Love of the Common Man by Todd Rundgren(1976)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Love of the Common Man(ラヴ・オブ・ザ・コモン・マン)」は、トッド・ラングレン(Todd Rundgren)が1976年に発表したアルバム『Faithful』の冒頭に収録された楽曲であり、**政治的でも宗教的でもない、静かな信念に満ちた“人間賛歌”**として位置づけられる作品である。

タイトルの「Common Man(普通の人)」が象徴するように、この曲は特別な英雄ではなく、日々を淡々と生きる人々の心のなかにこそ“本物の愛”があるという主張を、シンプルかつ力強く伝えている。抑圧や不安に満ちた時代にあって、信じるべきものは何か? 答えは政治的指導者でも救世主でもなく、「普通の人々の愛」なのだという、根源的な優しさと理想主義が貫かれた歌詞である。

トーンはきわめて穏やかで、メッセージ性はありながらも押しつけがましさはない。その分、聴く者自身の経験や想像力に寄り添う余白を多く残しており、時代や文脈を超えて響き続ける強さを備えている。

2. 歌詞のバックグラウンド

『Faithful』は、アルバムのA面が1960年代の名曲カバー(ビートルズ、ザ・ビーチ・ボーイズ、ジミ・ヘンドリックスなど)、B面がラングレンのオリジナル楽曲という構成になっており、その中でも「Love of the Common Man」はB面の冒頭を飾る重要な曲である。

この楽曲は1976年というアメリカがベトナム戦争後の混乱とニクソン辞任の傷跡から立ち直ろうとしていた時代に書かれた。信じるべき対象が見つけにくくなった中で、ラングレンはあえて“普通の人々の愛”という、小さくとも確かなものへの信頼を提示した。

音楽的には、スムーズで軽やかなギター・ワークと、ジェントルなメロディラインが印象的で、ポップとフォーク、ソウルの要素をブレンドした独自のトッド・ポップが確立された瞬間でもある。後のAORやインディ・ポップにも通じるような、洗練されたサウンドだ。

3. 歌詞の抜粋と和訳

I’ve been burned in my prime
若いうちに痛い目に遭ったよ

The simple things in life seem so hard to learn sometimes
当たり前のことが、時に一番難しく感じる

And it takes so long
しかも、それを理解するのにすごく時間がかかるんだ

And the streets turn cold and lonely
街は冷たく、孤独に満ちていて

And the nights get so long
夜がどこまでも長くなる

And you don’t even know what you feel anymore
自分の気持ちさえ分からなくなることもある

But you know that it’s right
それでも、心のどこかでは正しいと感じてる

You finally found what you were looking for
長いこと探し続けていた“何か”を、やっと見つけた気がするんだ

The love of the common man
それは、“普通の人の愛”なんだ

(参照元:Lyrics.com – Love of the Common Man)

ここには、苦悩と迷いを経た先でこそ出会える、小さな希望と人間性への信頼が織り込まれている。

4. 歌詞の考察

この楽曲の真髄は、“普通の人の愛”という言葉が持つ逆説的な力強さにある。私たちはしばしば、社会を変えるのは英雄やリーダーであると信じがちだが、この曲はそうではなく、日々のなかで交わされる些細な優しさこそが、社会や心を救っていくのだと語っている

歌詞中にある「the streets turn cold and lonely」「you don’t even know what you feel anymore」といったフレーズは、現代人が抱える無気力や疎外感、感情の希薄さを端的に描いている。だが、その先にある「you finally found what you were looking for」というラインは、救いは遠いどこかにあるのではなく、自分の足元にあるという気づきを象徴している。

ラングレンは決して大声で叫ばない。ただ、穏やかな語り口で、人生の混沌のなかにある“人としてのやさしさ”をすくい上げる。それがこの曲の力であり、どれだけ世界が荒れても、人の中には光があるというラングレンの信念がここには息づいている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Peace Train by Cat Stevens
     内面の平和から世界の平和へと願いを広げていく、希望に満ちたフォーク・ロック。

  • Give a Little Bit by Supertramp
     少しの思いやりが世界を変えるというシンプルなメッセージを込めた、永遠の名曲。
  • Lean on Me by Bill Withers
     支え合うことの美しさを、静かに力強く歌い上げるソウル・スタンダード。

  • Teach Your Children by Crosby, Stills, Nash & Young
     世代間の愛と理解を促す、優しさに満ちたアメリカン・フォークの象徴。

  • Love the One You’re With by Stephen Stills
     理想に囚われず、今そばにいる人を大切にするという愛の現実主義。

6. “英雄ではなく、となりの誰かを信じる歌”

「Love of the Common Man」は、70年代の混沌としたアメリカ社会において、“信じられるものは何か”を静かに問いかけた曲であり、そしてその答えとして、“英雄でも神でもなく、となりにいる人の愛”を差し出した。

トッド・ラングレンはこの曲で、政治的プロテストや宗教的啓示ではなく、人間のなかにある善意や温もりを“革命”として提示してみせた。そしてそれは、今も私たちに通じるメッセージである。

日常の中で誰かにかける言葉、差し伸べる手、目を見て微笑むこと――それこそが、「愛」なのだと。世界のなかで何も変えられないように思える日でも、この曲が流れるだけで、少し世界があたたかくなるような気がする。

それが、「Love of the Common Man」が今も静かに生き続ける理由なのである。

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