発売日: 1969年11月**
ジャンル: アコースティック・ロック、フォークロック、ブルースロック
町と田舎のあいだで——ロックの喧騒を忘れた、もうひとつのHumble Pieの顔
『Town and Country』は、英国のロックバンドHumble Pieが1969年に発表したセカンド・アルバムであり、
前作のブルージーなハードロック色とは打って変わって、アコースティック中心のフォーキーな世界観に包まれた異色作である。
本作のタイトルが象徴するように、内容はまさに“都会的洗練”と“田舎の素朴さ”の中間に位置し、
バンドがまだ自身の方向性を模索していた時期ならではの柔らかく、開かれた音楽性が表れている。
スティーヴ・マリオットの熱量は一旦トーンダウンし、
ピーター・フランプトンの繊細なソングライティングがより前景化しているのも本作の特徴で、
彼らの中に潜む“英国的叙情”や“内省”が素直に表出した、静かなる名盤とも言える。
全曲レビュー
1. Take Me Back
アコースティックギターの優しい響きとともに、穏やかに幕を開ける。
“かつての場所”への郷愁と後悔が滲む、美しいイントロダクション。
2. The Sad Bag of Shaky Jake
唯一、ブルージーでグルーヴィなマリオット節が炸裂するアップテンポ曲。
軽妙なビートに乗せて、“揺れるジェイクの悲しい袋”という謎めいたユーモアが光る。
3. The Light of Love
フランプトンのペンによる、静かなフォーク・バラード。
“愛の光”を求める青年の純粋な感性が素朴なメロディに託されている。
4. Cold Lady
ピアノとブラスが軽快に絡む、ソウル風のナンバー。
他の楽曲と違い、ややR&B色が強く、バンドの振れ幅の広さを感じさせる。
5. Down Home Again
ゆったりとしたテンポで、田舎の風景を思わせる郷愁的な一曲。
“家に帰りたい”という直球の感情を包み込む優しいアレンジが印象的。
6. Every Mother’s Son
本作の中核とも言える、叙情的で力強いバラード。
マリオットの情熱的なヴォーカルと、フランプトンの清涼なギターが交差する、
二人の個性が最も美しく響き合った名演。
7. Heartbeat
Buddy Hollyのカバーで、ロカビリー的軽快さとフォーキーな解釈が融合。
過去へのリスペクトを現代的感覚で再解釈した好例。
8. Only You Can See
ピーター・フランプトンが完全に主導した、内省的で繊細なバラード。
若き日の不安、孤独、信頼を、極めてシンプルな言葉とメロディで紡ぎ出す。
9. Silver Tongue
ミドルテンポのブルースナンバー。
マリオットのしゃがれた声が生々しく、抑えた激情が潜む一曲。
10. Home and Away
フランプトンによる締めくくりのトラック。
“家と遠くの地”という対比が、アルバム全体のテーマと呼応しつつ幕を下ろす。
どこかビートルズ的なメロディセンスも感じられる佳曲。
総評
『Town and Country』は、Humble Pieというバンドの持つ“剥き出しのロック魂”ではなく、“包み込むような静謐さ”に光を当てた作品である。
前作『As Safe as Yesterday Is』の延長にあるようでいて、
実際には全く異なる音楽的方向性を提示しており、彼らがいかに多面的な音楽集団であったかを証明する一枚となった。
フォークやブルースに根差しつつ、イギリス的憂愁と繊細なポップセンスが絶妙に交錯する構成は、
のちのPeter Framptonのソロキャリアにも通じる要素を数多く含んでいる。
商業的には大きな成功を収めた作品ではないが、
“町と田舎”、“喧騒と静けさ”、“ロックとバラード”の狭間で揺れるこのアルバムこそ、彼らの実験的誠実さを物語っている。
おすすめアルバム
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Traffic – John Barleycorn Must Die
英国的フォークとロックの融合。『Town and Country』と精神性が近い。 -
Nick Drake – Five Leaves Left
同時代の繊細なアコースティック・ポップの代表作。 -
The Beatles – Rubber Soul
アコースティックと内省性が増した中期ビートルズ。雰囲気がよく似ている。 -
Free – Free
ハードロック前夜のしなやかなブルース感が、本作と通じる部分が多い。 -
Peter Frampton – Wind of Change
本作で垣間見えたフランプトンの美学が開花するソロデビュー作。
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