発売日: 2024年4月19日
ジャンル: シンセポップ、ポップ・ロック
- 内省と再生の詩学——新たな章の幕開け
- 全曲レビュー
- 1. Fortnight (feat. Post Malone)
- 2. The Tortured Poets Department
- 3. My Boy Only Breaks His Favorite Toys
- 4. Down Bad
- 5. So Long, London
- 6. But Daddy I Love Him
- 7. Fresh Out the Slammer
- 8. Florida!!! (feat. Florence + The Machine)
- 9. Guilty as Sin?
- 10. Who’s Afraid of Little Old Me?
- 11. I Can Fix Him (No Really I Can)
- 12. loml
- 13. I Can Do It with a Broken Heart
- 14. The Smallest Man Who Ever Lived
- 15. The Alchemy
- 16. Clara Bow
- 総評
- おすすめアルバム
内省と再生の詩学——新たな章の幕開け
2024年4月19日、テイラー・スウィフトは11枚目のスタジオ・アルバムThe Tortured Poets Departmentをリリースした。
この作品は、前作Midnightsから約1年半ぶりとなる新作であり、彼女の音楽的進化と内面的探求をさらに深めたものとなっている。
アルバムは16曲で構成され、発売と同時にデジタル版として15曲のボーナストラックを含む『The Anthology』もサプライズリリースされた。
制作には、長年のコラボレーターであるジャック・アントノフとアーロン・デスナーが参加し、シンセポップやポップ・ロックを基調としたサウンドスケープが展開されている。
歌詞は、自己探求、愛、喪失、再生といったテーマを深く掘り下げ、スウィフトの成熟したソングライティングが光る内容となっている。
批評家からは、その率直で感情的な表現が評価される一方で、音楽的な一貫性については意見が分かれた。
全曲レビュー
1. Fortnight (feat. Post Malone)
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、ポスト・マローンとのデュエットによるシンセポップ・ナンバー。
別れた恋人への未練と再会への期待が交錯する歌詞が印象的で、二人のボーカルが絶妙に絡み合う。
2. The Tortured Poets Department
タイトル曲であり、自己の内面と向き合う苦悩を詩的に描写。
ミニマルなピアノとエレクトロニクスが融合し、静謐ながらも緊張感のあるサウンドが特徴的。
3. My Boy Only Breaks His Favorite Toys
愛する人からの傷つけられる経験を、子供の遊びに例えたメタファーが秀逸。
キャッチーなメロディと対照的な切ない歌詞が心に残る。
4. Down Bad
失恋後の自己嫌悪と再生への葛藤を描いた楽曲。
ダークなシンセサウンドと力強いビートが、感情の起伏を巧みに表現している。
5. So Long, London
ロンドンでの思い出と別れをテーマにしたバラード。
アコースティックギターとストリングスが織りなす美しいアレンジが、郷愁を誘う。
6. But Daddy I Love Him
周囲の反対を押し切っての恋愛を描いた曲。
ティーンエイジャーの反抗心と純粋な愛情が交錯する歌詞が印象的で、アップテンポなポップサウンドが特徴。
7. Fresh Out the Slammer
過去の過ちから解放された喜びと不安を歌ったナンバー。
ファンキーなリズムとソウルフルなボーカルが、新たな始まりへの期待感を高める。
8. Florida!!! (feat. Florence + The Machine)
フローレンス・ウェルチとのコラボレーションによる力強い楽曲。
逃避行と自己発見の旅をテーマに、二人のボーカルが情熱的に絡み合う。
9. Guilty as Sin?
禁断の恋における罪悪感と快楽の狭間を描写。
ジャジーなコード進行とムーディーなサウンドが、大人の恋愛模様を演出する。
10. Who’s Afraid of Little Old Me?
自己肯定感の低さと他者からの評価に対する葛藤を歌った曲。
ロック調の力強いサウンドが、内なる怒りと反抗心を表現している。
11. I Can Fix Him (No Really I Can)
問題を抱えた恋人を救おうとする女性の心理を描く。
ポップなメロディとは裏腹に、共依存的な関係性の危うさを示唆する歌詞が印象的。
12. loml
「love of my life」の略をタイトルに冠したバラード。
人生最愛の人への深い愛情と喪失感を、シンプルなピアノ伴奏で情感豊かに歌い上げる。
13. I Can Do It with a Broken Heart
失恋の痛みを抱えながらも前に進もうとする決意を歌ったアップテンポな曲。
ダンサブルなビートと前向きな歌詞が、リスナーに勇気を与える。
14. The Smallest Man Who Ever Lived
自己中心的な元恋人への皮肉と怒りを込めた楽曲。
シニカルな歌詞と軽快なメロディが、痛烈なメッセージを際立たせる。
15. The Alchemy
恋愛における化学反応的な魅力と魔法のような瞬間を描写。
ドリーミーなサウンドスケープと幻想的な歌詞が、恋の高揚感を表現している。
16. Clara Bow
1920年代の女優クララ・ボウを題材に、名声と孤独の二面性を探る。
レトロな雰囲気のアレンジと現代的な視点が融合した、アルバムの締めくくりにふさわしい一曲。
総評
『The Tortured Poets Department』は、Taylor Swiftのキャリアにおいて、最も言葉と沈黙が拮抗する作品である。
詩人という象徴を通じて、彼女は「語ること」の困難と、「語らずにはいられない衝動」との間を揺れ動く。音楽的には過去作との接続も感じさせつつ、より実験的で抽象的な表現へと踏み出している。特に、メタ的視点と文学的モチーフを融合させた手法は、彼女の作家性の深化を示している。
このアルバムは、ただの失恋ソング集ではない。それは感情の「記録」であり、記憶と物語の境界を曖昧にする詩的実験の記録なのだ。
内面と対峙するリスナー、言葉の力を信じる人、そしてTaylor Swiftのより深層に触れたいファンにとって、本作は確かな体験となるだろう。
おすすめアルバム
-
folklore / Taylor Swift
ポスト・ポップ時代の幕開けを告げた内省的名作。The NationalやBon Iverとのコラボが本作との接続点に。 -
Norman Fucking Rockwell! / Lana Del Rey
同じく詩的メランコリアとアメリカーナを融合させたアルバム。物語性と比喩の濃度が共鳴する。 -
I Am… Sasha Fierce / Beyoncé
二重性をテーマにしたコンセプチュアル作品。パフォーマーとしての自己と内面の葛藤を描く点で共通。 -
Stranger in the Alps / Phoebe Bridgers
心の断片を静かに紡ぐ歌詞世界は、Swiftの内面描写と呼応する。アコースティックの冷たさと温もりが共存。 -
Sleep Well Beast / The National
Aaron Dessnerのプロダクションと政治的・感情的な言語が、アルバムの空気感に共通点を持つ。
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