Cheap Sunglasses by ZZ Top(1979)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Cheap Sunglasses(チープ・サングラス)」は、ZZ Top(ズィー・ズィー・トップ)が1979年にリリースしたアルバム『Degüello(デゲイヨ)』に収録された楽曲であり、彼らの持つブルースとファンク、そしてテキサス流のユーモアが最も洒脱なかたちで表現されたロックンロール・ナンバーである。

タイトルが示す通り、この曲の中心には「安物のサングラス」がある。
それは単なるアイテムではなく、“イケてる男”を演出するためのスタイルと虚飾の象徴であり、同時に“見られることを意識した生き方”そのものを風刺するモチーフでもある。

サングラスという小道具をめぐるこの楽曲には、自己演出と欺瞞、憧れと滑稽さ、そしてそれらすべてを包み込むクールさが入り混じっている。
ZZ Topのファッション・アイコンである“サングラス&ひげ”スタイルの原点が、まさにこの曲に込められているのだ。

2. 歌詞のバックグラウンド

『Degüello』は、ZZ Topがワーナー・ブラザーズへ移籍後初のアルバムであり、バンドにとっても音楽的な転機を迎えた作品である。従来のテキサス・ブギーに加えて、ジャズやファンク、R&Bの要素を取り込んだ実験性の高い作風が特徴で、「Cheap Sunglasses」もその代表曲として位置づけられる。

この時期のビリー・ギボンズは、ブルースの伝統に根ざしながらも、より都会的で洗練されたサウンドやイメージを模索していた。その結果がこの曲のユニークなグルーヴ感と、クールさと茶目っ気の絶妙なバランス感覚に結実している。

また、この楽曲のリフとソロは、ZZ Topの中でも特に有名なギタープレイのひとつであり、ミニマルでありながら耳に残る絶妙な構成美を誇る。ライブでも長らく演奏され続け、ファンからの支持も厚い1曲である。

3. 歌詞の抜粋と和訳

When you get up in the mornin’ and the light is hurtin’ your head
朝目覚めて、光が頭に突き刺さるようなとき

The first thing you do when you get up out of bed
ベッドから起きて最初にすること

Is hit the streets a-runnin’ and try to beat the masses
街に飛び出し、人混みをすり抜けながら

And go get yourself some cheap sunglasses
安物のサングラスを手に入れに行くんだ

Oh yeah, oh yeah, oh yeah
そうさ、そうとも、分かってるだろ?

(参照元:Lyrics.com – Cheap Sunglasses)

この冒頭からして、“日常の喧騒から自分を守るためのサングラス”というメタファーがすでに働いており、
ファッションのアイテムが、まるで都市生活における仮面のように機能していることを示唆している。

4. 歌詞の考察

「Cheap Sunglasses」がユニークなのは、それが“安物”のサングラスをあえて称賛している点にある。ここで重要なのは、サングラスが高価かどうかではない。
“自分のスタイルを作り出すこと”の重要性と、それがいかに安価なものであっても、堂々と使えばクールになり得るという逆説的な美学がこの曲には流れている。

これは、ZZ Topというバンドが一貫して表現してきた“テキサス的クール”とも密接に関わっている。
すなわち、ブランドでも流行でもなく、自分自身が心地よくあること、それが何よりのスタイルだという信念である。

また、歌詞全体を通じて、主人公はやや間抜けで、場違いな存在にも見えるが、それを恥じない。むしろそれを“自分らしさ”として押し出すことで、「失敗やズレも含めてスタイルにする」ロックの精神が表現されているのだ。

サングラスというのは、本来“目”を隠すものである。
それは、感情や真実を隠す手段でありながら、同時に他人から見られる自分を演出するツールでもある
つまり「Cheap Sunglasses」は、現代における“自意識と演出”というテーマを、軽快なブギー・リズムで描いた社会風刺ソングとしても聴ける。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Sharp Dressed Man by ZZ Top
    同じく外見とアイデンティティをめぐるテーマを扱った、都会的かつクールなナンバー。
  • Cars by Gary Numan
    “外界との隔たり”という現代的テーマをテクノ・サウンドで表現した名曲。
  • Stayin’ Alive by Bee Gees
    日常の中での自己防衛とスタイルをテーマにしたディスコ・クラシック。
  • Rock This Town by Stray Cats
    見た目と音で街を揺らすという、ロカビリー的なナルシシズムが光る曲。
  • Low Rider by War
    低く構えた姿勢がむしろ“スタイル”になるという、チカーノ文化の象徴的ファンク。

6. “サングラスの奥にあるスタイル”

「Cheap Sunglasses」は、ZZ Topの持つブルースルーツと都市感覚、そしてユーモアの三位一体が最もバランス良く表現された作品のひとつである。

安物でもいい。カッコつけでもいい。
重要なのは、“それを自分のスタイルとしてまっすぐ着こなす”という意志なのだ。

この曲が語っているのは、“お洒落”の話ではない。
むしろそれは、どうやって自分を守るか、どうやって生き抜くか、というロック的生存術なのである。

夜の街に飛び出し、サングラスをかける。
そこには何も隠すものがない、むしろ“隠すことで見せる”という逆説的表現が成立している。

だからこそ、この曲はただのファッションソングではなく、
自意識過剰な現代人の“仮面舞踏会”をブルースで踊らせる、痛快な人生讃歌なのである。

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