25 or 6 to 4 by Chicago(1970)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

『25 or 6 to 4』は、アメリカのロックバンドChicagoが1970年にリリースしたアルバム『Chicago (II)』に収録され、バンドの代表作の一つとして知られる楽曲である。その意味深で謎めいたタイトル、鋭く切り込むホーン・セクション、重厚なギターリフ、そして疾走感あふれる構成が特徴で、シカゴが持つロックとブラスの融合スタイルを象徴する一曲といえる。

タイトルの「25 or 6 to 4(25あるいは6分前の4時)」とは、深夜3時34分か3時35分を指す表現で、作詞者ロバート・ラム(Robert Lamm)が実際に曲作りをしていた際、ふと時計を見た瞬間の時間をそのまま歌にしたものである。つまりこの曲は、インスピレーションを待つ作詞者の深夜の葛藤と創作の苦悩をそのまま刻んだ“創作の現場を歌う”というユニークな作品である。

2. 歌詞のバックグラウンド

Chicagoは1969年に『Chicago Transit Authority』でデビューし、ジャズ、クラシック、ソウルなどを取り入れた知的かつエネルギッシュなロック・サウンドで一躍注目を集めた。翌1970年のセカンドアルバム『Chicago(通称:Chicago II)』では、より洗練されたアレンジと構成力を示し、バンドのアイデンティティを確立している。

『25 or 6 to 4』は、その中でもひときわ即効性のあるロック・アンセムとして位置づけられており、初期Chicagoのスタイルを象徴する曲となった。テリー・キャス(Terry Kath)の凄まじいギターソロと、ロバート・ラムの緊張感あるヴォーカル、そしてホーン・セクションの炸裂するようなアレンジが、リスナーを一気に深夜の創作空間へと引きずり込んでいく。

当初、その不可解なタイトルがドラッグの隠語であると誤解されることも多く、ラジオ放送禁止運動に巻き込まれたこともあった。しかし実際は、単に「今何時?」という素朴な疑問から生まれた言葉遊びにすぎない。この皮肉なズレもまた、当時の音楽シーンの空気を象徴するエピソードといえる。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元: Genius

Waiting for the break of day
夜明けをじっと待っている

Searching for something to say
何を言えばいいのか探しながら

Flashing lights against the sky
空にまたたく光

Giving up I close my eyes
あきらめて目を閉じる

Sitting cross-legged on the floor
床にあぐらをかいて座っている

25 or 6 to 4
3時34分か、3時35分

歌詞は、深夜の孤独と葛藤の空気を描き出す。創作が進まず、言葉が浮かばず、ただ時間が過ぎていく。そんなリアルな感情が、飾り気のない言葉で静かに描かれている。

4. 歌詞の考察

『25 or 6 to 4』は、創作の苦悩を描いたメタ・ソングである。アーティストが曲を作ろうとしているが、言葉が出てこない。時間は過ぎていき、夜は明けようとしている。焦燥感、不安、倦怠、そして奇妙な静寂が、この詩には漂っている。

面白いのは、「時間」自体が曲のテーマの中核にあることだ。語り手は“今”に閉じ込められている。過去でも未来でもなく、ただ「3時34分〜35分」という極端に具体的な時間の中で、動けずにいる。時計の秒針すら重たく感じるような、孤独で創造的な時間だ。

この曲が特別なのは、こうした“何も起こっていない瞬間”を、あたかも壮大なドラマのように見せる音楽的構成にある。無力感と焦燥、創作の揺れ動きを、激しいギターリフとホーンによって、逆に力強く表現しているのである。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Feeling Stronger Every Day by Chicago
    より感情的でメロディアスなバラード調だが、同じく時の流れと心の変化を歌う名曲。

  • Spinning Wheel by Blood, Sweat & Tears
    ホーンロックの代表的バンドによる哲学的なリフレインが印象的な一曲。

  • Vehicle by Ides of March
    ホーンセクションとヘヴィなギターリフが炸裂するブラス・ロックの名曲。

  • More Than a Feeling by Boston
    同じく“音の記憶”を扱った、メロディアスでドラマティックなロックソング。

6. 3時34分の音楽的焦燥——創造の“静寂”を描いたロック

『25 or 6 to 4』は、派手な演奏やエネルギッシュな展開とは裏腹に、描かれているのは「何もできない夜」の風景である。創作に携わるすべての人にとって、この感覚はあまりにリアルだろう。書けない、作れない、でもやめられない——その瞬間の孤独と、言葉にできない苛立ち。

この楽曲が秀逸なのは、そうした停滞の感覚を、音楽として爆発的に描いてしまった点にある。焦燥と無力を、ホーンとギターとドラムが“叫び”として代弁する。それはまるで、静けさを破壊するようなロックの逆説的構造であり、Chicagoの音楽的野心が凝縮された瞬間でもある。

そして何より、この曲が多くのリスナーにとって親しみを持たれるのは、語り手の「何も生まれない夜」に、多くの人が自分自身を重ねるからだ。何かを待っている、何かを探している、でもそれが見つからない。そんな夜の静けさを、私たちは知っているのだ。

『25 or 6 to 4』は、深夜のひとときを永遠に閉じ込めたような、不思議な時間の結晶である。その音を聴くたび、私たちはまた、自分だけの“夜”と向き合うことになる。

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