Underwear by Pulp(1995)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Underwear(アンダーウェア)」は、Pulp(パルプ)の代表作『Different Class』(1995年)に収録された楽曲であり、アルバム全体に流れる性愛・階級・ジェンダーの緊張関係を象徴するような、静かで、そしてじわじわと迫るようなラブソングである。

この曲で描かれるのは、「誰かのために自分を脱ぐ」という行為に潜む無防備さと危うさ
タイトルの「下着(Underwear)」が意味するのは、単に衣服の一部ではなく、自分という存在が“さらけ出される”瞬間のメタファーである。
歌詞の語り手は、相手が“間違った人”に身体を預けようとしているのを知りつつ、それを止めることもできず、ただその行為の“意味”を繰り返し問い続ける。
その声は優しく、懇願的でありながら、どこか諦めにも似た感情がにじんでいる。

Pulpの楽曲にはしばしば、“性”というテーマがコミカルに、あるいはシニカルに描かれることがあるが、「Underwear」はその中でも最も繊細かつ深く、“触れることの重さ”を語るバラードである。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Underwear」が収録された『Different Class』は、1995年というブリットポップ最盛期において、OasisBlurとは異なる社会的・文学的アプローチで一世を風靡した作品である。
Pulpの音楽はしばしば労働者階級と中流階級の断絶や、ジェンダーと欲望の不均衡といったテーマを扱ってきたが、この「Underwear」はそれらの主題を**“身体のやりとり”という最小単位の人間関係**にまで落とし込んだ作品といえる。

Jarvis Cocker(ジャーヴィス・コッカー)は、かつてこの曲について「“脱ぐ”という行為が持つ意味について歌いたかった」と語っており、これは単なるセクシャルな描写ではなく、「信頼」「後悔」「無力感」といった複雑な感情が織り込まれていることを示している。

音楽的には、Candida DoyleのシンプルなキーボードとSteve Mackeyのベースが全体を牽引しながら、Nick Banksのドラムが後半に向けて緊張感をじわじわと高めていく構成となっている。
静けさの中に潜むざわめき――それがこの曲の核心である。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Underwear」の印象的な歌詞を抜粋し、日本語訳を添える。

Why don’t you shut the door
And close the curtains
‘Cause you’re not going anywhere

ドアを閉めて
カーテンも引いてごらん
だって君はもう、どこにも逃げられないんだから

He’s come to take you home
And it looks like the end

あいつが迎えに来たよ
もう終わりって感じだね

Just remember that I will always love you
Just remember that I will always be there

覚えていてほしい
僕はいつだって君を愛していたし
いつだって、ここにいたんだ

Watching you undress
Doesn’t have to be love

君が服を脱ぐのを見てる
それが“愛”である必要なんて、ないのかもしれないけど

(歌詞引用元:Genius – Pulp “Underwear”)

4. 歌詞の考察

「Underwear」は、Pulpの楽曲の中でも特に感情の機微が複雑に交錯する作品である。
表面上は“恋人が他の男に身を預けようとしている”という状況が描かれているが、その核心にあるのは**“その行為の背後にある感情”への問い**である。

“服を脱ぐ”という行為には、単なる肉体的な意味以上のものが込められている。
それは自己をさらけ出すこと、相手に明け渡すこと、時には自分自身を失うこと。
この曲の語り手は、それを知っている。
そして、自分がその相手ではなくなったことを、静かに、でも痛切に受け入れようとしている。

「Watching you undress / Doesn’t have to be love(服を脱ぐのを見てる/それが愛である必要はない)」というラインは、欲望と愛のズレを象徴する名フレーズである。
この瞬間、彼女が他の男の前で下着姿になる理由は、愛でも欲望でもなく、あるいはもっと別の、虚無に近い感情かもしれない
それでも、語り手は彼女を責めず、ただ見つめる。
そこにあるのは、愛することと、奪うことの違いを理解してしまった者の静けさである。

(歌詞引用元:Genius – Pulp “Underwear”)

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Something Changed by Pulp
     偶然と運命、愛と選択について語るバラード。感情のやわらかさが「Underwear」と共鳴する。
  • The Night Josh Tillman Came to Our Apt. by Father John Misty
     性愛の場面に漂う不誠実さや自嘲を描く文学的ラブソング。
  • Elephant Gun by Beirut
     愛の消耗と繰り返しを、異国情緒を交えて描いた美しくも悲しい一曲。
  • To Bring You My Love by PJ Harvey
     愛に身を焦がし、破滅に近づいていくような執着をブルージーに歌った楽曲。

6. 脱ぐということ――“裸になる”という痛みと愛

「Underwear」は、Pulpというバンドが持つ性愛描写のリアリズムと情緒の深さを最も静かに、そして力強く伝える楽曲である。

性は、ただの快楽ではない。
服を脱ぐという行為には、心の鎧を外してしまうことの恐怖と、何かを差し出してしまう覚悟がある。
それを目撃する語り手の視線は、どこまでもやさしく、どこまでも切ない。

彼女はこれから別の男の前で服を脱ごうとしている。
その事実を前に、語り手は叫ぶことも、止めることもせず、ただその意味を問いかける。
それはまさに、“見守ること”しかできない愛の究極のかたちなのかもしれない。

「Underwear」は、静かな声で語られる、最も深い告白である。
だからこそこの曲は、誰かと“裸で向き合ったこと”のあるすべての人の胸に、静かにしみ込んでいくのだ。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました