
発売日:2017年9月29日
ジャンル:ポップ、カントリー・ポップ、フォーク・ポップ、ソフトロック、アメリカーナ
概要
Miley Cyrusが2017年に発表した6作目のスタジオ・アルバム『Younger Now』は、彼女のキャリアにおいて大きなイメージ転換を示した作品である。ディズニー・チャンネルの『Hannah Montana』で国民的なティーン・スターとなり、その後『Can’t Be Tamed』(2010年)でアイドル像からの脱却を試み、『Bangerz』(2013年)でヒップホップ、EDM、挑発的なパフォーマンスを取り込んだポップ・スターへと変貌したMiley Cyrusは、2010年代のアメリカン・ポップにおける「自己再発明」の象徴的存在だった。さらに2015年の実験作『Miley Cyrus & Her Dead Petz』では、The Flaming Lips周辺のサイケデリック・ポップやローファイな実験性へ接近し、商業的なメインストリーム・ポップから大きく逸脱した。
その流れを踏まえると、『Younger Now』は一見すると保守的な作品に聴こえる。派手なビートや過剰な性的イメージ、サイケデリックな混沌は後退し、カントリー・ポップ、フォーク・ロック、ソフトロック、アメリカーナに根ざした穏やかなサウンドが前面に出ている。プロダクションは比較的シンプルで、アコースティック・ギター、ペダル・スティール風の響き、柔らかなドラム、温かいコーラスが中心となる。ここでMileyは、都会的なクラブ・ポップのスターではなく、テネシー出身のシンガーとして、自分のルーツへ戻る姿を提示している。
本作の背景には、彼女の個人的な再定義がある。『Bangerz』期のMiley Cyrusは、かつてのディズニー的な清純イメージを強く破壊する存在としてメディアに消費された。挑発的な衣装、過激なステージング、ヒップホップ文化の取り込み、性的な自己表現は、ポップ・スターとしての自由の宣言であると同時に、強い批判や論争の対象にもなった。『Younger Now』は、その騒がしい時期の後に発表された作品であり、過去の自分を否定するというより、さまざまな時期の自分を受け入れ直すアルバムである。
タイトルの「Younger Now」は、「今のほうが若い」という逆説的な言葉である。時間が進めば人は年を取る。しかし、Mileyがここで歌う「若さ」とは年齢ではなく、自己認識の軽さ、過去への和解、無理に反抗し続ける必要がなくなった状態を指す。かつての自分から逃げるのではなく、子どもの頃の自分、ディズニー時代の自分、破壊的なポップ・スターとしての自分、実験的な自分をひとつの連続した人格として受け止める。その過程で、彼女は「若返る」。つまり本作の若さとは、過去を消すことではなく、過去の重さを別の形で持ち直すことによって生まれる自由である。
音楽的には、Miley Cyrusの家系的背景も重要である。彼女の父Billy Ray Cyrusは、1990年代に「Achy Breaky Heart」で大きな成功を収めたカントリー・アーティストであり、Miley自身もアメリカ南部、ナッシュヴィル、カントリー音楽の文化圏と深く結びついている。『Younger Now』では、このルーツが明確に前面化される。だが、本作は純粋なカントリー・アルバムではない。あくまでメインストリーム・ポップの感覚を保ちながら、カントリーやフォークの音色を取り入れたポップ・アルバムである。そのため、伝統的なカントリーの厳密な様式美よりも、親しみやすいメロディと柔らかな自己告白が中心になる。
また、本作にはDolly Partonとのデュエット「Rainbowland」が収録されている。Dolly PartonはMiley Cyrusの名付け親としても知られ、カントリー・ミュージックの象徴的存在である。この共演は、単なるゲスト参加以上の意味を持つ。Mileyが自分のルーツ、家族的な音楽的系譜、南部的なポップ感覚へ戻ることを象徴する場面であり、同時に、寛容、多様性、理想主義をカントリー・ポップの明るい形で歌う試みでもある。
