曲である。サウンドはポップだが、歌詞は単純ではない。Kevin Barnesの知的な悪戯心がよく表れている。
4. Gypsy That Remains
「Gypsy That Remains」は、タイトルに含まれる語の歴史的・文化的な問題性を含め、複雑な響きを持つ楽曲である。ここでは、定住しない存在、流浪する自己、どこにも完全には属さない感覚がテーマとして浮かび上がる。ただし、現代的には「Gypsy」という語はロマの人々へのステレオタイプや差別的含意を持つ場合があるため、タイトル自体に古いロマン化の感覚も含まれている。
音楽的には、本作のシンセ・ポップ路線の中でも、ややミステリアスな雰囲気を持つ。リズムは軽快だが、メロディには少し影がある。曲全体に漂うのは、自由と孤独が混ざった感覚である。of Montrealらしい演劇性も感じられる。
歌詞のテーマは、変わり続ける自己と、それでも残り続ける何かとして読める。タイトルの「that remains」は重要である。流浪し、変化し、さまざまな仮面を被っても、自分の中に消えずに残るものがある。この曲は、その残存する自己の感覚を扱っている。
「Gypsy That Remains」は、UR FUNの中で少し陰影を与える楽曲である。明るい恋愛の高揚だけではなく、どこにも根を下ろせない感覚がここにはある。of Montrealの作品に一貫するアイデンティティの流動性が感じられる。
5. You’ve Had Me Everywhere
「You’ve Had Me Everywhere」は、本作の中でも特に恋愛への没入が前面に出た楽曲である。タイトルは「君は僕をあらゆる場所に連れていった/あらゆる場所で僕を所有した」といったニュアンスを持つ。相手の存在によって、自分の世界が変化し、身体的にも精神的にも相手に巻き込まれていく感覚がある。
音楽的には、非常にポップで開放的である。シンセサイザーの明るい音色、覚えやすいメロディ、軽快なリズムが、恋愛の高揚感を作っている。Kevin Barnesのヴォーカルも比較的まっすぐで、過去作のような過剰な変装感はやや抑えられている。
歌詞のテーマは、恋人によって世界が拡張される感覚である。恋愛は人を別の場所へ連れていく。実際の旅である場合もあれば、精神的な移動である場合もある。この曲では、相手といることで自分の行動範囲、感情、自己像が変わっていく様子が描かれる。
「You’ve Had Me Everywhere」は、UR FUNの明るい中心にある曲である。of Montrealの恋愛表現としては比較的素直に聞こえるが、その中には相手に自分を大きく委ねる危うさもある。幸福と依存の境界が、ポップなメロディの中で揺れている。
6. Carmillas of Love
「Carmillas of Love」は、J. Sheridan Le Fanuの吸血鬼小説『Carmilla』を連想させるタイトルを持つ楽曲である。Carmillaは女性吸血鬼の象徴的存在であり、クィアな欲望、誘惑、夜、変身、危険な親密さと結びつく。of Montrealの美学に非常に適したイメージである。
音楽的には、やや妖しいシンセ・ポップとして響く。明るいアルバムの中でも、ここには少しゴシックで演劇的な色彩がある。メロディはポップだが、タイトルの影響もあり、曲全体に夜のロマンティシズムと危険な香りが漂う。
歌詞のテーマは、愛における吸血鬼的な関係として読める。恋愛は相手に生命力を与えることもあれば、逆に吸い取られることもある。Carmillaのイメージは、欲望が美しくも破壊的であることを示す。Kevin Barnesは、この吸血鬼的な比喩を、恋愛の中の魅惑と消耗へ結びつけている。
「Carmillas of Love」は、UR FUNの中でもof Montrealらしい文学的・クィア的な側面が強い曲である。80年代風の明るいシンセ・ポップの中に、ゴシックな誘惑の物語が入り込むことで、アルバムに奥行きが生まれている。
7. Don’t Let Me Die in America
「Don’t Let Me Die in America」は、本作の中でも特に社会的・政治的な響きを持つタイトルである。「アメリカで死なせないでくれ」という言葉には、個人的な恐怖と、国家や社会への深い不信が含まれている。of Montrealは個人的な恋愛や性のテーマを多く扱うが、社会への批判も常に作品の底にある。
音楽的には、明るくポップなサウンドを持ちながら、タイトルの重さによって強い違和感が生まれる。このズレが非常に重要である。楽しい音の中で、アメリカという場所への恐怖や嫌悪が語られることで、曲は単なるダンス・ポップではなくなる。
歌詞のテーマは、アメリカ社会の閉塞感、暴力、医療、政治、文化的疲弊への不安として読める。Kevin Barnesにとって、アメリカはポップ・カルチャーの源泉であると同時に、抑圧や不条理を感じる場所でもある。この曲は、その両義性を短いフレーズの中に凝縮している。
「Don’t Let Me Die in America」は、UR FUNの中で最も鋭い社会的視点を持つ曲の一つである。アルバム全体の恋愛的な高揚の中に、突然、現実の国家や社会の重さが差し込まれる。その不穏な効果が強い。
