Fred Bear by Ted Nugent(1995)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Fred Bear(フレッド・ベア)」は、テッド・ニュージェントTed Nugent)が1995年にリリースしたアルバム『Spirit of the Wild』に収録された楽曲であり、それまでの彼のイメージ――鋭利なギターリフ、攻撃的なマチズモ、ユーモラスなセクシャリティ――とは一線を画す、深い敬意と祈りに満ちたトリビュート・ソングである。

タイトルにもなっている“Fred Bear”とは、実在した人物。20世紀アメリカの伝説的なボウハンターであり、アーチェリー界に多大な貢献をしたアウトドアの象徴的人物である。ニュージェントは彼を“精神的な父”とも呼び、ハンティングを通じた自然との関係性や精神性において深く影響を受けてきた。

この曲は、彼の死(1988年)を悼みつつ、その精神を受け継ぎ、自然の中での祈りや再生を体感する瞬間の荘厳さを、詩的かつ情熱的に描き出している。ロック・ソングでありながら、リリックは静謐で、そこに流れるのは野生とスピリチュアリティが混ざり合う“アメリカの神話”のような空気である。

2. 歌詞のバックグラウンド

Fred Bear(1902–1988)は、近代アーチェリーの父と称される人物であり、自身の名を冠した「ベア・アーチェリー社」を創業した実業家でもあった。しかし何より彼は、自然を尊び、野生との共生を唱え続けた哲学者的なアウトドアマンであり、単なる狩猟家以上の存在として多くのハンターや自然愛好家に崇拝されてきた。

テッド・ニュージェント自身も、熱心なボウハンターとして知られ、その思想やライフスタイルにおいてFred Bearの影響を公言している。この曲は彼にとってただの追悼曲ではなく、“人生における原点と信仰”を音楽に刻んだ祈念碑的な作品なのだ。

ニュージェントはこの曲をライブでも頻繁に演奏し、特にハンターや自然愛好家たちの間では“アンセム”として熱く支持されている。また、彼の作品の中でも珍しく、攻撃性よりも感情の浄化と敬意を中心に据えた構成で、コアなロックファンからも高く評価されている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

There I was, back in the wild again
あの時の俺がいた――再び、野生の中に戻っていた

And I felt right at home where I belong
そこは俺が帰るべき場所、心から安らげる場所だった

I had that feelin’, comin’ over me again
あの感覚が再び俺を包んでくる

Just like it happened so many times before
何度も経験したあの瞬間のように

The spirit of the woods is like an old good friend
森の精霊は、まるで旧友のように俺に語りかけてくる

It makes me feel warm and good inside
そのぬくもりが、内側から俺を満たしてくれる

I knew his name and it was good to see him again
彼の名を思い出す、それが嬉しくてたまらなかった

Because in the wind, he’s still alive
風の中で、彼は今も生きているんだ

(参照元:Lyrics.com – Fred Bear)

この歌詞の随所に、自然との一体感、時間の循環、死者との再会といった霊的体験のような要素が込められており、ロックというより祈りの詩に近い。

4. 歌詞の考察

「Fred Bear」の本質は、死者を悼むことにとどまらず、その人物が遺した**“生き方の美学”を引き継ぎ、次世代に渡すこと”への決意**にある。ボウハンティングという行為が、単なるスポーツや趣味ではなく、自然との対話であり、自己の研ぎ澄ましであるという思想がこの曲を貫いている。

ボウと矢、森と風、足音と息遣い。そうした具体的なイメージの中に、「彼の精神は今もこの森の中にいる」という確信が息づいており、それは宗教的な信仰ともまた異なる、**アメリカ的な“個人と自然の神秘的な絆”**を感じさせる。

この曲でニュージェントは、ギターを使って弔いを捧げている。爆発的なリフも、咆哮するヴォーカルもここにはない。あるのは、故人への愛と、野生への尊敬と、自らの原点を見つめ直すための静かな強さだけだ。

その構成の中で、曲は少しずつ高揚していく。やがてそれは、ただの哀悼ではなく、「生者がその精神を受け継いで前に進む」ための祝福へと変化していく。この変化の過程が聴く者の胸に深く響き、「Fred Bear」は単なる追悼ソング以上のものとなっている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Simple Man by Lynyrd Skynyrd
     親から子への人生訓を静かに歌い上げる、魂のメッセージ。

  • Turn the Page by Bob Seger
     旅と孤独の中で、自分を見つめ直す大人のロック・バラード。
  • My Hometown by Bruce Springsteen
     失われゆく土地への郷愁と、記憶の中の人物へのオマージュ。

  • Dust in the Wind by Kansas
     命の儚さと存在の詩情を哲学的に歌い上げた名曲。

6. “ロックが祈りになる瞬間”

テッド・ニュージェントといえば、音速のギターと野獣のようなパフォーマンスで知られる男だ。しかし「Fred Bear」において彼は、静かな語り部となり、自然と死、人生と記憶について語りかける

この曲は、彼の“狩猟者としての自画像”ではなく、“人間としての根源的な感情”をさらけ出した稀有な楽曲であり、ジャンルやキャリアの枠を超えて、多くの人々に届いている。それは、死者を思う気持ちが、ジャンルも国境も超えて共有されるものであることの証でもある。

「Fred Bear」は、風の中に誰かの声を聞いたことがある人、森の静寂に胸を打たれたことがある人、そして大切な誰かを見送ったことがあるすべての人にとって、**ただのロックソングではない“人生の道しるべ”**となりうる。

それはまさに、自然と人間の間に存在する“見えない絆”を、ギターと詩によって表現した、テッド・ニュージェントにしか書けなかった鎮魂歌なのである。

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