発売日: 1970年7月3日
ジャンル: ハードロック、ブルースロック、アメリカーナ、カントリーロック
内燃するロックンロール——“謙虚なパイ”が本性を現し始めた瞬間
セルフタイトルを冠した『Humble Pie』は、バンドにとって3作目のスタジオ・アルバムにあたる。
これまでのアコースティック中心のフォーク的アプローチから脱却し、よりソリッドでダークなブルースロックへとシフトした重要な転換点である。
ここでのHumble Pieは、すでに“謙虚”ではない。
むしろマリオットとフランプトン、ふたりの個性が真正面からぶつかり合い、
抑えきれないエネルギーがひび割れたアンプのように噴き出している。
アメリカのサザンロックやカントリーロックからの影響も色濃く、
“UKバンドによるアメリカーナの再解釈”という独特のサウンドが聴ける。
このアルバムを境に、彼らはライヴバンドとしての評価を高め、
後の爆音グルーヴ時代への準備が整っていく。
全曲レビュー
1. Live with Me
スローでヘヴィなブルースロック。
マリオットのソウルフルなヴォーカルと分厚いギターリフが印象的で、
バンドの“重い音”への傾倒が明確になった一曲。
2. Only a Roach
フランプトンによるアコースティック主導のナンバー。
「吸ってばかりの生活」を皮肉まじりに描いた、脱力系カントリースタイルの曲で、
サウンドは軽いが社会性の匂いが漂う。
3. One-Eyed Trouser-Snake Rumba
なんともマリオットらしい、下ネタ混じりのブギーナンバー。
ワウギターが躍る中、ユーモアと熱狂が一体となる。
ライヴで映えるであろう爆発力。
4. Earth and Water Song
フランプトン作のバラード。
“自然”と“精神”をテーマにした繊細な詞世界と透明感のあるサウンドが際立ち、
アルバムの中で最も内省的かつ美しい一曲。
5. I’m Ready
ウィリー・ディクソンのブルースナンバーを骨太なアレンジでカバー。
スライドギターと泥臭いヴォーカルが絡む、骨太なブルース・リスペクト。
6. Theme from Skint (See You Later Liquidator)
インストゥルメンタルを中心とした実験的な構成。
アシッドロック的な浮遊感とセッション感覚が交錯する中盤の山場。
7. Red Light Mamma, Red Hot!
アップテンポのロックンロール。
タイトなリズムとシャウトの応酬で、シンプルながら問答無用のエネルギーを放つ。
8. Sucking on the Sweet Vine
エンディングにふさわしい、フランプトン作の叙情的ナンバー。
渋みのあるメロディと落ち着いた演奏が、アルバムの“夜明け”を感じさせる締めくくりとなっている。
総評
『Humble Pie』は、バンドがついに“方向性”という名前のエンジンに点火した瞬間である。
それまでのフォーク的で慎重なアプローチをかなぐり捨て、
ここではブルース、ロックンロール、カントリー、アメリカーナが混在しながらも、強烈な個性として結実していく。
マリオットのワイルドさとフランプトンの繊細さ。
一見対照的なそれらが、破壊と抒情、激情と微笑のあいだでせめぎ合う音像が非常に刺激的だ。
これが、後の『Rock On』や『Performance: Rockin’ the Fillmore』に続く
爆音グルーヴ路線への橋渡しとなったのは間違いない。
おすすめアルバム
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The Faces – A Nod Is as Good as a Wink…
英国的なガレージ魂とブルースの雑多な融合。マリオット好きにもおすすめ。 -
The Rolling Stones – Sticky Fingers
アメリカーナとロックのミックスという意味で、Humble Pieと通じる傑作。 -
Led Zeppelin – III
アコースティックとハードロックの緩急が特徴。Humble Pie的センスを持つ一枚。 -
Peter Frampton – Frampton’s Camel
この頃のフランプトンの繊細さが発展したソロ作。『Earth and Water Song』が好きなら必聴。 -
Little Feat – Sailin’ Shoes
ブルース、スワンプ、ロックのクロスオーバー。サウンドの質感がHumble Pieに近い。
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