What Is Hip by Tower of Power(1973)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

『What Is Hip?』は、1973年にリリースされたTower of Powerタワー・オブ・パワー)のサード・アルバム『Tower of Power』に収録されたファンク/ソウルの金字塔的楽曲である。この曲は、ひとことで言えば「ヒップとは何か?」を問う哲学的かつ痛烈な風刺ソングであり、その問いかけは時代やジャンルを超えて今日に至るまで響き続けている。

楽曲の語り手は、トレンドや流行に夢中になる現代人に対して、「本当のヒップネス(かっこよさ/洗練)とは何なのか?」と鋭く問いかける。スタイル、音楽、服装、態度――そのどれもが“ヒップ”とされる一方で、流行はすぐに廃れ、ヒップだったものもあっという間に“ダサい”ものとして捨て去られる。そんな社会の移ろいや軽薄さに対して、皮肉とユーモアを交えて描かれているのがこの楽曲の本質である。

ただのファンク・ダンスナンバーに留まらず、その背後には「流行を追いかけることと、自己を保つことの境界はどこにあるのか?」という、現代人のアイデンティティにまつわる普遍的なテーマが込められている。鋭いブラスとグルーヴィなリズムにのせて届けられるメッセージは、聴けば聴くほど深みを増す。

2. 歌詞のバックグラウンド

Tower of Powerは、1968年にカリフォルニア州オークランドで結成されたファンク・バンドであり、特に力強いホーン・セクションとソウルフルなボーカルで知られる。『What Is Hip?』が収録されたアルバム『Tower of Power』は、バンドにとって初めてBillboard Top 20にチャートインした作品であり、その商業的成功とともに音楽的成熟を示した重要作である。

この楽曲の作詞・作曲を手がけたのは、リーダーでありサックス奏者のEmilio Castillo、バリトンサックスのStephen “Doc” Kupka、そしてベーシストのFrancis Rocco Prestiaという、バンドの中核を担うメンバーたち。彼らは自身のシーンで感じていた「本物」と「流行りもの」との区別の曖昧さ、そして業界やリスナーの姿勢に対する違和感をユーモラスかつ真剣に描いた。

また、この時期はアメリカ社会全体が変革と不安定さを抱える時代でもあり、“ヒップ”という言葉自体がカウンターカルチャー的な意味を帯びていた。Tower of Powerは、そうした時代精神を音楽に取り込み、ジャンルやエスニシティを超えたリスナーたちに向けて、この挑発的な問いかけを投げかけたのである。

3. 歌詞の抜粋と和訳

So you want to jump out your trick bag
トリックバッグから飛び出したいって?

And ease on into the hip bag
そして“ヒップ”な世界に軽やかに入りたいのかい?

ファンクなスラングと共に、「流行を追う人」の心情と動機が軽妙に表現される。「ヒップな人になりたい」という欲望の裏にある“自己演出”がテーマだ。

What is hip?
ヒップって何だ?

Tell me, tell me, if you think you know
君はわかってるつもりかもしれないが、本当にわかってるのかい?

サビでは繰り返しこの問いが発せられる。“ヒップ”という曖昧な価値観を疑い、問い続けるスタンスが全編に渡って貫かれている。

You became a part of a new breed
君は新しい種族の一員になったつもりでいる

Been smoking only the best weed
最高の草だけを吸って、ヒップな気取りだ

風刺が冴えわたるライン。流行に乗っているつもりが、ただの模倣者になっている現代人の矛盾を鋭くえぐる。

引用元:Genius – Tower of Power “What Is Hip?” Lyrics

4. 歌詞の考察

この曲が特異なのは、「ファンク」というジャンルの中で、ここまで“自己批評的な問いかけ”を真正面から提示している点にある。通常、ファンクは踊ること、グルーヴすること、自由であることを祝福する音楽である。だがTower of Powerはその音楽的快楽の中に、「そのかっこよさは誰が決めた?」という批評の視点を忍ばせている。

「What is hip?」というフレーズは、音楽、ファッション、思想、ライフスタイルすべてに通じる問いであり、それを考えること自体が“本当にヒップな姿勢”なのかもしれない。自分がヒップだと思っていた瞬間には、すでに“時代遅れ”になっている――この逆説は、まさに時代を超えた真理である。

また、“hip”という言葉の響きそのものが、曖昧さと流動性を含んでおり、その音の連なりすらリスナーに問いかけを投げるようなリズム感を持っている。Tower of Powerはこの曲を通じて、「かっこよさとは何か?」という問いを、ファンクの文法で突き詰めたのである。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Pick Up the Pieces” by Average White Band
    白人によるファンクバンドの代表格。グルーヴ感と批評性を兼ね備えた一曲。

  • Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin)” by Sly & The Family Stone
    自由とアイデンティティをテーマにした、ファンク史の中でも重要な一曲。
  • “Flashlight” by Parliament
    ファンクのカオスと哲学を極めたようなディープなトラック。

  • Soul Vaccination” by Tower of Power
    バンド自身による“ソウルの免疫注射”をテーマにした自己言及的な名曲。

6. “ヒップ”とは何か――永遠に未完の問い

『What Is Hip?』という問いは、Tower of Powerが発した一過性のキャッチフレーズではない。それはむしろ、音楽やカルチャーに関わるすべての人間が、時代ごとに問われる永遠の命題である。スタイルを追うことと、自分を貫くこと。その狭間で揺れ動く心を、Tower of Powerはファンクの形式で大胆に可視化した。

それゆえにこの楽曲は、単なる70年代のファンク・クラシックにとどまらず、カルチャー批評としての機能も果たしている。音楽とリズムで踊らせ、言葉で考えさせる――それこそが『What Is Hip?』の真の“ヒップさ”なのかもしれない。答えを出すのではなく、問いを残す。その潔さと深さこそが、この曲の時代を超えた魅力である。


歌詞引用元:Genius – Tower of Power “What Is Hip?” Lyrics

コメント

タイトルとURLをコピーしました