
楽曲の概要
「What Is Hip?」は、Tower of Powerが1973年に発表した3作目のアルバム『Tower of Power』のオープニング曲であり、バンドを代表するファンク・ナンバーの一つである。作詞・作曲はバンドリーダーでテナー・サックス奏者のEmilio Castillo、バリトン・サックス奏者Stephen “Doc” Kupka、ドラマーDavid Garibaldi。Castilloがプロデュースを担当し、Lenny Williamsがリード・ボーカル、Francis “Rocco” Prestiaがベースを弾いている。高速で反復されるベース、細かく組み立てられたドラム、鋭く切り込むホーン・セクションが一体となった、Tower of Powerの演奏スタイルを端的に示す曲である。
タイトルの「What Is Hip?」は、「何がヒップなのか」「本当に格好いいとはどういうことなのか」という問いを意味する。歌詞は流行の服装や髪型を追いかければ「ヒップ」になれると考える人物をからかいながら、流行そのものがすぐ古くなるという矛盾を指摘する。しかし説教調にはならず、問いに明確な答えを出さない。その内容を、当時としても非常に鋭く洗練されたファンクで演奏しているところに、この曲ならではのユーモアがある。
歌詞の概要
歌詞の主人公は、自分も「ヒップ」な人間になろうとしている。そこで髪を伸ばし、服に金をかけ、流行しているものを身につける。しかし、そうした外見を整えても何かが足りない。そこで歌は繰り返し「ヒップとは何なのか」と問いかける。髪型なのか、服装なのか、それとも別の何かなのか。語り手は答えを教えるのではなく、流行を追いかける行為そのものに疑問を向けていく。
中心にあるのは、「流行を追えば追うほど、本当の格好よさから離れてしまうかもしれない」という逆説である。今日もっとも新しいものも、時間が経てば時代遅れになる。しかも自分がようやく流行に追いついた頃には、周囲はすでに次へ移っているかもしれない。そう考えると、「ヒップであること」を外から確認できる記号だけで定義すること自体が難しくなる。
ただし、この曲は「流行を気にする人は愚かだ」と単純に切り捨てているわけではない。タイトルを何度も問いとして繰り返すことで、聞き手自身にも判断を委ねている。本当に格好いい人は、自分が格好いいと証明する必要があるのか。そもそも「ヒップ」を定義した瞬間、それはもうヒップではなくなっているのではないか。軽妙な言葉の裏側に、流行と自己像をめぐる意外に根本的な問いが置かれている。
制作背景・時代背景
Tower of Powerは、Emilio CastilloとStephen Kupkaを中心にカリフォルニア州オークランド周辺で発展したバンドである。1970年代初頭のベイエリアでは、ロック、ソウル、ファンク、ラテン音楽などが混ざり合っており、Tower of Powerはその環境から、強力なリズム・セクションと大編成のホーンを組み合わせた独自のサウンドを作り上げた。David Garibaldiは後年、「What Is Hip?」を当時のベイエリアにおける変化や社会的な揺れと結びついた「その時代の曲」と振り返っている。
曲の発想にはGaribaldiのリズム面でのアイデアが大きく関わっている。Rocco Prestiaの回想によれば、GaribaldiはBen E. Kingの「Way Down Low」から着想を得て、一つの音を中心にベースが細かく反復するアイデアを提示した。そこからPrestiaの16分音符を主体とするベースとGaribaldiのドラムが組み合わされ、CastilloやKupkaらによって曲とホーンの要素が形作られていった。歌詞の中心的な発想とタイトルはKupkaによるもので、当時頻繁に使われていた「hip」という言葉について考えたことが出発点だった。
『Tower of Power』は、Lenny Williams、Chester Thompson、Lenny Pickettらを含む強力な編成がそろった時期の作品でもある。Castilloにとっては初めて自らプロデュースを担当したTower of Powerのアルバムであり、バンドはバークレーのリハーサル・スペースで週5日ほど演奏しながらアレンジを練っていたという。「What Is Hip?」の異常なほど緻密なアンサンブルは、スタジオで部品を組み合わせただけのものではなく、こうした反復的なリハーサルから生まれたバンド・サウンドだった。
歌詞の抜粋と和訳
この曲では長い引用をしなくても、「hip」と「passé=時代遅れ」という二つの概念の対立を押さえれば歌詞の仕掛けが理解できる。今日もっとも格好いいものが、明日には古く見える可能性がある。それなら「ヒップであること」を髪型や服装のような外面的な特徴から判断するのは難しい。
さらに面白いのは、曲自身が非常に「ヒップ」な演奏を聞かせながら、その言葉を疑っていることである。Tower of Powerは格好よさを言葉で定義する代わりに、リズム、タイミング、アンサンブルによって実演しているようにも聞こえる。この歌詞と演奏の関係が、「What Is Hip?」のユーモアをさらに強くしている。
サウンドと歌詞の考察
「What Is Hip?」を特徴づける最大の要素は、Rocco PrestiaのベースとDavid Garibaldiのドラムが作るリズムである。Prestiaは16分音符、つまり一拍を細かく四つに分ける速い動きを大量に弾いているが、すべての音を同じ強さで伸ばしているわけではない。左手で弦を押さえる時間を短くして音を切り、実際に鳴る音と打楽器のような短い音を混ぜる。このためベースは低音でコードを支えるだけでなく、もう一台のパーカッションのように聞こえる。音数は多いのに重くならず、細かな粒が連続して前へ転がっていく。