8. St. Sebastian
「St. Sebastian」は、キリスト教の聖人Sebastianをタイトルにした楽曲である。聖セバスティアヌスは矢で射られた殉教者として描かれ、美術史においては苦痛、美、エロティシズム、クィアな象徴性とも結びついてきた存在である。Kevin Barnesがこの題材を選ぶことは、非常に自然である。
音楽的には、シンセ・ポップの明るい枠組みを持ちながら、歌詞のイメージによって聖性と肉体性が重なる。曲には美しさと痛みの両方がある。of Montrealの音楽において、宗教的なイメージはしばしば性的・演劇的なイメージと混ざるが、この曲もその系譜にある。
歌詞のテーマは、苦痛を美へ変えること、または愛の中で傷つきながらも魅力を放つ存在として読める。聖セバスティアヌスの図像は、身体が傷つけられながらも美しく描かれる。その矛盾は、of Montrealの美学に深く通じる。痛みは単に苦痛であるだけでなく、自己演出や欲望の一部にもなる。
「St. Sebastian」は、本作の中で宗教、身体、クィアな美意識が交差する楽曲である。明るい音作りの中に、非常に古典的で重層的なイメージが置かれている点が興味深い。
9. Deliberate Self-Harm Ha Ha
「Deliberate Self-Harm Ha Ha」は、非常に不穏なタイトルを持つ楽曲である。自傷行為を意味する言葉に「Ha Ha」という笑いが続くことで、深刻な痛みと軽い冗談が衝突している。これはKevin Barnesの作品で繰り返し見られる、精神的危機をポップな仮面やユーモアで包む手法の一つである。
音楽的には、驚くほど明るく、軽快なシンセ・ポップとして響く。タイトルの重さとサウンドの明るさの差が大きいため、曲には強い不安定さがある。楽しい音楽の中で深刻なテーマが語られることで、笑いが防衛機制のように聞こえる。
歌詞のテーマは、自己破壊衝動と、それを茶化さなければ扱えない精神状態として読める。人は本当に苦しい時、冗談を使って自分の痛みを距離化することがある。この曲の「Ha Ha」は、単なる軽薄さではなく、痛みを正面から見られない人間の反射的な笑いとして機能している。
「Deliberate Self-Harm Ha Ha」は、UR FUNの中でも最も暗い主題を持ちながら、音楽的には非常にポップである。この矛盾が、of Montrealの本質をよく示している。楽しさは、時に痛みを隠すための装置でもある。
10. 20th Century Schizofriendic Revengoid-man
「20th Century Schizofriendic Revengoid-man」は、アルバムの最後を飾る楽曲であり、タイトルからしてKevin Barnesの言語感覚が爆発している。20世紀、schizo、friend、revenge、androidのような響きが混ざり合い、現代的な人格分裂、友情、復讐、機械的な自己像が連想される。終曲として、アルバムの明るいポップ性の奥にあった不安定な自己が再び顔を出す。
音楽的には、シンセ・ポップ的な明快さを保ちながら、タイトルにふさわしく少し奇妙で複雑な印象がある。アルバム全体の中では、よりof Montrealらしい過剰な言語遊びと自己演出が戻ってくる曲でもある。明るいだけでは終わらないところが重要である。
歌詞のテーマは、20世紀的なポップ文化の残骸と、21世紀的な自己分裂の間にいる人物像として読める。friendでありながらrevengeを含み、humanでありながらandroid的でもある。その混成的な自己像は、Kevin Barnesのキャリア全体を象徴するようでもある。
終曲としてこの曲は、UR FUNが単純な幸福のアルバムではないことを最後に確認させる。楽しく、カラフルで、恋愛に満ちた作品でありながら、その根底には分裂した自己、奇妙な言葉、時代への違和感がある。of Montrealらしい不穏な余韻を残す締めくくりである。
総評
UR FUNは、of Montrealの中でも非常にポップで、明るく、コンパクトなアルバムである。1980年代シンセ・ポップ/ニューウェイヴへの愛情がはっきりと表れており、メロディは分かりやすく、曲の構成も比較的整理されている。過去のof Montrealに見られた過剰な曲展開や難解なアート・ポップ性は抑えられ、アルバム全体が軽やかに流れる。
しかし、この聴きやすさを単純な簡略化と捉えるべきではない。UR FUNは、Kevin Barnesが自分の過剰な表現を、あえてシンセ・ポップの明るい器へ流し込んだ作品である。サウンドは楽しげだが、歌詞には相変わらず不安、自己演出、宗教的皮肉、クィアな欲望、社会への嫌悪、自己破壊衝動が含まれている。つまり本作の「fun」は、無邪気な楽しさではなく、痛みを抱えながら楽しくあろうとする意志である。
アルバムの前半は、恋愛による高揚と自己変容が中心にある。「Peace to All Freaks」では周縁的な存在への祝福が歌われ、「Polyaneurism」では感情の危うい膨張が描かれ、「You’ve Had Me Everywhere」では相手によって世界が広がる感覚が示される。ここには、恋愛が人生を明るく変えてくれるという非常にポップな感覚がある。
