1. 歌詞の概要
「Cosmonaut」は、At the Drive-Inのサード・アルバム『Relationship of Command』(2000年)に収録された楽曲であり、アルバム後半に炸裂する最もカオティックかつ加速的な一撃である。
タイトルの「Cosmonaut(宇宙飛行士)」は、物理的な宇宙というよりも、現実からの隔絶・精神の飛翔・身体と意識の解体といったメタファーとして機能している。
この楽曲で描かれているのは、激情的な破壊衝動と陶酔、死と再生、そして“意志の爆発”によってすべてを焼き尽くす瞬間の美学である。
歌詞の冒頭から“今すぐ結婚しよう”という衝動的なフレーズが飛び出すこの曲は、ただのラブソングでは決してない。
むしろ、「生の極限で結びつこうとする二つの意識」のような、爆発的で不穏なロマンスの形が描かれている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Cosmonaut」は、Cedric Bixler-Zavala(セドリック・ビクスラー=ザヴァラ)が当時語っていたように、「死ぬほど激しく生きること」と「永続的な破壊衝動」が交錯する瞬間を描いている。
それは恋愛感情というより、“衝動としての結合”=精神的・肉体的な瞬間の燃焼に近く、愛と暴力、死と創造、沈黙と叫びが混在する非二元的な関係性を言語化しようとする試みである。
またこの曲の構成は、At the Drive-Inの中でも際立って躁的かつ不安定なグルーヴと寸断的なギターリフで特徴づけられており、サウンド自体が“内的混乱と興奮”の縮図として機能している。
ライブではファンの間でも常にハイライトの一つとされており、その暴発的エネルギーは観客をも巻き込み、音楽と身体が一体化する“瞬間芸術”として成立する曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に印象的な詩句を抜粋し、和訳を添える。
Let’s meet at the fountain / Shock your spine / Let’s be married tonight
噴水で会おう 君の背骨に衝撃を 今夜、結婚しようIt’s not safe, it’s not safe, it’s not safe, it’s not safe
安全なんかじゃない 何度だって言う ここは安全じゃないWe’d amputate at inception / Siphoning the fondness in your tone
初めから切り落とそう 君の声にある愛情の音色を吸い取るようにI pledge allegiance to a myriad of insecurities
無数の不安に忠誠を誓う
出典:Genius.com – At the Drive-In – Cosmonaut
冒頭の「Let’s be married tonight」は、婚姻そのものではなく、魂と魂が一瞬で融合するような破滅的な契りを指しているように思える。
“安全ではない”という言葉の繰り返しは、この関係性や行為が理性や常識を逸脱していることを明確に伝え、同時にそこにこそ自由や快楽が存在するという矛盾的肯定を含んでいる。
4. 歌詞の考察
「Cosmonaut」の詞には、**一貫して“衝動の純粋性”と“暴力としての結合”**が流れている。
「君の声にある愛情を吸い取る」という表現や、「初めから切り落とす(amputate at inception)」というフレーズには、**人間関係の本質に潜む“破壊の予感”**が描かれている。
つまり、人と人が深く繋がることは、時として“失うこと”や“自壊”と不可分であるという暗喩でもある。
「無数の不安に忠誠を誓う」というフレーズは、完全な自己を信じるのではなく、不完全さや脆さを抱えたまま突き進むことの宣言でもある。
また、曲のサウンド自体がリリックの精神性をなぞるように、速度と強度が断続的に変化する構造を持ち、聴く者に「揺さぶられる」という体感を与える。
整っていないこと=真実に近いことというAt the Drive-Inの美学が、まさにこの曲に凝縮されている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Enfilade by At the Drive-In
交信と断絶、悪夢と政治のメタファーが交差する奇怪なロック詩劇。 - Love Rhymes with Hideous Car Wreck by The Blood Brothers
感情の破片をかき集めて構築された、激情のポスト・ハードコア。 - Cut That City by The Mars Volta
Cosmonautの“その後”のような混沌。抽象性と神話性を強化した進化系。 - Sugar by System of a Down
衝動と批評が同時に襲いかかる、ミレニアム前夜の不安の結晶。
6. 魂を燃やす“宇宙飛行” ― 意識の離脱と破壊的ロマンス
「Cosmonaut」は、At the Drive-Inが持つ“言葉の爆弾性”と“音の暴動性”を最も大胆に交差させた曲の一つである。
それは、愛についての曲でもある。だがその愛は、祝福でも永遠でもなく、**「一夜で燃え尽きる流星のような、自己犠牲的融合」**を意味している。
恋愛や信頼といった概念すらも粉々にして、その破片を無理やり接続しようとするような、美しくも暴力的な詩的建築物。
「Cosmonaut」は、
この世界に存在するすべての“危険な関係性”のためのアンセムであり、
衝動的に生き、瞬間で結び、全力で壊れていくことの肯定である。
この宇宙を突き抜ける旅の果てに待つのは、救いか、消滅か。
そのどちらであれ、音が鳴っているうちは、生はまだ燃えているのだ。
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