Garibaldiのドラムは、そのベースに単純なロックのビートを重ねているわけではない。キック、スネア、ハイハットのアクセントを細かく配置し、それぞれがPrestiaのベースと噛み合ったり、少し違う場所を強調したりする。一般的なファンクでは一拍目を強く意識させる演奏も多いが、「What Is Hip?」では一小節の内部に細かなアクセントが大量に存在する。そのため聞き手は明確な拍を感じながらも、リズムの表面では常に何かが動いているように感じる。速い曲なのにただ走って聞こえないのは、この細かな配置が強固なグルーヴを作っているからだ。
そこへTower of Powerのホーンが入ると、リズムはさらに立体的になる。ホーンは長いメロディを滑らかに吹くより、短い音を鋭く切り、リズム隊の隙間へ打ち込むように演奏する。Kupka自身もTower of Powerのホーンについて、音を短く切り、リズム・セクションにぶつけるような演奏が特徴だと説明している。「What Is Hip?」ではまさにその方法が聞ける。ホーン・セクションが装飾としてリズム隊の上に乗るのではなく、ベースやドラムと同じ巨大なリズム装置の一部として働いているのである。
Lenny Williamsのボーカルも、流麗なソウル・バラードで聞かせる歌唱とはかなり違う。短い言葉をリズムへ強く当て、問いかけや叫びをホーンのフレーズと応答させることで、声そのものがアンサンブルの一部になる。タイトルの問いが何度も繰り返されても単調にならないのは、Williamsが発音、アクセント、声量を変えながらリズムとして処理しているからだ。歌詞の主人公が「ヒップとは何だ」と答えを探し続ける一方、バンドは立ち止まらず猛烈な精度で前進していく。この対照が曲に独特の可笑しさを生んでいる。
曲の構成にも、歌詞と結びついた仕掛けがある。基本的なグルーヴは非常に強く反復されるが、その上ではホーンのアクセント、ボーカル、オルガンなどが次々と入れ替わる。土台を変えずに表面だけを変化させることで、「同じものの中で何が新しく見えるか」という感覚が生まれる。これは流行について歌う歌詞とも相性がいい。服や髪型を変えても人間そのものが別人になるわけではないように、曲も基本のグルーヴを維持したまま、さまざまな要素を着替えていく。
そして「What Is Hip?」の最大の皮肉は、流行を疑う歌が、Tower of Powerでもっとも特徴的なスタイルを示す録音の一つになったことである。歌詞は、時代に合わせて外見を変え続けることをからかっている。それに対して演奏で目立つのは、Prestiaのミュートを多用したベース、Garibaldiの細分化されたドラム、短く鋭いホーンという、流行を追った表面的な装飾ではなく、長いリハーサルによって作られたバンド固有の技術である。「ヒップとは何か」という問いに歌詞は答えないが、曲を聴くと一つの答えが浮かぶ。流行の記号を身につけることより、自分たちにしかできない演奏を作ることのほうが、結果として長く格好よく聞こえるのである。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Soul Vaccination」 by Tower of Power
同じ1973年の『Tower of Power』に収録されたファンク・ナンバー。PrestiaとGaribaldiによる細かなリズムの組み合わせがさらに複雑で、Tower of Powerのグルーヴが単なる「ホーンの派手なファンク」ではないことがよく分かる。
「You Got to Funkifize」 by Tower of Power
1972年の『Bump City』収録曲。「What Is Hip?」の完成されたリズム・セクションへ至る過程を聞ける一曲で、ホーンをメロディ楽器だけでなく、短いアクセントを刻むリズム楽器として扱う発想がすでに明確である。
「Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin)」 by Sly & The Family Stone
ベイエリア・ファンクを代表する重要曲。Larry Grahamのスラップ・ベースはPrestiaとは奏法が異なるが、ベースを伴奏からグルーヴの主役へ押し上げた点で、「What Is Hip?」と聞き比べる価値がある。
「Pick Up the Pieces」 by Average White Band
1970年代ホーン・ファンクを代表するインストゥルメンタル。Tower of Powerよりリズムはゆったりしているが、短いホーン・リフとリズム隊を一体化させ、反復そのものを強力なフックへ変える方法に共通点がある。
「The Chicken」 by Jaco Pastorius
ベースがグルーヴの中心に立つファンクとして、「What Is Hip?」の低音に惹かれた人に向く。Prestiaとは音の置き方が異なるが、細かなフレーズを弾きながらもリズムの中心を失わないという点で比較すると面白い。
まとめ
「What Is Hip?」は、「格好よさとは何か」という簡単には答えられない問いを、Tower of Power自身の圧倒的なグルーヴで包んだ曲である。歌詞は髪型や服装を変えて流行を追いかける行為をからかい、今日の最先端も明日には古くなるという矛盾を突く。その一方で演奏では、Rocco Prestiaの細かく切られた16分音符のベース、David Garibaldiの複雑だが正確なドラム、短く鋭いホーンが一つのリズムとして動く。流行について歌いながら、流行に依存しないほど個性的なバンド・サウンドを完成させたことが、この曲の最大の面白さである。
参照元
- Tower of Power公式サイト
- Mix Magazine
- Guitar World
- Red Bull Music Academy Daily
- MusicBrainz

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