ただし、『Younger Now』は評価が分かれやすい作品でもある。『Bangerz』のような強烈な時代性や、『Plastic Hearts』(2020年)で後に見せるロック・シンガーとしての説得力に比べると、本作は全体に控えめで、衝撃性は弱い。サウンドも意図的に穏やかで、曲によっては安全にまとまりすぎている印象もある。しかし、その控えめさは本作のコンセプトとも関係している。『Younger Now』は、挑発によって注目を集めるアルバムではなく、自分の声とルーツを落ち着いた形で再配置する作品である。
日本のリスナーにとって本作は、Miley Cyrusをスキャンダラスなポップ・スターとしてではなく、アメリカン・ポップとカントリーの境界に立つシンガーとして聴くための重要なアルバムである。派手さを求めると物足りないが、彼女の声の強さ、メロディの素直さ、自己像の変化、そしてアメリカ南部的な音楽的背景に注目すると、本作の意義が見えてくる。『Younger Now』は、過去の自分を消し去るのではなく、より穏やかな光の中で見直すアルバムである。
全曲レビュー
1. Younger Now
オープニング曲でありタイトル曲でもある「Younger Now」は、アルバム全体のテーマを明確に提示する楽曲である。曲は、過去からの変化を認めながらも、自分は同じ人間であるというメッセージを中心にしている。Miley Cyrusはこの曲で、変化することと自己を失うことは同じではないと歌う。年齢を重ね、イメージを変え、さまざまな時期を通過しても、自分の核は残っている。その確認が、本作の出発点である。
音楽的には、軽やかなカントリー・ポップ/ソフトロックの質感が中心である。アコースティック・ギターと明るいビートが曲を支え、メロディは非常に親しみやすい。『Bangerz』期のような強いビートや攻撃的なプロダクションはなく、声と歌詞が前面に出る。サウンドは明るいが、単なる陽気さではなく、過去を見つめ直した後の穏やかな開放感がある。
歌詞では、「変わったけれど、失われたわけではない」という自己肯定が繰り返される。これはMileyのキャリアそのものに対する声明として読める。ディズニーの子役、挑発的なポップ・スター、サイケデリックな実験者、そしてカントリー・ポップへ戻るシンガー。そのすべてが断絶ではなく連続している。「Younger Now」は、過去の自分との和解を、軽やかなポップ・ソングとして表現した楽曲である。
2. Malibu
「Malibu」は、本作最大の代表曲であり、『Younger Now』の方向性を広く印象づけた楽曲である。タイトルのマリブは、カリフォルニアの海辺の地名であり、太陽、海、穏やかな生活、再生、愛の場所を象徴する。本曲は、Miley Cyrusがそれまでの騒がしいイメージから離れ、柔らかな愛と日常の幸福を歌う存在として再登場したことを示している。
音楽的には、アコースティック・ギターを基盤にした爽やかなポップ・ロックである。リズムは軽く、ギターの響きは清潔で、メロディは明るく開かれている。クラブ向けの強い低音や派手な電子音はなく、海辺の風景を思わせる透明感がある。Mileyの声も、過剰に力を入れず、自然なトーンで歌われている。
歌詞では、愛によって自分が穏やかな場所へ導かれたことが描かれる。マリブの海や空は、単なる背景ではなく、心の変化を映す風景である。かつて危険や刺激を求めていた自分が、穏やかな幸福を受け入れられるようになった。その変化が、シンプルな言葉で歌われる。ここには、自己破壊的なポップ・スター像からの距離がある。
「Malibu」は、非常に聴きやすく、明るい曲である一方、その素直さゆえに評価が分かれる面もある。『Bangerz』期の強烈な個性を期待するリスナーには穏やかすぎるかもしれない。しかし、本作のテーマである再生、自然体、ルーツへの回帰を最も分かりやすく示す曲として、アルバムの中心的役割を果たしている。
3. Rainbowland
「Rainbowland」は、Dolly Partonを迎えたデュエット曲であり、本作のカントリー的な背景と理想主義的なメッセージが最も明確に表れた楽曲である。Dolly Partonはカントリー音楽の巨人であり、Miley Cyrusにとっては家族的・精神的な存在でもある。そのため、この共演はMileyが自分のルーツへ戻ることを象徴する非常に重要な場面である。
音楽的には、明るいカントリー・ポップの形式を取っている。ギターや軽快なリズム、温かいコーラスが曲を支え、Dolly Partonの声が入ることで、楽曲にはクラシックなカントリーの親しみやすさが加わる。Mileyの声はDollyの声と対話するように響き、世代間の継承という意味も感じさせる。
