アルバムレビュー:Killers by Iron Maiden

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発売日: 1981年2月2日
ジャンル: ヘヴィメタル、ニューウェーブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル(NWOBHM)


暴力と叙情の狭間で鳴る——鉄と血の第二章

デビュー作からわずか10か月後、Iron Maidenはセカンド・アルバムKillersを発表した。
このアルバムは、バンドの初期衝動をより鋭利に研ぎ澄ませた、疾走と闇の物語である。

ここでプロデューサーに迎えられたのは、のちにDef LeppardやAC/DCも手がける名匠Martin Birch。
彼の手腕によって、サウンドは格段に洗練され、スティーヴ・ハリスの楽曲構成力も大きく花開いている。

一方で、ヴォーカルはまだポール・ディアノ時代。
彼の荒々しくもブルージーな歌声は、暴力性と哀愁を同居させ、ブルース・ディッキンソン以後のメイデンとは異なる感情の温度を伝えている。
まさに“ストリート出身のメタル”としてのIron Maidenの完成形がここにある。


全曲レビュー

1. The Ides of March

ミリタリー風ドラムと不穏なギターで始まる短いインスト。
まるで嵐の前の静けさを描いたような、アルバムの序章にふさわしい導入。

2. Wrathchild

イントロのベースリフで始まるメイデンの代表曲。
「怒れる子供」というタイトルが示すように、孤独と怒りの感情を剥き出しにした一曲。ライブでも常連。

3. Murders in the Rue Morgue

エドガー・アラン・ポーの短編小説をモチーフにした物語性の強い楽曲。
スロースタートから一気に加速する構成がドラマティックで、サスペンスのような緊張感が漂う。

4. Another Life

リズム重視のグルーヴィーなナンバー。
現実逃避と虚無をテーマにした歌詞と、ディアノの飾らない歌唱が相まって、独特の人間臭さを醸し出す。

5. Genghis Khan

インストゥルメンタルながら、戦乱と破壊のヴィジョンが鮮烈に浮かび上がる。
スピーディでテクニカルな演奏が冴え渡る楽曲。

6. Innocent Exile

殺人の冤罪をテーマにした、暗くテンションの高いトラック。
ベース主導のダークな展開が印象的で、歌詞と音のリンクも強い。

7. Killers

タイトル曲にして、鋭く切り込むギターとスリリングなリフが光る名曲。
“私はキラーだ”と語る視点の歌詞は、狂気と冷酷さを含みつつも、どこか悲哀を帯びている。

8. Prodigal Son

本作の中では異色のバラード調トラック。
アコースティックな導入と浮遊するギターが、異世界のような情景を描く。
メイデンの中でも最も“静かな美しさ”をもった一曲。

9. Purgatory

スピード感と展開力に優れた疾走曲。
天国と地獄の狭間、“煉獄”をテーマに、混沌と焦燥のエネルギーが炸裂する。

10. Drifter

アルバムを締めくくるライブ向きのナンバー。
“Walk away!”のコールアンドレスポンスが特徴で、バンドと観客の一体感を前提とした構成が光る。


総評

Killersは、初期Iron Maidenの“完成形”であり、NWOBHMという潮流のなかでも極めて完成度の高い作品である。
ここには、デビュー作の生々しさと攻撃性を残しつつも、構成美とサウンドの緻密さが加わっている。

また、ポール・ディアノが歌った最後のスタジオアルバムとしても重要であり、
彼の“ストリート・スピリット”がバンドに与えた情熱と危うさが、この作品を一層ドラマティックにしている。

以後、ブルース・ディッキンソン加入とともにメイデンは大きく飛躍していくが、
このKillersには“牙を剥いた原石の輝き”がある。
それは今なお色褪せることなく、鉄と血の匂いをまとったまま、聴く者に突き刺さってくる。


おすすめアルバム

  • Iron Maiden / Iron Maiden
     バンドの起点。Killersの荒々しい兄弟作。未完成だからこその魅力あり。
  • Number of the Beast / Iron Maiden
     ブルース・ディッキンソン加入後初のアルバムにして、メイデンの飛躍点。
  • Ace of Spades / Motörhead
     メイデンと並ぶストリート感覚の鋼鉄サウンド。NWOBHM精神の核。
  • Sad Wings of Destiny / Judas Priest
     メロディと叙情、構成力の原点として。メイデンの系譜を知るうえで必聴。
  • Welcome to Hell / Venom
     より過激でプリミティブなヘヴィメタル。暗黒面のエネルギーに触れたいなら。

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