一方で、中盤から後半には、その明るさの裏側が見えてくる。「Don’t Let Me Die in America」では社会への不安が差し込まれ、「St. Sebastian」では美と痛みが重なり、「Deliberate Self-Harm Ha Ha」では自己破壊を笑いで処理する危うさが現れる。終曲「20th Century Schizofriendic Revengoid-man」では、Kevin Barnesらしい分裂的な自己像が再び表に出る。つまりアルバムは、明るい恋愛ポップとして始まりながら、最終的にはいつものof Montreal的な不安定さへ戻っていく。
音楽的には、80年代ポップの影響が非常に重要である。シンセサイザーの音色、リズムの軽さ、メロディの明快さ、短い曲構成は、過去のof Montreal作品よりも大衆的である。だが、Kevin Barnesは単に80年代を懐古しているのではない。80年代的な明るい人工性を使うことで、現代の不安や恋愛の演技性を表現している。シンセ・ポップのプラスチックな質感は、ここでは感情を隠す仮面でもある。
本作の弱点を挙げるなら、Hissing FaunaやSkeletal Lampingのような劇的な深度や構成の異常さを求めるリスナーには、やや軽く聞こえる可能性がある。曲がコンパクトで、サウンドも明るいため、過去作にあった圧倒的な崩壊感は薄い。しかし、その軽さは意図的なものであり、本作のコンセプトと合っている。ここでは崩壊をそのまま見せるのではなく、楽しさの中に隠している。
Kevin Barnesのヴォーカルも、本作では比較的軽やかで、ポップな表情が強い。過去作にあったキャラクターの過剰な変身や演劇的な暴走は控えめだが、言葉の選び方には相変わらず強い個性がある。タイトルだけを見ても、「Polyaneurism」「Get God’s Attention by Being an Atheist」「Deliberate Self-Harm Ha Ha」「20th Century Schizofriendic Revengoid-man」など、通常のポップ・アルバムでは考えにくい奇妙な言語感覚が並ぶ。この言語の奇妙さが、明るい音楽に裂け目を作っている。
日本のリスナーにとって、UR FUNはof Montrealを知る入口として機能しやすい作品である。シンセ・ポップとして聴きやすく、曲も短いため、アルバム全体を通して楽しみやすい。一方で、歌詞やタイトルに目を向けると、Kevin Barnesの複雑な作家性が見えてくる。ポップな表面から入り、そこからof Montrealのより過剰な作品へ進むための橋渡しとしても有効である。
UR FUNは、of Montrealが「楽しさ」を正面から扱ったアルバムである。しかし、その楽しさは簡単な幸福ではない。恋愛によって救われる瞬間、社会から外れた者たちへの祝福、80年代ポップへの愛、同時に自己破壊や国家への不安、宗教的皮肉、分裂した自己。これらが一枚の中で共存している。だからこそ、本作は軽いようでいて、of Montrealらしい奇妙な深みを持つ。明るいネオンの下で、自分の影を笑いながら踊るようなアルバムである。
おすすめアルバム
1. of Montreal『Hissing Fauna, Are You the Destroyer?』
2007年発表の代表作。精神的崩壊、自己分裂、エレクトロ・ファンク、グラム・ポップが圧倒的な密度で結びついたアルバムである。UR FUNの明るいシンセ・ポップの背後にあるKevin Barnesの核心的なテーマを理解するうえで欠かせない。
2. of Montreal『Skeletal Lamping』
2008年発表のアルバム。キャラクターの変身、断片的な曲構成、性的・演劇的なイメージが過剰に展開される作品である。UR FUNよりはるかに複雑だが、Kevin Barnesのクィアな自己演出とポップの関係を深く味わえる。
3. of Montreal『White Is Relic/Irrealis Mood』
2018年発表のアルバム。長尺のクラブ・ミュージック的構成と、エレクトロ・ポップ、サイケデリックな感覚が結びついた作品である。UR FUNの直前に位置し、Kevin Barnesが電子的な音楽へどのように接近していたかを知ることができる。
4. Prince『1999』
1982年発表の名盤。ファンク、シンセ・ポップ、ロック、性的な自己演出を融合させた作品であり、Kevin Barnesの音楽に大きな影響を感じさせる。UR FUNのカラフルなエレクトロ・ファンク感覚を理解するうえで重要な参照点である。
5. Pet Shop Boys『Actually』
1987年発表のシンセ・ポップ名盤。明るく洗練された電子ポップの中に、皮肉、孤独、社会批評、クィアな感性を織り込んだ作品である。UR FUNのポップな表面と知的な裏側の関係に惹かれるリスナーに適している。

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