Wango Tango by Ted Nugent(1980)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

「Wango Tango(ワンゴ・タンゴ)」は、テッド・ニュージェント(Ted Nugent)が1980年にリリースしたアルバム『Scream Dream』に収録されたシングルであり、その挑発的でコミカル、そして過剰なまでにアニマルなロックンロール精神を体現した代表作である。この楽曲は、ニュージェントのキャリアの中でも特にユニークな位置を占めており、セクシュアルな暗喩、突き抜けたテンション、リズムの跳躍感がすべて一体となった**“野生のカーニバル”のようなロック・ショウ**として語り継がれている。

“Wango”も“Tango”も、ダンスを連想させる言葉だが、本曲で描かれているのは**理性を超えて欲望に従う“衝動のダンス”**であり、そこにはもはや振付もルールも存在しない。歌詞の内容はあからさまにセクシャルで、リズムと語感の面白さを最優先した語り口調で展開される。語り手はまるでロック界の野獣そのものであり、音楽を通じて“身体で考える”という感覚の肯定が、この一曲に込められているのだ。

2. 歌詞のバックグラウンド

1980年という時代は、ハードロックが80年代型メタルへと進化する過渡期にあり、ポップ性やエンタメ性がより重視され始めていた。そんな中で、テッド・ニュージェントはこの「Wango Tango」で、“マッチョで過激なアメリカン・ロック”の極北的パロディとも言える演出を押し出した。彼の真骨頂であるギターリフはもちろん、MCのように語りながら叫ぶヴォーカル、突然のテンポチェンジ、観客に直接語りかけるような歌詞構成など、一曲の中で“ロック・コンサート”そのものが展開されているかのようだ。

本曲のユーモラスで奔放なスタイルは、当時の批評家には賛否両論を呼んだが、ファンからは絶大な支持を集め、後年までライブの定番曲として演奏され続けている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Well, it’s a little bit of wango, it’s a little bit of tango
そう、これはちょっと“ワンゴ”、ちょっと“タンゴ”

It’s a little bit of magic, it’s a lot of bit of fun
ちょっとした魔法で、かなり楽しいヤツさ

You do the Wango Tango!
“ワンゴ・タンゴ”をキメるんだ!

I like it, I like it, I like it, I like it
俺は好きだ、ホントに好きなんだよ

It’s a little bit evil, it’s a lot of bit wild
少しだけワルくて、かなりヤバいやつ

It’s the Wango Tango!
そうさ、これが“ワンゴ・タンゴ”だ!

(参照元:Lyrics.com – Wango Tango)

反復と語感のリズムが重要なこの歌詞は、内容そのものよりも口に出すことの快楽が優先されており、“意味を理解する前に踊り出してしまう”ような衝動性がある。

4. 歌詞の考察

「Wango Tango」の歌詞は、徹頭徹尾ナンセンスである――だが、そこにこそ意味がある。テッド・ニュージェントはこの曲で、意味に縛られたロック、深刻さを装った芸術性からの脱却を狙っている。彼にとって音楽とは、言葉や概念に頼るものではなく、**肉体と衝動によって成立する“儀式”**であり、「Wango Tango」はその最たる例である。

曲中で彼は、「Wango!」「Tango!」と叫びながら、聴き手に自分自身の中にある野性を呼び覚まそうとする。あえて知性を手放し、感覚に身を委ねることでしか味わえない快楽がここにある。それは一見“低俗”にも思えるが、逆に言えば、ロックが持っていた“身体性”という最も根源的な価値を回復する試みとも受け取れるのだ。

この楽曲に込められた“楽しさ”は、単なるお祭り騒ぎではない。それは、自己解放とエネルギーの発散、そして何よりも観客との一体感を生み出すための純粋な仕掛けなのである。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Panama by Van Halen
     官能的でスピード感あふれるギターと、陽気なセクシュアリティが炸裂するアメリカン・ハードロック。
  • Talk Dirty to Me by Poison
     ロックとセックスを茶化すようにミックスした、グラムメタル的快楽主義ソング。
  • Cherry Pie by Warrant
     象徴的な女性像と甘美なメロディを融合させた、80年代セクシュアル・アンセム。
  • You Give Love a Bad Name by Bon Jovi
     劇的なリフと感情の高ぶりが交差する、観客参加型のハードロック定番曲。

6. “身体で理解するロック”という祝祭

「Wango Tango」は、知的な分析よりも**“踊りたくなるかどうか”でその価値が決まるタイプの音楽**であり、テッド・ニュージェントの真髄がもっとも分かりやすく、誇張され、形になった作品と言える。

この曲にはロックの真面目さも深さもない。しかし、その**“軽さ”と“ふざけた真剣さ”**こそが、80年代以降のロックの方向性を決定づける一つの潮流となった。派手で馬鹿げていて、でも本気でカッコいい。そんなロックンロールの“舞踏”を、この一曲は完璧に体現している。

「Wango Tango」とは、“やるかやられるか”のロックンロールの戦場で、理性を脱ぎ捨てて踊り出す者たちの合言葉なのだ。そしてその合言葉を、今夜もまた誰かが叫ぶ――ステージの上で、フロアの中で、あるいは自分の部屋のスピーカーの前で。ロックの衝動はいつだって、「Wango!」の叫びとともに始まるのである。

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