アルバムレビュー:Apples by Ian Dury

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発売日: 1989年(推定)
ジャンル: ニューファンク、ポストパンク、トーキング・ブルース


生々しい果実の皮をむく——Dury流毒舌とユーモアが冴え渡る“果実”の宴

『Apples』は、Ian Duryが放つ、独自の言語遊戯とリズム感覚がぶつかり合う一作である。
彼の特徴である、下町の生々しさと風刺が、ニューファンクやポストパンクの要素と見事に融合している。
タイトルに込められた“果実”は、皮をむけば生々しい現実と甘酸っぱい哀愁が顔を出す、Dury独自の世界観を象徴している。

このアルバムは、前作『Lord Upminster』での実験的な試みに引き続き、
言葉遊びや社会への皮肉、そして個人的な孤独感を、ぶっきらぼうな語り口で表現している。
彼特有のトーキング・ブルース的な語りが、時に笑いを誘い、時に背筋に冷たいものを走らせる。


全曲レビュー

1. Bitter Harvest

冒頭を飾る一曲は、まるで熟しすぎた果実のように
甘さと苦さを同時に放つ。
Duryの特徴的な語り口と、重厚なグルーヴがアルバムの扉を開く。

2. Orchard of Lies

このトラックでは、都会の裏通りに咲く“果樹園”がメタファーとして用いられ、
虚飾と欺瞞がテーマとして展開される。
軽快なリズムに乗せたウィットに富んだリリックが印象的である。

3. Rotten Core

タイトル通り、内側から腐敗が進む現代社会への痛烈な風刺が炸裂する。
鋭い言葉と、ファンクのリズムが絡み合い、聴く者に不快なほどリアルな感覚を与える。

4. Juicy Disgrace

一見、軽妙なビートに乗ったポップな一曲だが、
その裏には個人的な挫折と社会的な諦念が隠される。
Duryの毒舌が、冷ややかな笑いとともに耳に残る。

5. Cider and Silence

アルバム終盤に配置されたこのバラードでは、
温かみのあるシンセと控えめなギターが、
孤独や無力感を柔らかく包み込みつつ、聴き手を内省へと誘う。


総評

『Apples』は、Ian Duryがこれまで築いてきたキャリアの延長線上にありながらも、
新たな表現の可能性を模索した実験作
である。
彼の語り口と独特なユーモアは、今なお新鮮な衝撃を与え、
生々しい現実と風刺の効いたメッセージが多くのリスナーに共感を呼ぶ。

この作品は、決して華やかなポップの枠に収まるものではなく、
むしろその“生の苦味”を敢えて前面に出すことで、
Duryならではの“真実の語り”を体現している。
皮をむけば見える、荒削りでありながらも情熱的な果実の姿を感じさせる一枚である。


おすすめアルバム

  • Ian DuryNew Boots and Panties!! (1977)
    初期のDuryの魅力と、下町的ユーモアが炸裂する名盤。
  • Lord Upminster – Ian Dury (1981)
    より洗練されたファンク・ディスコのリズムと、毒舌が光る実験作。
  • Talking HeadsRemain in Light (1980)
    ポストパンクとファンクが融合した、知性と狂気の共演。
  • The ClashSandinista! (1980)
    社会批評と音楽的実験が交錯する、パンクの精神を感じさせる一作。
  • Nick Lowe – Jesus of Cool (1978)
    独自の視点とユーモアが、音楽に新たな風を吹き込んだ逸品。

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