歌詞では、「虹の国」という理想郷が描かれる。そこは人々が互いを認め合い、違いを受け入れ、平和に共存できる場所である。虹というモチーフは、多様性、LGBTQ+コミュニティ、希望、共存の象徴としても機能する。Miley Cyrusは以前から多様性や自己表現の自由を支持する姿勢を示してきたが、この曲ではそれをカントリー・ポップの明るい形で提示している。
「Rainbowland」は、メッセージが非常に直接的であるため、やや理想主義的に聴こえる部分もある。しかし、その素直さは本作の特徴でもある。皮肉や過激さではなく、明るい共存のイメージを歌うことによって、Mileyは自分のポップ・スターとしての影響力を別の形で使っている。
4. Week Without You
「Week Without You」は、アルバムの中でも比較的ロックンロール/カントリー・ロック色が強い楽曲である。タイトルは「あなたなしの一週間」を意味し、恋人やパートナーとの関係から一時的に離れたらどうなるかを想像する内容になっている。『Malibu』の穏やかな愛とは異なり、この曲では恋愛関係における息苦しさや独立心が描かれる。
音楽的には、軽快なギターとリズムが中心で、どこかレトロなロックンロール感がある。カントリー・ポップの明るさと、60〜70年代的なロックの軽やかさが混ざり、アルバムに動きを与えている。Mileyのヴォーカルも少し強めで、関係から距離を取ろうとする人物の意思が表れている。
歌詞では、相手がいない一週間に、自分が何をするかが描かれる。自由に出かけ、好きなことをし、自分を取り戻すような想像がある。これは関係の終わりを完全に宣言する曲というより、愛の中にある依存や束縛を一度疑う曲である。愛していても、常に一緒にいることが幸福とは限らない。自分の時間や自由を求める感覚が、明るい曲調の中に含まれている。
「Week Without You」は、『Younger Now』における恋愛表現の幅を広げている。アルバムは再生や愛を肯定するが、その愛は完全に無条件ではない。自分自身を保つために距離を取ることも必要である。その視点が、この曲にはある。
5. Miss You So Much
「Miss You So Much」は、本作の中でも特にバラード的で、喪失と愛情が濃く表れた楽曲である。タイトルは「とても恋しい」という意味で、非常に直接的な感情表現を持つ。Miley Cyrusの声の力が、派手なプロダクションではなく、素直なメロディの中で活かされている曲である。
音楽的には、アコースティック・ギターと穏やかなバンド・アレンジが中心で、カントリー・バラードに近い質感がある。テンポはゆったりしており、曲全体に温かくも寂しい空気が漂う。Mileyの歌唱は感情を強く込めながらも、過剰な演劇性にはならず、比較的抑制された表現になっている。
歌詞では、失う前からすでに相手を恋しく思うような感覚が描かれる。まだ存在しているものが、いつか消えてしまうことを意識する。愛は現在の幸福であると同時に、未来の喪失への不安を含む。この感情は非常に成熟している。単に「会いたい」と歌うのではなく、愛することの中にすでに別れの予感があることを示している。
「Miss You So Much」は、『Younger Now』の中で、Mileyのカントリー的な情感とポップ・バラードとしてのメロディセンスがよく結びついた曲である。派手さはないが、アルバムの内省的な側面を支える重要な楽曲である。
6. I Would Die for You
「I Would Die for You」は、愛のために死ねるという非常に強い献身をタイトルに掲げた楽曲である。この表現はポップ・ミュージックにおいて伝統的な誇張表現でもあるが、Miley Cyrusの歌唱によって、単なるドラマチックな言葉以上の重みを持つ。アルバムの中でも、愛と自己犠牲の関係を静かに描く曲である。
音楽的には、比較的ミニマルで、アコースティックな響きが中心である。サウンドは大きく盛り上がりすぎず、Mileyの声とメロディが前面に出る。こうした抑制されたアレンジは、歌詞の強い言葉を過剰に劇化せず、むしろ内面的な誓いとして響かせている。
歌詞では、相手への深い愛情と献身が歌われる。ただし、現代的な視点で聴くと、愛のために死ぬという表現には危うさもある。恋愛が自己消滅や自己犠牲と結びつくとき、その美しさと危険性は表裏一体になる。Mileyはこの曲で、その危うさを大きく批評するわけではないが、静かな歌唱によって、言葉の重みを感じさせる。
「I Would Die for You」は、アルバムの中で最も素朴な愛の歌の一つである。派手なフックよりも、声と感情の近さを重視した楽曲であり、『Younger Now』が目指した自然体の表現を象徴している。
7. Thinkin’
「Thinkin’」は、恋愛関係の中で考えすぎてしまう状態を扱った楽曲である。タイトルのくだけた表記からも分かるように、深刻な哲学ではなく、日常的な不安や疑念が中心にある。相手の行動や言葉を考えすぎ、自分の感情が揺れていく。その心理が、軽快なポップ・サウンドの中で描かれる。
音楽的には、リズムが比較的弾み、アルバムの中でも明るく動きのある曲である。カントリー・ポップの温かさに加え、ポップ・ロック的な親しみやすさもある。Mileyのヴォーカルは少し playful な表情を持ち、深刻になりすぎずに恋愛の不安を表現している。
歌詞では、相手が何を考えているのか、自分がどう見られているのかを考え続ける心の状態が描かれる。恋愛における不安は、必ずしも劇的な裏切りから生まれるわけではない。小さな沈黙、言葉のニュアンス、連絡の遅れが、思考を過剰に動かす。「Thinkin’」は、その日常的な恋愛心理を、軽やかなポップ・ソングにしている。
この曲は、アルバム全体の中で重すぎないアクセントとして機能する。『Younger Now』の恋愛表現が、理想化された愛や献身だけでなく、疑念や不安も含んでいることを示している。
8. Bad Mood
「Bad Mood」は、本作の中でも比較的暗く、内面の苛立ちを扱う楽曲である。タイトル通り、気分が悪い、機嫌が悪い、感情がうまく制御できない状態がテーマになっている。『Younger Now』は全体に穏やかな再生のアルバムだが、この曲ではその穏やかさの裏にある不安定さが表れる。
音楽的には、少し重いリズムと陰りのあるメロディが特徴である。カントリー・ポップの明るい響きからは少し距離を取り、よりブルージーでロック寄りの感触がある。Mileyの声も、柔らかさよりもざらついた感情を帯びている。彼女のヴォーカルが持つハスキーな質感が、曲のテーマとよく合っている。
歌詞では、自分の悪い気分が関係に影響を与えることへの自覚がある。気分の不安定さは、相手への攻撃性や自己嫌悪にもつながる。Mileyはここで、常に明るく前向きな人物として振る舞うのではなく、感情の波を抱えた人間として自分を描く。
「Bad Mood」は、アルバムの中で重要なバランスを作っている。『Younger Now』がもし全編を明るい再生の物語だけで進めていれば、やや単調になった可能性がある。この曲があることで、再生の過程にも苛立ちや不安が含まれることが示される。
9. Love Someone
「Love Someone」は、愛することの難しさと、自分の中にある感情の変化を扱った楽曲である。タイトルは非常にシンプルだが、歌詞では愛が必ずしも理想通りに続くものではないことが示される。誰かを愛することは、同時に傷つくこと、相手を手放すこと、自分の限界を知ることでもある。
音楽的には、アルバムの中でも比較的ポップで、軽快なリズムを持つ。カントリー・ポップの要素はあるが、よりメインストリーム・ポップに近い明快さもある。メロディは親しみやすく、曲全体に前へ進む力がある。
歌詞では、愛した相手に対して、もう同じようには向き合えないという感覚が描かれる。愛は永遠に変わらないものとして語られがちだが、実際には時間とともに変化し、時には終わる。Mileyはその変化を、過度に悲劇化せず、比較的冷静に歌う。これは本作の成熟した側面である。
「Love Someone」は、『Younger Now』における恋愛観の現実的な部分を担っている。愛を肯定するアルバムでありながら、すべての関係が救われるわけではないことも示している。
10. She’s Not Him
「She’s Not Him」は、本作の中でも特に重要な歌詞テーマを持つ楽曲である。タイトルは「彼女は彼ではない」という意味で、Miley Cyrusの恋愛や性的指向、自己認識に関わる複雑な感情を扱っている。相手の女性を愛することはできるが、その人は別の男性の代わりにはならない。ここには、愛情、比較、喪失、誠実さが絡み合っている。
