Bark at the Moon by Ozzy Osbourne(1983)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Bark at the Moon」は、Ozzy Osbourneが1983年に発表した3枚目のソロ・アルバム『Bark at the Moon』のタイトル・トラックであり、彼のキャリアを象徴する代表曲の一つです。楽曲のタイトルは直訳すると「月に向かって吠える」となり、そのイメージから連想される“狼男”や“モンスター”の存在がストーリーの中心に据えられています。

しかし、この曲が単なるホラー・ファンタジーとしての娯楽作品にとどまらないのは、その背後に「異端者」や「社会の中で抑圧された存在」への共感、そして「復讐」や「復活」といった強烈な感情が込められているからです。歌詞では、一度は滅ぼされた“狂気の存在”が再び蘇り、かつて自分を否定した世界に牙を剥くという物語が展開されていきます。

このように、「Bark at the Moon」は、異形の存在=Ozzy Osbourne自身のメタファーとも読み解くことができ、アウトサイダーとしての自覚と、そこから這い上がる力強い自己再生の物語が描かれています。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Bark at the Moon」が制作された1983年当時、Ozzy Osbourneは大きな転機を迎えていました。ソロデビュー作『Blizzard of Ozz』(1980年)と『Diary of a Madman』(1981年)で大成功を収めたものの、ギタリストのRandy Rhoadsが1982年に飛行機事故で急逝。精神的にも音楽的にも大きな穴が空いた状態で、彼は新たな相棒としてギタリストのJake E. Leeを迎え、より攻撃的かつメロディアスな方向性へと舵を切ることになります。

「Bark at the Moon」はそのJake E. Leeとの新体制で生まれた最初の代表曲であり、Ozzy自身の“復活”の象徴として位置づけられています。当時のヘヴィメタル界は、Judas PriestやIron Maiden、Dioなどの活躍によって急速に進化しており、Ozzyは自身の存在感を再び確固たるものにする必要がありました。

この楽曲には、そのような「自分はまだ終わっていない」という意志が強く込められており、仮に歌詞の中では“モンスター”が復活して吠えているように見えても、それは音楽界に再び姿を現したOzzy自身の雄叫びなのです。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Bark at the Moon」の印象的な一節と和訳を紹介します。引用元:Musixmatch – Ozzy Osbourne / Bark at the Moon

“Screams break the silence / Waking from the dead of night”
「静寂を切り裂く叫び/真夜中の墓場から目を覚ます」

“Vengeance is boiling / He’s returned to kill the light”
「復讐の炎が煮えたぎる/奴は光を殺すために戻ってきた」

“Then they had to die / Trapped in the middle of hell”
「そして、奴らは死ぬしかなかった/地獄の只中で罠にかかった」

“Now there’s no escape from the wrath of this madman”
「今やこの狂人の怒りから逃れる術はない」

“And they all pray for the hunter / But he’s howling at the moon”
「皆が“狩人”の救いを祈る/だが奴は、月に向かって吠えているのさ」

このように、歌詞全体がまるでホラー映画の脚本のように展開されていきますが、その“モンスター”の存在には、ただの恐怖ではなく、苦しみ、怒り、孤独、そして誇りが重ねられていることがわかります。

4. 歌詞の考察

「Bark at the Moon」は、単なるホラー的世界観の表現ではなく、社会に受け入れられない者が抱える怒りと悲しみ、そして再起の意志を描いたメタファー的作品です。歌詞の中で描かれるモンスターは、善と悪、光と闇の境界に立ち、もはや自分を“人間”とは見なされていない存在です。しかし、それでも彼は生きており、自分を否定した世界に対して牙を剥く。

これはまさに、Ozzy Osbourne自身の歩みと重なるモチーフです。Black Sabbathを解雇され、世間から“狂気”と見なされながらも、ソロとして驚異的な復活を果たした彼の人生は、まさしく“月に向かって吠える狼男”のような物語だったと言えるでしょう。

また、ランディ・ローズ亡き後の新たな章の始まりを告げるこの曲には、Jake E. Leeのギターが大きな役割を果たしています。クラシカルかつアグレッシブなリフとソロは、Ozzyの闇と光を支えるサウンドスケープとして、歌詞のテーマと完全に融合しています。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Heaven and Hell” by Black Sabbath
     善悪の揺らぎと自己認識のテーマを扱ったオジー脱退後の名曲。

  • “Holy Diver” by Dio
     ヒーローと怪物の境界を描いたメタルの代表的叙事詩。

  • “Looks That Kill” by Mötley Crüe
     80年代的ビジュアルメタルとパワフルな復讐劇を融合させた楽曲。

  • The Number of the Beast” by Iron Maiden
     宗教と狂気のモチーフをダークに描いたスリリングな名作。

  • “Shout at the Devil” by Mötley Crüe
     オカルティックで挑戦的なテーマが、Bark at the Moonと呼応。

6. 狼男の咆哮――自己復活のメタファーとしてのモンスター

「Bark at the Moon」は、Ozzy Osbourneの音楽的・精神的復活を高らかに告げる楽曲であり、その物語性とキャラクター性によって、聴く者に強烈な印象を与え続けてきました。1980年代以降のヘヴィメタルが、“恐怖”や“異端”を単なるエンターテイメントにとどめず、“生存のメッセージ”として昇華させていった象徴的な一曲でもあります。

それは、“世間に受け入れられなかった者が、月の下で自分の声を取り戻す”という美しい神話のような瞬間であり、今もなお多くのリスナーにとって、自分自身の内なる“モンスター”を肯定してくれる楽曲となっているのです。


「Bark at the Moon」は、異端の咆哮、闇からの再誕、そして孤独の誇り。Ozzy Osbourneがその存在を全世界に知らしめた“復活の夜明け”を告げる、伝説的スラッシュ・ゴシック・アンセムである。

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