
発売日: 1991年5月21日
ジャンル: パワーポップ、ロック
80年代の低迷を経て復活を狙ったカムバックアルバム
1979年のデビューアルバム Get the Knack でパワーポップの代表格となった The Knack だが、急激な成功とメディアの反発により、一時解散を余儀なくされた。その後、1981年の Round Trip を最後に表舞台から姿を消していたが、1991年に10年ぶりのスタジオアルバム Serious Fun をリリースし、カムバックを果たした。
本作のプロデューサーには Don Was(The Rolling Stones、Bonnie Raitt、Iggy Pop などを手掛けた名プロデューサー) を起用し、80年代のサウンドを引き継ぎつつも、90年代のオルタナティブロックの潮流を意識したモダンなアプローチを試みている。また、バンドはオリジナルメンバーである Doug Fieger(Vo, Gt)、Berton Averre(Gt)、Prescott Niles(Ba) を中心に再集結し、新たに Billy Ward(Dr) を迎えての制作となった。
しかしながら、本作は商業的な成功には至らず、当時の音楽シーンではグランジやオルタナティブロックの台頭 によって、The Knack のパワーポップは時代遅れと見なされてしまった。とはいえ、本作にはバンドのエネルギーが蘇った楽曲が多く収録されており、The Knack の隠れた名盤として再評価されるべき作品 である。
全曲レビュー
1. Rocket O’ Love
アルバムのオープニングを飾る、パワフルなロックンロールナンバー。シングルカットされたが、大きなヒットには至らなかった。カラッとしたギターサウンドと軽快なリズムが特徴的。
2. I Want Love
ミドルテンポのロックナンバーで、Doug Fieger のボーカルが際立つ。The Knack らしいキャッチーなメロディが光る一曲。
3. Serious Fun
アルバムタイトルにもなっている楽曲で、ややニューウェーブ的なサウンドを取り入れた実験的なナンバー。疾走感のあるギターが印象的。
4. One Day at a Time
ヘヴィなギターリフが特徴の楽曲。従来の The Knack にはなかった、ハードロック的なアプローチが見られる。
5. River of Sighs
ブルースロック的な要素が強いミドルテンポのナンバー。Doug Fieger のソウルフルな歌声が際立つ。
6. Permission to Come Aboard
オールドスクールなロックンロールナンバーで、バンドの原点回帰を感じさせる。
7. (I’ve Got to) Find My Way Back Home
アップビートなパワーポップナンバーで、The Knack のエネルギーが存分に詰まった楽曲。
8. Reason to Live
シリアスな歌詞が印象的な楽曲。90年代のオルタナティブロック的な影響を受けているような雰囲気がある。
9. Dancing Over the Waves
穏やかなメロディが特徴の楽曲。The Knack の中では珍しい落ち着いたアレンジ。
10. Harder on You
勢いのあるギターリフが特徴的なロックナンバー。
11. Chinatown
アルバムのラストを飾る楽曲で、ジャジーな雰囲気を持つ異色のトラック。
総評
Serious Fun は、The Knack の再起を懸けた意欲作 であり、90年代のロックシーンに適応しようとした試みが垣間見える。プロデューサーの Don Was の手腕もあり、サウンドは従来の The Knack よりも重厚で、ややモダンなアプローチを採用 している。しかし、「My Sharona」のような爆発的なヒット曲はなく、リスナーに強い印象を残すことができなかった。
また、リリース当時は Nirvana をはじめとするグランジブーム が席巻していた時期であり、The Knack のようなキャッチーでポップなロックは、時代にそぐわないものとして扱われたことも、商業的失敗の一因となった。しかし、アルバム単体としては、The Knack の演奏力やメロディメイキングのセンスが十分に発揮されており、彼らのカタログの中でも過小評価されがちな作品 である。
おすすめのリスナー:
- The Knack のパワーポップサウンドをさらに掘り下げたい人
- 90年代のオルタナティブロックの影響を受けたバンドの進化を知りたい人
- Cheap Trick や The Cars などのロックバンドの後期作品が好きな人
おすすめアルバム
1. Cheap Trick – Busted (1990)
The Knack と同じく、80年代の不振を経て90年代にカムバックを狙った作品。
2. The Cars – Door to Door (1987)
ニューウェーブとパワーポップを融合させたバンドの、ややシリアスな方向性を示した作品。
3. The Romantics – In Heat (1983)
The Knack の影響を受けたバンドで、キャッチーなメロディが特徴。
4. Material Issue – International Pop Overthrow (1991)
90年代初頭に登場した、The Knack の影響を受けたパワーポップバンドの名盤。
5. Hoodoo Gurus – Magnum Cum Louder (1989)
80年代のパワーポップと90年代のオルタナロックの橋渡し的な作品。
Serious Fun は、The Knack が90年代のロックシーンに適応しようとした意欲作であり、シンプルなパワーポップからより幅広い音楽性へと進化しようとした試みが詰まったアルバム である。商業的には失敗に終わったものの、バンドの歴史を振り返る上で、重要な一作であることは間違いない。
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