音楽的には、静かで内省的なバラードである。アレンジは控えめで、Mileyの声が前面に出る。彼女のハスキーな歌声は、歌詞の複雑な感情を丁寧に伝える。派手なサウンドではなく、言葉のニュアンスが重要な曲である。
歌詞では、現在の相手への愛情と、別の相手への未練が同時に存在する。これは非常に正直で、同時に痛みを伴う状況である。相手を大切に思っていても、その人が別の誰かの空白を埋めることはできない。愛があるからこそ、相手を偽りの代替物として扱うことはできない。この誠実さが、曲の核心である。
「She’s Not Him」は、Miley Cyrusのアイデンティティ表現の面でも重要である。彼女はここで、単純な異性愛的ラブソングの枠を超え、複数の愛情や欲望が交錯する現実を歌っている。『Younger Now』の中でも、最も深く、最も複雑な感情を持つ楽曲の一つである。
11. Inspired
アルバムの最後を飾る「Inspired」は、希望、自然、未来への願いを歌うバラードである。タイトルは「刺激を受けた」「鼓舞された」という意味を持ち、アルバム全体の再生のテーマを静かに締めくくる。個人的な恋愛や自己変化を超えて、より広い世界へのまなざしが現れる楽曲である。
音楽的には、アコースティック・ギターを中心にしたシンプルな構成で、Mileyの声が非常に近く響く。過剰な装飾はなく、フォーク・ポップ的な素朴さがある。ラスト曲として、派手なクライマックスではなく、静かな余韻を選んでいる点が本作らしい。
歌詞では、自然、子どもたち、未来、地球、平和への願いが歌われる。個人的な再生だけでなく、自分が世界の中でどう生きるかという問いが含まれている。Mileyはここで、ポップ・スターとしての自己表現を、社会や未来への希望へつなげようとしている。
「Inspired」は、理想主義的で、非常に素直な曲である。そのため、人によってはややストレートすぎると感じる可能性もある。しかし、『Younger Now』というアルバムが、自己破壊や挑発ではなく、再生と誠実さを中心に置いた作品であることを考えると、この終わり方は自然である。アルバムは、過去の自分との和解から始まり、未来への穏やかな希望で終わる。
総評
『Younger Now』は、Miley Cyrusのキャリアの中で、最も穏やかでルーツ志向の強いアルバムの一つである。『Bangerz』の挑発的なポップ・スター像や、『Miley Cyrus & Her Dead Petz』のサイケデリックな実験性から距離を取り、カントリー・ポップ、フォーク・ポップ、ソフトロックの音色を用いて、より自然体のシンガーとしての自分を打ち出している。派手な変化ではあるが、同時にその変化は「原点回帰」としても機能している。
本作の中心には、過去の自分との和解がある。タイトル曲「Younger Now」が示すように、Mileyはここで過去を消去しようとしていない。むしろ、過去のさまざまな自分を受け入れることで、現在の自分を軽くしようとしている。ディズニー時代の自分も、挑発的な『Bangerz』期の自分も、実験的な時期の自分も、すべてが現在のMileyを形成している。その認識が、本作の穏やかな自己肯定につながっている。
音楽的には、カントリーやアメリカーナへの接近が最も大きな特徴である。ただし、伝統的なカントリー・アルバムというより、カントリーの音色を取り入れたポップ作品である。アコースティック・ギター、柔らかいリズム、明るいコーラス、素朴なメロディが中心となり、Mileyの声の強さを支える。特に「Malibu」「Miss You So Much」「I Would Die for You」「Inspired」では、彼女のヴォーカルが過剰な演出なしに響く。
一方で、本作はMiley Cyrusの作品の中で最も評価が難しいアルバムでもある。サウンドが穏やかでまとまっている反面、強烈な個性や実験性は抑えられている。『Bangerz』のような時代を揺さぶる衝撃も、『Plastic Hearts』のようなロック・ヴォーカリストとしての明確な説得力も、ここではまだ十分には現れていない。曲によっては安全にまとまりすぎている印象があり、アルバム全体の起伏もやや控えめである。
