発売日: 2013年9月3日
ジャンル: インディーロック、ガレージロック、ブリットポップ
“前日譚の続編”が描く、成熟と再生のロンドン譚
Sequel to the Prequelは、Babyshamblesにとって6年ぶり、3枚目となるスタジオ・アルバムである。
タイトルからしてメタ的かつアイロニカルなこの作品は、過去と現在を行き来しながら、バンドとしての再生と、ピート・ドハーティの内面の変化を静かに浮かび上がらせている。
前作に続いてStephen Streetがプロデュースを担当し、より洗練されたブリットポップ風のアレンジが全面に押し出されている。
The Libertinesの活動再開直前というタイミングもあり、どこか終章のような、あるいは再序章のような気配も漂う作品である。
全曲レビュー
1. Fireman
ノイジーで粗削りなロックナンバー。
ピートらしいイギリス的ユーモアと皮肉が込められた一曲で、バンドの“まだ終わっていない”という意思表明にも聴こえる。
2. Nothing Comes to Nothing
淡々とした口調で人生の無常を歌い上げる。
「何も得られず、何も失わない」というフレーズには、諦念と希望が入り混じる。
メロディの美しさが静かに胸に響く佳曲。
3. New Pair
ギターリフが軽快に転がるポップな一曲。
「新しい靴を履けば、世界も変わるかもしれない」といった小さな希望が詰まっている。
4. Farmer’s Daughter
フォーキーな音像に乗せて、どこかノスタルジックな情景が描かれる。
自由と孤独をテーマに、内省的な語りが展開される。
5. Fall From Grace
優雅で穏やかなメロディの裏に、“堕落”という重たいテーマが潜む。
自己の矛盾や変化を受け入れる過程が繊細に描かれる一曲。
6. Maybelline
軽妙なロックンロール・ナンバー。
タイトルは化粧品のブランドだが、表層と本質のズレをテーマにした皮肉なラブソングにも聴こえる。
7. Sequel to the Prequel
アルバムタイトルを冠した中心曲。
曖昧な時間軸、語り手の不確かさ、現実と幻想の混交——ピート・ドハーティの詩世界が凝縮されている。
キャバレーのような洒落たムードもあり、異色の魅力を放つ。
8. Dr. No
レゲエ/ダブ調のリズムを取り入れた実験的な楽曲。
イアン・フレミングの小説や映画のように、スパイ的な言葉遊びが散りばめられている。
9. Penguins
子どもが描いたような無垢な比喩が印象的な曲。
ピートのユーモアと遊び心が溢れており、肩の力が抜けた温かさがある。
10. Picture Me in a Hospital
穏やかでメロディアスな楽曲。
ピートが過去の入院体験を元に書いたとされ、回復や癒しへの渇望が静かに表現されている。
11. Seven Shades of Nothing
空虚さを多層的に捉えようとする試み。
タイトル通り、“無”にさえ複数の色があると語る、詩的で哲学的な内容。
12. Minefield
人生や愛情を“地雷原”にたとえたラストナンバー。
美しいメロディの裏で、常に危うさと緊張感が漂う。
結末の見えない旅路を象徴するような終曲である。
総評
Sequel to the Prequelは、Babyshamblesというバンドの終わりなき物語における、静かな節目となるアルバムである。
若き日の激情や混沌は影を潜め、代わりにそこにあるのは成熟と内省、そしてやや皮肉な希望だ。
Stephen Streetの手腕によって、アルバム全体はコンパクトで洗練された印象を与え、ピートの詞世界がよりクリアに響いてくる。
その語り口はもはや“問題児のロック”ではなく、“ひとりの詩人の再生録”に近い。
過去に囚われつつも、それを笑い、また歩き出す——そんな姿がこのアルバムには刻まれているのだ。
おすすめアルバム
- Pete Doherty – Grace/Wastelands
ピートのソロ作。よりフォーキーで詩的な彼の側面が堪能できる。 - The Good, the Bad & the Queen – The Good, the Bad & the Queen
ブリットポップ以後の都市と記憶を描いたコンセプト作。ピートと通じる世界観がある。 - Blur – Think Tank
ポップと実験性が交錯する終盤期ブラーの作品。ピート的視点からも読み解ける。 - The Libertines – Anthems for Doomed Youth
ピートとカールの再会作。成熟した眼差しとロックの理想が再び交差する。 - Babyshambles – Shotter’s Nation
本作の前作にあたる重要作。混沌から秩序へと向かう過程がここにある。
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