しかし、その控えめさは欠点であると同時に、本作の意味でもある。『Younger Now』は、スキャンダルや過激なイメージによって自分を証明するアルバムではない。Miley Cyrusが、自分の声、ルーツ、愛、家族的な音楽的背景を、落ち着いた形で再確認する作品である。これは商業的な衝撃よりも、キャリアの中で一度立ち止まり、自己像を整えるためのアルバムとして理解できる。
歌詞面では、愛、自由、再生、喪失、自己受容が繰り返し描かれる。「Malibu」では穏やかな愛が、「Week Without You」では関係からの距離が、「She’s Not Him」では複雑な性的・感情的アイデンティティが、「Inspired」では未来への理想が歌われる。全体として、歌詞は非常に直接的で、難解な比喩よりも素直な感情表現が中心である。この素直さも、本作の評価を分ける点である。洗練された複雑さを求めると物足りないが、Mileyの声と自己変化を聴く作品としては誠実である。
Dolly Partonとの「Rainbowland」は、本作の象徴的な場面である。Miley Cyrusがカントリーの系譜、自分の家族的背景、そして多様性へのメッセージを一つにまとめる曲であり、アルバムの理想主義を明確に示している。Dolly Partonの存在は、Mileyが単なるポップ・スターではなく、アメリカ南部の音楽的伝統とつながるシンガーであることを強調する。
日本のリスナーにとって『Younger Now』は、Miley Cyrusの派手なイメージだけでは見えにくい部分を知るためのアルバムである。ここには、挑発的なポップ・アイコンではなく、カントリーやフォークに根ざした声の強いシンガーがいる。特に、アメリカン・ポップにおけるカントリー回帰、ポップ・スターの自己再定義、若さと成熟の関係に関心があるリスナーには、興味深い作品である。
『Younger Now』は、Miley Cyrusの最高傑作と断言するには弱い部分もある。しかし、彼女のキャリアを理解するうえでは欠かせない作品である。過去のイメージを壊すことに疲れたポップ・スターが、今度は過去を受け入れることで自分を再構築する。その過程が、穏やかなカントリー・ポップとして記録されている。若返るとは、過去を消すことではない。過去を抱えたまま、もう一度軽くなることだ。『Younger Now』は、その感覚を歌ったアルバムである。
おすすめアルバム
1. Miley Cyrus – Bangerz(2013年)
Miley Cyrusがディズニー的なイメージから完全に脱却し、ヒップホップ、EDM、ポップを取り込んだ挑発的な作品。『Younger Now』の穏やかなルーツ回帰とは対照的だが、彼女がどのような過程を経て本作に至ったのかを理解するうえで重要である。
2. Miley Cyrus – Plastic Hearts(2020年)
Miley Cyrusがロック・シンガーとしての資質を前面に出した作品。80年代ロック、グラム、ポップ・ロックを取り込み、彼女のハスキーな声の魅力が非常に強く表れている。『Younger Now』の自然体路線とは異なるが、自己再発明の成功例として関連性が高い。
3. Dolly Parton – Coat of Many Colors(1971年)
Dolly Partonの代表的な初期作品で、家族、貧しさ、信仰、愛を素朴なカントリーの形で描いている。『Younger Now』におけるカントリー的な温かさや「Rainbowland」の背景を理解するうえで重要なアルバムである。
4. Kacey Musgraves – Golden Hour(2018年)
カントリー、ポップ、ソフトロック、ディスコ的要素を洗練された形で融合した作品。『Younger Now』と同じく、カントリーのルーツを持ちながらメインストリーム・ポップへ開かれたアルバムであり、現代カントリー・ポップの完成度の高い例として聴ける。
5. Lady Gaga – Joanne(2016年)
派手なポップ・スター像から距離を取り、カントリー、フォーク、ロック的なサウンドへ接近した作品。『Younger Now』と同様に、ポップ・スターがルーツ志向の音楽を通じて自己像を再構築するアルバムとして比較できる。

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